第10話 截拳道

私はビモータに跨がり合図を待っていた。

真由[準備出来ました。いつでもOKです。]

黒澤[直撃させずに足元のずっと手前狙うんですよ?]

真由[解ってます。でも黒澤さんのお尻に当たったらごめんなさい(笑)]

黒澤[直撃したらごめんじゃ済みませんよ(汗)]

ビモータのクラッチを握り、ギアを入れる。アクセル開け、僅かに回転数を上げる。クラッチを静かに離す。ゆっくり静かに走り出し病院から離れる。交差点をUターンして加速。甲高い音が鳴り響き、病院に近付くにつれ、警備に当たる人員の注目を集める。正面玄関前に停める。スーツ姿の男が歩み寄ってきた。

スーツの男A『面会時間外ですが、何かご用でしょうか?ご用でしたら駐輪場はあちらにありますので、移動したのちに夜間通用口に回って下さい。』

私は無視してヘルメットを脱ぎ、下を向いたままポケットから取り出したサングラスをかける。

スーツ姿の男A『あのぉ~移動お願いします。』

ヘルメットをミラーに被せスタンドを下ろし、バイクから降りた。

別の男も寄ってきた。

スーツの男A『聞こえないのですか?』

スーツの男B『おい!』

おいと声をかけてきた男の方へ近寄る。

黒澤『病院の方?』

スーツの男B『貴様には関係無いだろ!』

黒澤『関係無いならお互い様って事で私は失礼しますね。』

玄関に向かう。引き留める為に肩に手をかけてきた。

私は振り返り手加減する事無く鳩尾に爪先を差し込む。致命傷与える目的ではなく、派手に飛んでいって貰おうという狙いで蹴った。

思わく通りに大きなリアクションで目立ってくれた。

最初に話し掛けた男が呆気に取られていたが、近くに居た警備員が集まって来た。


真由はHK416を持ち屋上のフェンスの下から銃口を外に向け構えた。この後移動予定の貯水タンクの下付近の狙撃地点には、手の届く所に全ての弾を、使う順番に並べてある。ビモータが玄関前に到着し、黒澤がヘルメットを脱ぎスーツ姿の男と話始めた。病院の敷地を見える範囲で観察すると黒澤に注意を向ける者が何人も居る。1人目が倒された。真由は立ち上がり病院の最上階のガラスを狙い撃つ。肩に強い衝撃が襲う。痛みに耐え抑え込むが当たらない。構え直し残りの弾を撃ち尽くす。ようやく何枚か割れた。すぐ貯水タンクの下に移動し上からは見えない位置に身を隠しつつマガジンをゴム弾に変えて下を狙う。一般人が居ないのを確認し手当たり次第威嚇射撃をする。跳弾した弾があちこちに当たる。全員慌てて身を隠す様子が見てとれる。ゴム弾が尽きた。次のマガジンを挿し車を狙う。段々馴れて来て狙いも定まってきた。後ろのタイヤを狙う。反動で銃口が持ち上がり勝手に本来狙うべき給油口付近に当たり爆発。車が前転し炎上。クリスヴェクターに持ち替え弾の入ったケースのみ持って階段を駆け下りる。


頭上遠くからの着弾音。降り注ぐガラス片を被らない位置に移動した。少し間をおき地面から跳弾した弾が病院の壁や周辺の車に当たる。異変に気付いた者は身を隠しながら狙撃者の位置を探っている。

私の近くに居た男が掴みかかるが、体捌きでかわすと激情し、さらに勢いよくつっかかってきた。踏み込んだ前足の膝の内側ある内側側副靭帯を狙って前足で回し蹴り。表情が歪み膝を付く。踵を返し院内に向かおうとした。

スーツの男A『待て!』

痛みに耐えながら懐に手を入れる。

銃を抜くより先に男の二の腕を左回し蹴り。上足底で腕を折りに行く。

悲鳴をあげ男は私への興味を失い必死に痛みに絶える事に専念し始める。

向かい側の建物の屋上からの攻撃が一瞬止み、男達はその隙に移動を始めた。

私に向かって来ようとする者、真由の居る雑居ビルに向かう者、車に乗り込もうとする者、それぞれが役割を思い出し迅速に動き出す。が、実弾攻撃が降り注ぐ。初弾は外したがフューエルリッド付近に弾が集中し爆音と共に車の後部が跳ね上がり逆さに着地。黒い炎が上がり辺りの緊張感が増す。そちらに注目が逸れてる間に私は中へ進入する。

