Last NAME 閃光の英雄と闇の奏者 第十二章

精霊玉

神風抄国建国とセカイが終わるとき

戦乱によって荒廃した街の中を二人の少年が歩いていた。

「なあ祐一、お前さ―この状況どう思う?」

銀髪に深い藍色の目をした少年、天吹 紅藍は隣を歩く相棒に尋ねた。

「お前の父親は全く責務を果たせていないと思うね。今のこの町の状況がそれをよく表していると思うな」

紅藍の相棒であり、狭間一族最後の生き残り、狭間祐一は言った。

「表しているか。確かにそうだな。……それにしても責務、ねぇ。……ていうかその責務は初代国王陛下が決めたことだろう?まったく子孫にまで残すようなまねはやめてほしいな。そいつ自身がずっと背負って行くならまだしも」

黒白の一族でもあり、玉京国の当代国王の次男として生まれた紅藍にとって、王の責務は煩わしいものとしてしか思っていなかった。そもそも一人がすべてを背負うなどおかしい。紅藍はそう思っていた。

「何か特別な理由でもあるんじゃないの?そうでもなきゃ歴史書に残されているような性格の人がわざわざそんな真似するとは思えないね」

紅藍の様子を見て祐一が言った。

「それに、あの人。うちの一族に伝わっていることによればあの人、親友を助けるために人であることを捨てたらしいよ」

「は?」

千尋の話は紅藍にとっては初耳だったらしい。

「え?お前知らなかったわけ?」

「しらなーいね」

そう言って紅藍はそっぽを向いた。そのままふらりと姿を消したものだから祐一にとってはたまったものではない。

「あのバカ!今度はどこいった―‼?」

そういうと祐一は通りを猛然と駆けて行った。




 その様子を見ていた二人のうちの一方が言った・

 「へぇ、あれが愛紀那の『先見』で見たキミの後を継ぐ二人のうちの一人か。きみとは似ていないね」

高い塔の屋根の部分に立っている千尋は傍らに座っている凛珠に言った。その言葉に凛珠は憮然とした様子で返す。

「あいつに愛紀那の『先見』の力で見たようなことができるとは思わんな。あんながきに何ができる?」

凛珠のその言葉に千尋が笑って返す。

「そうかな。僕としてはああいうタイプじゃないとキミの一族と修一の一族の戦いに終止符なんて打てないと思うけどね。きみみたいな真面目なタイプの人間だと無理だと思うな」

その言葉に凛珠は千尋を睨みつけた。さすがに癪に障ったらしい。

「気に障ったなのなら謝るよ。それにしても、今回は出てくるかねぇ、修一のやつは」

千尋の目がすっと細められる。凛珠はその言葉には答えず空の彼方を見ていた。



 その後、紅藍は(あまりにも今の国の有様に業を煮やしたのかどうかは知らないが)父親に反旗を翻して軍の起こし、玉京国に代わって神風抄国を建国した。そして、玖翠一族を殲滅し、長きにわたった戦いに終止符を打った。

