第9話
俺たちはゴブリン村を発見したが、すぐに動き回る気にもならなかった。日はもう落ちかけている。俺は火を起こし、簡易テントを余った素材で【錬成】し、組み立てる。だが、素材的にも一個が限界だ。さすがに夜に森に入るのはいくらゾンビの俺でもいやなものだ。そのかわり、しばらく見張ることにした。料理の器具がないため、今日は肉の丸焼きだ。それはシャーロットがやってくれる。その間、俺は【錬金術】を使用する。そして、残りの鉄鉱石を鉄に錬成し、いくつものパーツを作っていく。
どうやら、料理を終えたシャーロットがこちらに向かってきた。
「なにやってるの?」
「ん? あ、これか。何だと思う?」
シャーロットは不思議そうな顔で首を傾げる。くそ、こういう仕草も可愛い。俺は赤くなった顔を見られないように自分の手元に視線を戻した。
「これはさ、銃だよ」
「銃、てなんでそんなものを?」
「俺だってあんまりこういうのは見たくないけど、こうやってモンスターの巣の近くに構えるならそれ相応の武器が必要だろ? 俺にはこれしかない。よし、できた!」
俺が作ったのは
「コルト・ニューサービス シューティングマスターモデル、ダブルアクションの六発回転式だよ。銃弾も30近く作った。本当に【森羅万象】は有難い。俺でも銃が作れるんだからな。火薬も森で取った。これで大丈夫だろう」
「う、うん……」
本来、初めての武器だぜ! って喜びたいが、ちょっと込み入った事情がある。俺のその沈んだ顔を見て萎縮してしまったのだろうか。そういうのも心に刺さるんだよな。くそ、人生経験が足りねえ。
「さ、シャーロット、肉焼けたんだろう? 食べようか」
「うん!」
俺はコートと背広を脱いで肉のほうに向かう。今日の夕食は羊肉と森で採った果物だ。初日から割りといいものにありつけている気がする。少し臭みの残る肉にかぶりつく。な、なんだコレ、あの筋肉だらけの羊から取れたとは思えない柔らかさだ。かぶりつくたび、あのオーケストラみたいな断末魔が脳裏に再生される。あー、食欲が失せてくる。
「どう、かな?」
シャーロットが少し不安そうに聞いてくる。まあ肉を焼いただけだしそんな心配する必要も無いとは思うが、とてもいい焼き具合なので、褒めておこう。
「うん、美味しいよ。焼き具合がいい。肉汁がジュワーって感じでさ。うん、やっぱ美味しい」
俺の声を受けてシャーロットは安心したようだ。肉を食べ終わる。今全部食べたりするわけにもいかないが、腐らせるのもよくない。幸い、この辺の平野は土が冷たい。俺は肉を他の皮で包んで土に埋めた。とりあえず、これで大丈夫だろう。あとは寝るだけだ。だが、童貞歴イコール年齢の20歳男性が美少女と一緒に寝て理性を保てるか。否、無理な話だ。だが、いくらアンデットに近い俺でも、明日の昼間の活動を考えると徹夜は不可能だ。
「シャーロット、いつ寝る?」
「え、わ、わたしはリョウクンが寝てからでいいよ」
「なんで?」
「だって、今の私絶対臭うもん……」
いやいや、女の子の匂いなんてご褒美じゃないですか。ん? 匂いじゃなくて臭いだって? 構わんさ、それだけでも俺のムスコは直立不動だぜ! と思うがそういうことを口で言えるほど俺は恥を捨ててない。仕方ない。俺は外で寝るか。幸い、この辺は芝生が多いので、寝心地が悪いわけじゃない。
「シャーロット、なら俺外で寝るからさ。だから中で―」
「それはだめ! 風引いちゃうよっ!」
と言われましても。この世界も日本のように四季があるようで、今は日本と変わらず六月終盤くらいの天候だ。梅雨を脱した後って感じだ。
「わかったよ。じゃあ俺が寝たら入ってきてくれ。火も消してからだぞ」
「う、うん!」
俺はコートと背広を持ってテントの中へ。まあ二人くらいなら普通に入れるだろう。俺は自分の下に背広、上にコートを掛け眠りの体勢に入る。今日はなんだか疲れた。まあ当たり前だが。案外、俺が早く眠れそうだと思ったとき、
「リョウクン、りょうくん!」
シャーロットが必死な形相で中に入ってきた。この顔だとあっち系なお誘いではなさそうだ。
「どうした?」
「ゴブリンの村が他のモンスターに襲われてるよ!」
「マジかよ!」
俺は急いで服を着込み、テントから出る。下を見る。すると、村ではゴブリンが他のモンスターと必死に戦っていた。あれは?