院内に居る者のほとんどが外を伺っている。やがて非常ベルが鳴り響くと職員達は避難準備に追われ始める。エレベーター前と階段前には外に居た連中と同じ装いの者が立っている。すぐに私に気付き間合いを詰めてくる。

1人目が私に声をかけようと駆け寄ってきた。相手の至近距離に届くや否や斜め前方に踏み込み人中への背刀打ち。踞り呼吸困難に陥っている。

私を敵と認識した彼等は一斉に特殊警棒を伸ばす。私は坂下が用意したゴツいナイフを取り出した。それを見て一気に間合いを詰めようとした彼等の動きが止まる。

一番近くに居た男の警棒目掛けナイフを打ち下ろす。かわさず受け止めようとした安物の警棒が折れた…斬れた。強い打撃にバランスを崩した彼の背後に周り襟にナイフを差し込む。肌に峰が向かうよう刃は手前に向け下に下げる。少し尻に傷は付けたが恥ずかし攻めは成功した。ナイフを仕舞い男を他の男達の前方へと蹴り飛ばす。

受け止めようと注意が私から外れ、その隙に懐からシグを取り出した。反撃に転じようとする動きを見せた者には容赦なくゴム弾をお見舞いする。戦意を喪失するまで撃ちまくった。動ける者は外へ逃げ出して行った。外から援護の気配も無い。階段を選択しゆっくりと登り始めた。


真由は雑居ビルの一階から外を窺っている。不用意に生身で近寄って来る者は居ないが、何人か車に乗り込んだ。後ろタイヤを狙う。近寄る車がまた爆発炎上した。中から男が飛び出し逃げる。それを見た他の男達は車で近付くのすら躊躇し始めた。

しかし真由は敵と認識した車は片っ端から狙い撃つ。何発か真由の近くを敵が放った弾丸がかすめる。アドレナリンが出まくり攻撃的な思考に囚われてる彼女は、着弾位置から攻撃地点を見定めすぐ反撃。人間には当てないよう気を付けてはいるが、たまに車を貫通したり跳弾した弾が敵に当たる。何人も流血し、順次逃走始めていた。敵に攻撃意思は無くなり手にしていた武器をその場に置き、両手を上げて後退していった。

義理も縁ない雇われ警備員は命を張ってまで雇い主を守ろうとはしない。仮に我が子や孫の世代が将来迎えるであろう社会に、良い影響をもたらすという信念が無ければ、その要人に対して身を呈してまで護衛など誰がするものか。

黒澤[下はだいたいいいようですね?GT-Rに乗って救急入り口ふきんで待機お願いします。私達の退路の確保も任せますので見張りお願いします。]

真由[判りました。]

これ以上無用な危険に飛び込ませない為に見張り役をさせる。

真由は辺りの様子を再確認しクリスヴェクターを肩にかけ、裏口より少し離れた場所に置いた車に向かって駆け出す。追跡者は居なかった。車に乗り込みエンジンをかける。ゆっくりとスタートし指定された場所に向かった。


階段を選択した私は避難誘導の職員以外会うことなく最上階に辿り着いた。

しかしそこは各フロアを担当していたと思われる人数が全て集まっていた。目的が解ってる以上追跡等せず準備して待てばいい。

スーツの男C『全員火器は使うな。壁に酸素を通すパイプが埋まってる。跳弾して引火したら全員お陀仏だぞ。』

スーツの男達『了解。』

その場に居る者達は特殊警棒を振り伸ばす。今度は不意討ちではなく、全員が臨戦体制で間合いを測りながら向かってきた。私はナイフをリバースグリップで左手に持ち前に出す。右手は腰の位置で軽く握る。1番近くに居た男がナイフを狙い警棒を振り下ろす。私は左手を引き警棒を受け止めずにかわすと同時に敵の前足の後方に踏み込み右の掌底で顎を突き上げる。受け身を取れずに床に頭を打ち付け、そのまま気絶した。それを見た男達は怒りに任せて突進してくる者と、力量観察する者。状況の変化を見極め傍観する者に別れた。そんな事はお構い無しで、近くに居る者を片っ端から射程距離に詰め、死なせない程度に無力化させた。逃げようと背中を向ける者には敵の手から警棒を奪い投げつけた。

戦闘に参加した者の大半は床に転がった所を見極めて敵のリーダー格が拳銃を抜いた。

スーツの男C『そこまでだ。』

黒澤『もう爆発させてもいいって頃合いだもんね。良い判断だ。』

私はナイフを捨て両手を肩の上まで上げる。それを見てそばに居た男が抑え込もうと近付いた。私の手首を握り後ろに捻り込もうと力を入れる。相手の力に逆らわず勢い良く捻りを加え肘で顎を打つ。そのままその男を盾にしながら銃を構える男に走り寄る。