それはまるで

凛珠がかつて通った道をなぞるように。


そして、愛紀那が『先見』の力で見た通りに



 「結局こうなるのかよ。すまないな、祐一。巻き込んでしまって」

王城の城下を見渡せるベランダから髪を風になびかせ、紅藍は隣に立つ祐一に言った。その言葉に祐一は首を振った。

「いや、謝る必要はないね。選んだのは自分だし」

その様子に紅藍は何も言えなかった。そのとき不意に頭上から声が降ってきた。

「……ここまで俺たちとそっくりだと、なんかいらついてくるな」

その声に紅藍と祐一は顔を挙げてみてぎょっとした。

なにせ、そこにいたのは凛珠と千尋だったのだ。




「俺が誰だかわかるか?」

凛珠の問いに二人は茫然としたまま答えない。

「ソウ、二人ともぽけらとしちゃってるよ」

千尋が二人の様子を見て言った。凛珠はその言葉に対して言う。

「その……ぽけら、か?としているというのなら俺が誰だかわかったということだと思うがな」

その言葉に対して紅藍が言った。

「お前さ、蒼天華 凛珠……だろう?」

その言葉に凛珠は笑って言った。

「そうだ。それがなんだ?おれがここにいたらなにかおかしいことでもあるのか?」

「いや、あるでしょ」

凛珠の言葉に祐一がツッコミを入れた。

「ふむ、そう言われてしまえばこちらとしては何も言えなくなるな。……それにしても本当に愛紀那の『先見』の力で見た通りだな。お前たちがたどってきた道すべてが」

その言葉に紅藍と祐一は顔を見合わせた。

「なにそれ?どういうこと?」

紅藍が凛珠に尋ねた。凛珠はちらりと千尋を見て言う。

「俺たちはお前たちがどんな事をするか知っていたということだな。お前たちならば『異能』の中で未来を視る『先見』の力のことは知っているだろう?」

その言葉に二人は頷く。

「……その愛紀那とかいうやつが見た通りになったということか?」

紅藍の問いに凛珠は頷く。千尋は紅藍のその言葉にムッときたようだったが。

「まあ、そういうことになるな。さて、俺は知りたいことは知ったからこれで帰るとするか」

「はぁ!?」

その言葉に紅藍は唖然とした。今の会話で何が知れたというのか。凛珠は紅藍の疑問を顔から感じて言う。

「俺は他者の過去が見える。端的に言うならば『過去視』ってやつだな。それを使って俺の知りたいことは全部わかった。だから用は終わったのだから俺は帰る」

凛珠はそういうと帰ろうとした。

「はぁ!?ちょっとまて!それ俺たちの心を覗いたってことか!?」

紅藍のその言葉に凛珠は振り返って言う。

「随分失礼な物言いだな。俺にはそんなことをする趣味はない。それで、お前たちの言いたいことは全部か?」

凛珠の言葉に祐一は言った。

「教えてほしいことがあるんだけど」

その言葉に凛珠は眉を挙げて言った。

「ほう、なんだ?」

「あなたの探し人は、見つかったんですか?確かに自分たちは玖翠一族を殲滅しました。けれどもその中にあなたの探し人はいませんでしたけど」

祐一の言葉に凛珠は言う。

「…………俺はあいつを見つけたが、逃げられた相変わらずあいつ、逃げ足は速いな。……それで?教えてほしいことはそれで全部か?俺はとっとと探しに行きたいんだが」

凛珠の様子を見て紅藍は何かを言おうとしたが、祐一が制した。

「ええ、これで全部です。わざわざお引き留めしてすみませんでした」

その言葉に凛珠はフンと鼻を鳴らすと、千尋とともに姿を消した。

 「お兄様、あのお二方が凛珠陛下と千尋さま?」

凛珠たちが去った後、ひょっこりと扉の隙間から紅藍の妹、銀青色の髪に青い瞳をした蒼天華 夢が出てきた。

「げ、夢。……それに兄上も」

その後ろから青い髪に青い目をした紅藍の兄、蒼神 天珠が妹の夢の後ろから出てきた。

「……あいつが、蒼天華 凛珠か。思っていたよりも責任感の強そうな人だな」

天珠が凛珠たちがさっきまでいた場所を見て言った。

「というよりも、あの人じゃなきゃ昔、玉京国建国時のあの戦いがあの程度で済むとは思えないけど」

祐一が言った。その言葉に紅藍も頷く。

「俺たちの戦いはあの人たちにとってはかなり楽だったと感じたと思うな―。歴史書読む限りひどいのなんのって」

紅藍が言った。

「確かにそうですね」

夢も同意した。天珠も同様らしい。

「……そういえば、天珠兄様。たしか凛珠陛下の探し人の方は一番最初の奏でる者……『奏者』なのでしょう?」

夢が小首を傾げて言った。彼女自身も『奏者』と呼ばれる『異能』を持っている。

「そうだな。奏者名は『闇の奏者』。黒白の一族にはじめてあらわれた。『奏者』」

 『奏者』とは、それぞれ固有の歌に自らの持つ力を込めることで世界を創りかえ、創造しなおす、驚異的な力のこと。ただ、その力には制約があり、それぞれの持つ力の特徴によってどんな世界を創れるかが決まる。

 修一の『奏者』の力は名の通りに闇の世界を創り上げることのできる力。ただし凛珠の光の神力のほうが強いので当時も、今もそれほど修一の力はこの世界には影響を与えていない。

「俺としてはそんな能力持っていなくてよかったよ。怖いと感じるし……。夢のは除いてな」

紅藍の言葉の最後には『奏者』である夢への気遣いが隠されていた。

「……そうですか。それにしても、これからいろいろと大変ですね」

夢がそう言って城下を見る。

「そうだな。法律を作って、制度を整えて、……そういえば、お前たち仕事をほったらかしで何をやっているんだ?」

天珠が冷たく言った。その言葉に紅藍と祐一は縮みあがった。やばい、来る。

「いい加減にしろ、このバカ弟どもが!!」

二人はおとなしく連行されていった。




 そしてその晩のことだった。玉京国の歴史書が収められた書庫が何者かによって火が放たれ、全焼した。そのことによって玉京国の歴史は失われ、その存在はただ名前のみ残ることとなった。

 その報を受けた紅藍は誰がやったのかわかった。そしてそれを行った彼の思いも。

 自分の創った国のことは、

後世に残すべきではないという彼の思いを




紅藍はその後よく国を治めた。紅藍が王位をのいた後、彼の子供に玉京国時代の王が果たしていた責務を分散させ、少しでも王の負担が軽くなるようにしていった。




その後、神風抄国では名君がよく出て、国は長く繁栄した。しかし、その陰で修一は少しずつ、闇の勢力を拡大させていった。自らの生まれた世界を消すために。凛珠への憎しみを持って。

そう、そのあと。神風抄国建国後、八千年ののち、神風抄国は滅んだ。その国が存在していた神風抄国界ごと。

そして、その背後には修一がいた。凛珠は神風抄国界崩壊の時に修一がかかわっていることに気づいたが、彼を見つけることはできなかった。修一はよほど凛珠と千尋に会いたくはないらしい。


そして、彼を見つけられぬまま

      長い長い歳月が経った。

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