③
悪いことは、どこまでも重なっていくものだ。結局、お金は失くしたまま家に帰り、そのことを母親に正直に話すしかなくて。
「お金を落とした!? あんた、一体いくら渡したと思ってるの!」
激昂する義母。頬を叩かれ、痛みと恐怖に晶子は怯えるしかなかった。何度も謝罪を繰り返すも、義母の怒りは収まらない。
「ごめんなさい、ごめんなさいお義母さん……」
「財布は此処にあるのに、お金だけ落としたってどういうこと? どうせ、ろくでもないことに使ったんでしょう!?」
「ち、違う」
「ちょっとした家事もまともに出来ないなんて、本当に使えない子ね! 育ててあげてる恩もわからないなら、高校なんか行かないでさっさと就職でも何でもして、この家から一日でも早く出て行ってほしいわ!」
汚物でも見るかのような目で、そう吐き捨てて。義母は踵を返すと、二階に居る自分の愛娘を呼ぶ。
「愛華ー? 二人で外食行かない? お寿司でもステーキでも、何でも良いわよー!」
「マジ? 行く行く、前から気になってたイタ飯行きたーい!!」
どたどたと、騒がしい足音が遠ざかって行き。しばらくして、晶子を放ったらかしにしたまま、二人は出かけてしまった。父親は今日、職場の人達と飲み会だと言っていたから夜中になるまで帰って来ないだろう。
しん、と静まり返る空間。誰もいない筈なのに、まるで見慣れた家具達までもが晶子を蔑んでいるようで。晶子はたまらず、着の身着のままふらふらと外へ出た。
「私は……ここに居ちゃいけないんだ」
でも、それなら何処に行けば良い? 見慣れた道を行き、目的を見つけられないまま歩き続ける。やがて、空からは大粒の雨が降り始めても、晶子は歩くのを止めなかった。
傘なんか持っていなかった。それどころか、財布も時計も無い。携帯電話なんてものは、今になっても持たせてもらえなかった。
晶子は、独りだった。
「う、うう……」
最早、雨まで私の存在を否定するのか。家にも、学校にも、そして外にまで嫌われた。私という存在を受け入れてくれる居場所なんて、この世にはきっと用意されていないのだ。
神様とは、なんて残酷な存在なのだろうか。
「うぅ、ひっく……」
雨足が強くなっていくにつれ、人通りは更に減っていく。夜闇が深まり、最早人影どころか足元さえよく見えない程だった。だから、すぐ脇の路肩に漆黒の高級外車が停まったことになんかわからなかった。車から誰かが降りてきたことにも気がつかなかった。
「どうしたんだ、お嬢さん。こんな雨の中で、傘を忘れたのか? それとも……泣いていたのか?」
そう声を掛けられるまで、誰かが駆け寄ってきてくれたことになんか気がつかなかった。はっとして、声の持ち主を振り返る。
その優しい声には、聞き覚えがあったから。
「……おや、きみは……前に会ったことがあるような」
世界の全てに否定された晶子に、傘をさしてくれた唯一の人。『王子様』は再び、晶子の元に現れたのだった。
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