【ダークウルフです。ハウンドウルフの進化のようなものです。単体の戦闘力はランクD、あの数を見るとランクC冒険者五人相当でしょうか】
なるほどな。町で次々ゴブリンが食い殺されてる。あまりいい光景ではない。喰われたゴブリンは戦士のような格好だ。といってもボロボロの鎧と剣だが。
「リョウクン、どうする?」
「君はどうしたい?」
「私は助けてあげたいって思う」
「なら決まりだ。いくぞ!」
「うん!」
こういうのはあまり向いてはいないが、俺の女神がそういうなら従うしかないだろう。俺は闇夜に飛び込んだ。シャーロットも続く。俺は
「シャーロット、君は傷ついたゴブリンの蘇生をしてくれ。式神と陰陽魔法でこの村を囲ってくれ。俺は狼を潰す!」
「はい!」
俺は村の建物と建物の間をすばやく通り抜ける。どうよ、この身のこなし。夜って最高だなっ! なんか駄目な人みたいに聞こえてくる。人ではないのだけれども。
俺の移動中に交戦中のゴブリンを発見した。まさに今ダークウルフに噛まれそうになっている。ダークウルフは一匹でも高さ一メートル、体長二メートルはあるだろう。たいして、ゴブリンは一メートルちょっとだ。明らかに分が悪い。俺は銃を通り過ぎざまに構え発砲する。俺の放った弾丸はダークウルフの眉間をぶち抜く。快感だ、そう感じえる自分が情けない。今、ひとつの命を奪ったのに。歯切りしながら村を走りぬける。ゴブリンは意味のわからないというような顔をしていたが今は構ってられない。ここで世界の声が聞こえる。
《ササキリョウジに新スキル、【精密射撃】が発生しました。レベルアップです》
【精密射撃】ってことは射撃が安定するってことだよな。なんと、初めて錬金術師系以外のスキルゲットだ。先生、これってすごい?
【精密射撃はどの職業でも習得可能ですが、このレベルでの習得はまずありえません。もしかしたら【英雄転生】が関わってるのかもしれません】
そうなのか。っていうか【英雄転生】謎が多すぎるのだが。ちなみに今の俺のレベルは?
【主のレベルは12です】
オーケー、順調にレベルアップ中だ。このままいくぜ! 曲がり角から狼が走ってくる。どうやら、銃声と味方の血の臭いを嗅ぎ付けてここに来たらしい。俺は走るのは止めずに、蹴り飛ばす。少しからだを噛まれたが、痛くもかゆくも無い。それに、もうその攻撃じゃ死なないのだよ、俺は。俺の蹴りを喰らったやつは吹っ飛んで民家(といっても二メートル弱の高さ)に当たってご愁傷様だ。そして、村の中央広場のような場所に出る。すぐに狼共が群がってきた。俺は四発連続発砲で飛び掛ってくる狼を射殺、回し蹴りで下の奴等を飛ばし、銃を持たない左手で攻撃をいなす。回し蹴りは上手く効いた様で、当たった奴等は失神している。その奥からボスの狼が出てくる。あきらかに体格が違う。え、あれ本当に同じ種族?
【ヘルウルフ、ダークウルフの長です。攻撃力も比べ物になりません】
その狼は高さ三メートル、体長は五メートルを超えていた。おいおい、狼ってサイズじゃないぞ。しかも今シリンダーは空っぽだ。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!」
低い咆哮をあげたかと思うと、俺の右肩に歯を突きたてていた。痛みは感じなくても獣の顔がすぐ傍というのはあまりいい気分ではない。俺は左腕に二百パーセントの力を入れてやつの腹を殴る。飛んでいった。すごい勢いで飛んでいっちまった。人間の二百パーセントってすごいな。まあ俺の手も折れてるけど。筋肉もズタボロだが、高速再生するだろう。俺はその間に火薬の匂いがするリボルバーのシリンダーに銃弾を詰める。ヘルウルフはしぶとくこちらを睨みながらまた突っ込んできた。周りの狼は動かない。王の行動は絶対、ということだろう。俺は銃口を真っ直ぐに構える。強靭な脚力の狼と俺の距離が十メートルになったとき、
「許せ」
俺は引き金を引いた。一発、それ以外は必要ない。眉間を貫かれヘルウルフは倒れる。世界の声が、
《レベルアップです》
と告げた。確かに今のは手ごたえがある。それを見た狼たちが襲い掛かってくるかとも思ったが、違った。一匹の代表が俺の前に来て頭を垂れなにか喚く。先生、翻訳お願いします。
【はいわかりました。我々の一族の掟は族長を倒し者に仕える事です。どんな扱いでも構いません。どうか我々をあなた様の配下にしてください、と言っています】
なるほどな。でも言葉が通じないのは面倒だ。先生、俺の口で「そんなひどいことはしない。ただ襲うのをやめてくれればいい」って伝えてくれ。
【了解】
まさか自分が犬語を喋るとは、人生何があるかわからない。俺の言ったことを理解した狼どもは安心したようだったが、よりいっそう俺のもとから離れなくなった。その数は8匹だ。なんとも、先生曰く、
【このような素晴らしいお方が主ならば本望、どうかお近くに我々を置いてください】
だそうだ。亜人ってやつはこういうのに好かれやすいらしい。さて、どうしたもんかな。
ステータス 名前:ササキリョウジ
種族:
性別:♂
職業:
レベル:17 ランクE
経験値:813MAX850
HP:3500MAX4000 MP:2000MAX2000
スキル:【鑑定】 【錬成】 【質量変化】 【重量変化】 【合成繊維錬 成】 【反復錬成】 【物質修復】 【精密射撃】
ユニークスキル:【森羅万象】 【英雄転生】
魔法:【錬金術】
装備:魔法式スーツ一式、ナイフ、
軍オタ錬金術師と神姫が始める異世界風機甲師団生活! 澄ヶ峰空 @tsuchidaaozora
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。軍オタ錬金術師と神姫が始める異世界風機甲師団生活!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます