すぴんおふ「うまいもん」

若狭屋 真夏(九代目)

 イタリア料理店にて

一応「うまいもの」は終了したのだがまだ冴子や匠たちの物語が残っているので「すぴんおふ」として書いていこうと思う。

「うまいもの」のチョコレートで登場したイタリア料理店がとりあえずの舞台になる。そこに充が酔っぱらってのプロポーズが成功した後この店を一組のカップルが訪れる。

匠と恋人の里奈である。里奈と匠は高校時代からの付き合いだ。

匠はモテるため里奈と何度も喧嘩になった。しかし匠も「花より団子」のたちらしく告白してくれる女の子をすべて断った。

里奈と別れようとしなかったのは「味覚が合う」からだ。

例えば匠は焼き鳥屋に行くと必ず「ホルモン焼き」を頼む。

女性はあまり好きではないから頼まない人が多いが里奈の方が先に「ホルモンください」っていう。

高校生の時から「なにからなにまで」好きな食べ物が合う人だからだ。

とはいえ食べ物と恋愛とは別物、恋人になればやきもちも焼くし不満をいったりする。一回は別れ、大学で再会しお互い大人になったので丸くなっていき再び付き合うようになった。


「へぇ~いいレストランしってるのね?」

「ああ、最近みつけたんだよ」

ウエイターの男性が二人の前に立ち「いらっしゃいませ。お荷物お預かりいたしましょうか?」といって頭を下げる。

「あ、はい」といって里奈はコートを預けた。

「こちらへどうぞ」といって二人を案内する。

二人が案内されたのは窓際の席だった。

「どうぞ」といって匠は里奈の席を引く。

「ありがと」

どうもこのカップルはレディーファーストがルールらしい。

なんでも亡くなった匠の祖父が元外交官でイギリスに長くいたため匠が子供の時から紳士のルールをたたき込まれたらしい。

「ね、なにがおいしいの?」里奈が聞く

「ああ、なんでもおいしいけどペペロンチーノは格別らしいよ」匠のこのデータは佐々木課長からだ。社内では「歩く食べログ」とか「仕事する食べログ」とかいわれているとにかくグルメな人物である。

「へぇ、じゃあ、わたしそれ一つね。あとワイン。う~ん今日は「白」ってきぶんね」

ギクッと内心匠は思った。なぜなら匠も「白って気分」なのだ。

とりあえずオーダーをすると二人は仕事の話をする。

里奈の仕事はパティシエだ。大学の卒業旅行でパリに行きそこで食べたチョコレートのおいしさに心を打たれ、せっかくもらった内定を蹴って洋菓子の専門学校に通った。匠は彼女の自由さを誰よりも理解している。本当は匠は大学院の進学を考えていたが里奈が内定を蹴った代わりの人物として紹介されたため今の会社に入った。

ゆえに彼女がいなかったら充たちとは知り合わなかった、運命とは不思議だ。

普通なら「俺の人生設計に口出しするな」と怒るところだが匠は「あ、いいよ」といって入社した。

それから里奈はパリの菓子店に一年勤務した。

里奈はパリに行くとは直前まで匠に話さなかった。匠よりも家族の猛反対があったからだ。父親の猛反対は激しく「なんで4年も遊ばせといてパリで職人になるんだ。学費返せ~~」と泣き出した、お小遣い月2万は厳しい。

「で、匠君はどういってるの?」と母が言う。もう匠の事は家族同然なのだ。匠も里奈の家に呼ばれるとつい「ただいま」といってしまう。

「匠はお前が好きなことならいいよって」

「じゃあ、決定ね、お父さん」と母が言うと

「仕方ないな」と父も閉口する。

肝心な匠には前日まで伝えていなかった。パリに立つ前日里奈は匠の家に荷物をたくさん持って現れた。

「ねぇどっか旅行でも行くの?そんな荷物もって」

「ああ、ちょっとパリに修行にね」

「へえ。そうなんだ」匠はある種クールすぎる。

「だからその前に、、、」といって里奈は匠にくちづけをした。

「お、おい・。ちょっと。。。。」匠の体に里奈は抱きついた。


私はエロ小説家ではないのでこれ以上は書かない。

次の日まだ眠い目をしている匠に「じゃあ、一年後ね」といって里奈は匠の鼻に軽くキッスした。

匠はその日二度寝して会社を遅刻した。。。。


パリから帰ってきて里奈は肩まであった髪の毛をショートにした。空港に迎えに来た匠に里奈は後ろから抱き着いた。里奈の石鹸のにおいが匠の鼻に入った。


まあ、このカップルは書いていて宇宙人みたいな人種である。

話しをもどそう。

二人のもとにあつあつのペペロンチーノが運ばれてきている。白ワインも脇にある。

「ね。私たちって付き合って何年になるかしらね?」

「さあ?高校の時からだろう。うーん」

「いや、」ドンと机を里奈が叩く。

「高校の時付き合い始めた一週間後よ、友達の亜衣ちゃんが貴方に告白したでしょ?」

「あ、ああ」匠は覚えていない

「その時あなたが煮え切らない断り方したから亜衣ちゃん2か月つきあっているって錯覚したのよ」

亜衣ちゃんとは二人の高校の同級生で二人がここでペペロンチーノを食べている時点で今はもう4人の子持ちである。旦那は警察官で匠に振られたと「気が付いた時」告白した1年下の後輩だ。

いずれにしてもどうでもいい話だが女性にとっては「どうでもよくないらしい」


「すみませんでした」匠は頭を下げた。

「それでよし」と里奈はワイングラスを口に当てた。

「すみません」とウエイターを呼ぶとメニューを見て注文している。

「これさえなければいい女性なのだが」と匠は思う。しかしもう「亜衣ちゃん」が出た時点で頭を下げてしまう。まさしく「パブロフの犬」だ。

今日はバレンタイン(というか書いているのは夏だが。。)里奈もいそがしかったらしい。里奈のワインはおいしい料理でどんどん進む。

しまいには酔っぱらって匠がおんぶして帰る。

その日も当然のごとく里奈は酔っぱらって匠が背負って帰った。


駅に向かって匠が歩いていると「ぎゅっと」匠の背中を里奈が抱きしめる。

「ねぇ。これ食べて」といって里奈はコートの中から箱を出した。

「おっ」匠は喜んだ。

匠は里奈の作るチョコが大好きだ。彼女のやさしさや明るさが現れているからだ。

「あーん」といって匠が口を開けると「しょうがないんだから。。」と笑って口にチョコを入れた。


「うーん。いつもと同じ味が口の中にひろがる」

「こ、今年は。。。。」里奈の頬が赤くなる

「え?」

「今年は貴方だけにつくったんだから」

「え?」

つい匠はチョコをかんだ。

すると匠の歯に「カチッ」と何か当たった。

「なんだこれ?」

といって里奈を背中からおろし指を口に入れてみると銀の指輪が出てきた。

「これって?」里奈の顔を見ると里奈は真っ赤な顔を見られないように下を向く。

「もう、、、、」

「もうはなさないんだから」と里奈は大きな声を出した。

「ふっ」匠は笑顔になった。

「しょうがないな、ほら」といって背中を見せた。

「う、うん」と小さな声で里奈は匠の体に抱きついた。

二人とも体が温かくなった。

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すぴんおふ「うまいもん」 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya

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