銃を持つ男は発砲せず私の視線の死角に入り盾にされた男もろとも飛び横蹴りをくらわせてきた。私も盾にした男と一緒に飛ばされるがダメージは無いのですぐに立ち上がり、私も銃を抜く。

黒澤『撃ち合います?それとも素手にします?』

男は無言で銃を懐に仕舞った。

だが私は卑怯にも仕舞わずそのまま銃口を敵に向け歩み寄る。

黒澤『私は素手じゃなく撃ち合い希望です。なぜ答えるより先に仕舞っちゃうんですか?(笑)』

スーツの男C『卑怯な真似で騙し討ちすると、部下も逆上して抜くかも知れんな(笑)』

黒澤『やっぱりそうですよね?(笑)』

私は目の前まで歩み寄りながらも銃を仕舞った。

黒澤『一つ提案なんですが、今日のところは貴方と私で終わりにしませんか?これ以上他の方達に痛い思いさせるのも無意味でしょう?もしも私が貴方を倒せたら、貴方よりも強い方や頭の切れる方は居ますか?』

スーツの男C『その提案受け入れよう。お前達全員被害の確認と、負傷者の回収に当たれ。』

スーツの男達『…了解。』

黒澤『少し広く使えますね。』

スーツの男C『そうだな。さぁ~いつでもいいぞ。』

お互い距離を取り構える。敵の構えから格闘技の種類が読めない。マーシャルアーツでもサンボでもテコンドーでも躰道でも無い。截拳道?ブルース・リー並に半身には構えないが、爪先の向きや重心の位置、先程の蹴り等から想定し、本物の截拳道をやってきた人間だ。

黒澤『自衛隊出身ですか?』

スーツの男C『正解。よく解ったな。』

黒澤『私も格闘技好きな頃があって色々見て勉強したんですよ。』

スーツの男C『今は好きじゃないのか?』

黒澤『体弱くて激しい運動止めたんです。実は学生時代しかトレーニングしてなくて、社会に出てからは体動かさず観てるだけ(笑)』

スーツの男C『冗談だろう?それでこれか?』

黒澤『天才なんですよ(笑)』

スーツの男C『笑えんな!』

素早い寄り足でビルジーを打ち込んで来た。

見切ったつもりが喉元をかすめる。一瞬呼吸が苦しくなったが更に距離を取る。鼻から大きく息を吸い、ゆっくりと静かに臍の下に力を溜めながら息を口から吐き出す。臍の下に溜めた気を喉の痛みに分配する。どの程度効果があるか解らないが、呼吸困難は間逃れた。ここで私の最大の特技。

黒澤『なぜ私が天才と呼ばれたていたか教えてあげましょう♪』

彼の打ち込んだビルジーをコピーして打ち返す。ただ一点だけ違うのが、狙い所はあごの先端。不意をつかれた男は受けてしまった。

軽い脳震盪で膝をついた。

黒澤『見た情報をそのまま体で反映出来るんです。ただ持ち合わせた骨格や筋力以上の事は出来ませんけど。』

スーツの男C『なるほど。理解したよ。私と同等の鍛え方してたら今の一撃で終わってたな。』

黒澤『ですね。体弱くて長時間全開で動けないんですよ。』

スーツの男C『そういう事なら尚の事すぐに楽にしてあげよう。』

黒澤『お喋りしてる間に回復しちゃいましたね。では仕切り直しましょうか。』

彼はパンチやキックを織り交ぜコンビネーション攻撃を仕掛けてきた。

私はジャクテックで勢いを止め、勢いで突き出た顔面チュンチョイ。

スーツの男C『今のは見せて無かったはずだが。』

黒澤『映画は見ますから、この程度のは知ってます。でも物真似じゃ勝てませんので、こっからは真面目にやりますね。』

本来截拳道は他の武道で反則技とされる攻撃も許可される。それを理解していれば不意討ちもある程度なら防げる。さらに私は記憶にある格闘技なら少しずつだが色々と引き出しはある。そこに私の隙があった。彼も一線級の戦士だった。そもそも截拳道そのものがたくさんの格闘技を吸収した武術。私が知りうる格闘技への対応はお手のものだった。

打撃技の応酬では直撃は無くとも受けるダメージで分が悪い。私は大きく間合いを取り直す。構えを截拳道の物ではな空手の物へ変えた。前屈立ち。前にある足に体重が乗っているので、体捌きで攻撃を受け流すには不向きで、こちらからも次の攻撃に転じる際の体重移動に時間がかかる。組手でこんな構えをする者はほとんど居ない。が、体重移動を必要としない攻撃を出来る者なら必ずしも不利とは言えない。敵も攻撃する際は踏み込んで来ないと相手の体に届かない。しかし狙った敵の体より遠くに前足を置かれると踏み込みが浅くなる傾向がある。膝の衝突を避ける為だ。その為に腰の入らない手打ちのパンチや、ローキック等の攻撃が増える。致命傷にならない攻撃なら受けて我慢も出来る。ローキックを狙って来るならこちらもローキックを打ち返す。前足で重力が引く力より先に蹴り着地させる。体重移動などさせずに腰の回転だけでローキック。敵がローキックを嫌い後ろ足に体重を乗せたところで軸足となった後ろ足の内側側副靭帯を斜め上に蹴り上げる。しっかりとした手応えはあったが動きを止めるまでには至らない。しかし痛みによる反射的な防衛本能で力のかけ方が制限される。動きの鋭さや攻撃の重さに変化はあまり無いが、予備動作が大きくなり、攻撃をかわすのも、防御の仕方も予測出来るようになった。私の打撃がヒットし始める。上手く急所は外されてるが、少しずつダメージを蓄積出来てる自信はあった。動きが鈍くなってきたと感じたからだ。決めに行く突きを放つ。敵の懐に飛び込み振り打ちでこめかみを狙う。標的が遠退き差し出した手首を掴まれ肘を支点に体重を乗せられた。折られまいと作用点方向へ回転しながら床に伏せポイントをずらす。しかし床に到達する前に拘束を解く事は叶わなかった。

スーツの男C『さぁ。どうする?腕一本見捨てて抜け出し闘いを続ける選択と、ギブアップして私の雇い主の所へ行く。その際はどういった形であれお前の足は2度とこの国の地を踏む事は無いだろう。』

黒澤『歳も歳だから怪我が治るの時間かかるんですよ。』

頭を勢いよく後方に振り頭突きを狙う。が、当然のように軽くかわされる。その際重心が変化する事で自由な腕の可動範囲が広がった。始めからその為のフェイントの後頭部での頭突きだ。可動域の広がった手で後ろ手に相手の脇腹一本貫手をスナップだけで刺し込んだ。瞬間的な激痛に反応し、更に体重を乗せたポイントがずれ、関節技から抜け出す。抜け出しついでに起き上がろうとして付いた手を蹴り払い、受け身を取れない状態にしてから顔面をサッカーボールキック。払われて居ない方の腕で受けるが止めきれず顔面へのダメージが届く。脳は揺らせず仕留め切れなかった。が、手首から先は貰った。ぶら下がってるだけで使い物にはならないだろう。とは言え油断出来る程マージンが取れた訳では無い。すぐさま自由な方の腕を取り捻りを加える。当然関節技を取らせない為に反対側に反射的に力が入る。それを利用しながら脚を絡めて三角絞めがしっかりと決まった。外そうともがくがもう体を支える為の腕が一本しかない。その腕を取られてしまっては降参か堕ちるか2つしか選択はない。

タップした。

確認しゆっくりと力を抜く。

スーツの男C『ここで俺が意識失ったらお前蜂の巣になってしまうだろ?ここまでにしよう。降参だ。』

黒澤『いいでしょう。私も蜂の巣かわす為に皆殺しで血の海を渡って帰るのは御免被りたいですから。』

スーツの男C『…やっぱりそうなるだろうな。』

黒澤『で、この後はどう致しましょうか?』

スーツの男C『悪いが肩を貸して立たせてくれ。病室のドアまで頼む。』

さっきまでの鬼が宿ったような表情ではなく、旧友に向けるような優しい表情で話す。

黒澤『勿論構いません。どうぞ掴まって下さい。』

男を立たせてドアの前まで連れて行く。

スーツの男C『私です。開けます。失礼致します。』

回答待たずに開けた。

すると中には女性看護師と秘書らしき男性が強張った表情でこちらを見ていた。

会長『済んだのか?』

スーツの男C『全然敵いませんでした。この男は間違い無く本物の戦場経験者ですね。こんなヤツとまともに戦える平和ボケした日本人は居ませんよ。』優しい笑顔を備えて老人に伝えた。

会長『君が黒澤君か?南から聞いておる。孫達が世話になったな。』

黒澤『いえ…真由さんが近くで待っております。一緒にここを出ましょう。』

会長『いや。すまん。ワシはもう長くない。ここを出たとしても結局すぐに別れは来てしまう。それより面倒かけついでにもう1つ頼まれてくれ。』

黒澤『…それは構いませんが、一声だけでも真由さんに声をかけてあげては貰えませんか?』

会長『まぁそれは私の話を聞いてからにしてくれ。』

黒澤『…』どうやら会長はもうベッドから降りるのも困難なようだ。その様子が見て取れてしまう程に肉体は弱ってる。

会長『これからの事は弁護士の彼と妻の愛美に話してある。この二人を連れて真由の所に戻ってくれんかの?』

黒澤『色々突っ込みたいのですが1つずつ。奥様と弁護士さんはどちらに?』

会長『弁護士…妻の愛美…』指差し紹介。

黒澤『そちらの素敵なご婦人は看護婦さんでは無く奥様?』

会長『すでに入籍は済ませてある。』ジョークとも取れない満面の笑みで答える。

黒澤『…はぁ…でお二人を連れ出すのは構いませんが、真由さんには何と言うおつもりで?』

会長『どのみち余命も明日で尽きるか、来週までもつのか?ってレベルなんで、死んだ事にしてしまおう。迷惑かけてすまんな。この二人は信用出来る。必ず真由の力になれる。何とか聞き入れてくれ。』

黒澤『…承りました。その代わり真由さんに一言だけでも残してあげて貰えませんか?』

会長『すまなかった。何にも代えがたい程に愛しておる。良い旦那と丈夫な子を産み幸せになれと。』

黒澤『それだけでいいのですか?』

会長『構わん。ただ願わくはあいつの父親の命だけは獲らんでくれ。南に言えば外国に軟禁拘束出来る。社長の地位を剥奪するだけでひっそりと生かしてやってくれまいか?…否、それが許されるにはあヤツは人を殺しすぎたな。すまん。忘れてくれ。殺された方達の敵討ちを代わってやってくれ。面倒な事ばかり押し付けて済まなんだ。』

黒澤『社長の件は可能な限り生かして罪を償わせます。』

会長『そうか。ありがとう。さぁ…二人を連れて真由の所に戻ってやってくれ。』会長から振り絞るような優しい視線で送り出された。

スーツの男C『おい。この方達を下まで安全にお送りしろ。』

部下達が取り囲みその案内に従い1階まで。

黒澤『ここまでで結構です。急いで上に戻って治療してあげて下さい。ありがとう。』

部下の男『すまない。お言葉に甘える!』

振り返りダッシュして行った。

それを確認し救急搬送口の方へ方向を変えドアから出る。私を確認した真由が入り口前までGT-Rを乗り付け、助手席を倒した状態でドアを開け放った。すぐさま二人を押し込み自分は助手席へ腰をおろす。

真由『全部話は聞いてたから何も言わなくていいわ。貴女が私のお義婆様になる方?』

愛美『事情は落ち着いたらお話しさせて頂きます。まずはここから離れましょう。』

真由はGT-Rをスタートさせビモータが置いてある場所で私を降ろした。

当然残党との一戦があるものと思ったが動ける者は残って無かった。1人を除いて。

前川『指導員遅いっすよ。もう飽きて退屈してたとこです。』

見回すとずーっと離れたとこにインディアンスカウトが停車してある。

黒澤『あんな遠くに停めてたら到着したの気付かんって。』

前川『だって真由さんの着弾位置読めなくて近寄れ無かったんすもん。傷つけられたくないし。一応言われてたのは回収してきました。』大きめのロッドケースを肩から降ろしてGT-Rのトランクに仕舞った。

黒澤『これじゃ尾行出来るヤツは居ないな。帰ろう。とりあえず警察は来るだろうから少し遠回りして。』

グローブやヘルメット等の装備をつけエンジンをかけて待つ。やがてインディアンスカウトのエンジン音も鳴る。

真由[すこしの間インカム切ります。後ろ着いて行きますからお好きなタイミングでスタートして下さい]

それだけ言って返事を待たずに切断され、

弁護士を名乗る男が車から降りて運転を代わった。真由は愛美の隣へと席を移した。

黒澤[俺達は1度大使館に戻るそこで次の打ち合わせもしたい。着いてきてくれ]

前川[了解です]

ゆっくりとスタートし、GT-Rが着いて来れるか確認しつつ、その後ろにインディアンスカウトが着いて来たか確認。

黒澤[解ってると思うけど後方警戒宜しく]

前川[勿論解ってますって♪]

とりあえず弁護士を名乗る男も普通に運転する分には問題無く着いて来れそうだ。

後方にペースを気遣う事無くかなり遠回りして程無く大使館に着いた。昼間の守衛も夜の守衛もニコニコ笑顔で敬礼し迎え入れてくれた。

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見えない力 @tom9630

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