第6話 私と先輩と短パンの隙間からはみ出てる15センチのアレ
「監督・・・相手の選手、先輩に釣られなくなってきましたね・・・」
「ああ・・・」
相手選手の集中力が元に戻り、プレーの精度が上がってきたのだ。
レシーブでも先輩の下にボールが集まらない、来てもボールをセッターの下へ飛ばすことができなくなってきたのだ。
先輩自身も苦しそうな顔をし、大量の汗をかいている。
監督の頬に冷や汗が伝う。
「これは・・・時間切れか・・・」
「時間切れ?」
「ああ・・・照をよく見ろ。」
「えっ・・・はっ!」
先輩をよく見ると・・・
アレが少しずつ小さくなっていた。
「流石のあいつでも1試合フルで硬くさせたままでいるのは無理だったんだ・・・もうあいつは・・・限界だ。」
「そん・・・な・・・」
「そしてもう一つ、相手は1セットじっくりあいつのアレを見たせいで、アレに馴れてしまったんだ。もうちょっとやそっとのあれでは反応しないだろう・・・。」
「嘘・・・それじゃあ・・・」
「今はあいつらの頑張りを信じるしかない。」
その思いも虚しく第2セット後半、勢いがついた相手チームの猛攻に耐えしのぐのが精一杯になってしまい、ついにはこのセットを取られてしまった。
セット間のタイムアウト中、選手全員が監督の元へと集まる。
「いいか、3セット目はサイドを広く使っていけ、あとボールが前で落ちてるぞ、足を使って拾っていけ。」
『はい!』
監督のアドバイスに選手が呼応する。
しかし、全員明らかに疲弊している。
特に先輩、コート外に設置されたパイプ椅子に座ったままぐったりしている、アレも。
そんな先輩に監督が声をかける。
「照・・・お前は下がれ。」
「!?」
「そ、そんな!監督!」
先輩、そして周囲の選手達にもどよめきが走る。
「お前はもう限界だ・・・」
「そんな!俺はまだやれま」
「お前・・・もう勃たないんだろ・・・」
「っ!?」
どうやら図星だったようだ。
外から見ても分かる、明らかに1セット目のときよりパワーダウンしている。
「このまま続ければお前・・・再起不能になるぞ。」
「・・・」
先輩は下を向き、俯いている。
全国大会出場か、男としての選手生命か、その選択を迫られているのだ。
「お前ほどの選手をここで終わらせるわけにはいかない。だからもう下が」
「嫌です!!」
監督の言葉を遮り、先輩ははっきりと言った。
そう、先輩は止まれないんだ。
「確かにこのまま続ければ俺の選手生命が終わってしまうかもしれない。でも、ここで引いたら一生後悔する気がするんです!今、この仲間たちと一緒にバレーができるのは今年だけなんです!だから・・・俺は俺の全てを賭けます!!」
「照・・・お前・・・」
「だから監督!行かせてください!」
先輩は真っ直ぐ監督を見ている。
迷いの無いその瞳で。
その熱意を感じた監督も
「・・・わかった。行って思う存分暴れてこい!!」
「はい!!」
先輩を送り出す覚悟をしたようだ。
「よーし!お前ら!行くぞ!」
『おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
全員が気合を入れ、コートへと向かう。
先輩もヨロヨロになりながら立ち上がるが、すぐに倒れそうになってしまう。
私は、そんな彼を横から支えた。
「大丈夫ですか?先輩。」
「ああ・・・約束したからな・・・これ以上かっこ悪い姿見せらんねぇよ。」
「フフッ・・・そうですね。」
先輩はこれから精・・・じゃなくて生死を賭けた戦いに赴くのだ。
そんな先輩に私ができることがあるだろうか?
少しでも先輩の力になれること・・・先輩を少しでも元気付けること・・・あっ、一つあった。
「先輩・・・私は先輩に今こんなことしかできません・・・でも、精一杯応援してますよ!」
そう言って私は、
先輩のボールとポールを思いっきり握り締めた。
「ぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
先輩は消え入りそうな声で悲鳴を上げ、しばらく俯いたがすぐに顔を上げ、
「気合、入ったぜ!」
笑顔で言った。
そして、アレも復活していた。
試合は一進一退の攻防となった。
調子が戻った先輩とそれに呼応するかのように調子を上げていくチームメイト。
相手チームも負けず劣らずの気迫で迫ってくる。
『最強の囮』と『はみ出しゾーン』二つの技を駆使してもなかなかリードができない。
そして試合は24対23で私たちのチームがリードし、後一点で勝利できるとこまで迫った。
しかし、相手も黙っていない。
「あっ!先輩に三枚もブロックがついている!」
こちらのエースである先輩に対して相手が三人もブロックについているのだ。
これでは先輩のアタックでも決めるのは難しい。
かといって他の先輩たちも疲労で、相手を打ち抜くことのできるスパイクを打つことができない。
ここで相手の得点を許せば、相手に勢いを与えてしまう。
そんな重要な局面、先輩は
「俺に持ってこーい!!!」
と全力で叫んだ。
その意思をセッターも汲み取り、先輩へとボールを上げる構えを取る。
それは相手にも伝わり、三枚のブロッカーが先輩のスパイクを弾き返さんと構えを取る。
先輩がスパイクへの助走を始めたその瞬間なんと先輩は、
自ら短パンの裾を上げあえてアレを外界へと出したのだ。
その謎の行為に相手の選手は一瞬動きが止まってしまった。
その隙を先輩は見逃さなかった。
「これで終わりだあああああああああああああ!!」
先輩が叫ぶ。
「一毛ええええええええええええええええええええええええええええ!!」
私も無意識のうちに叫んでいた。
そして、先輩のスパイクは相手コートを打ち抜いていた。
『いよっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
チーム全員が両手を上げて歓喜した。
勝ったのだ、私たちはこの激闘を制した。
「い・・・今は・・・!!間違いない、まさかあの歳で習得する者がいようとは・・・」
「監督・・・今のアタックって・・・」
「ああ、今のはスパイクの助走の瞬間、あれをポロリすることで相手を困惑させその隙を突く必殺アタック・・・『変態速攻だ!』」
「だからどっかのバレーボールマンガの必殺技ぱくるのやめてください!!」
試合終了の笛が鳴り、選手達が次々とその場から撤収していく。
他のチームの試合も全て終了し、結果を確認すると私たちのチームはなんと1位!全国大会に出ることができる!
選手達は笑顔でいる人、感動して涙を流す人、まだきつい練習が続くのかとげんなりする人など様々だ。
そして、私と先輩は
「かっこよかったですよ、先輩。」
「かっこよかっただろ、後輩。」
二人、笑顔でハイタッチをした。
これが短パンの隙間からはみ出てる15センチのアレが紡ぐ、私と先輩の、ひと夏の青春だ。
ちなみにこの後、バレーボール界で不チンアタッカーというあだ名の選手が大活躍することを、私たちはまだ知らない。
私と先輩と短パンの隙間からはみ出てる15センチのアレ 膝毛 @hizage
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