第8話

 俺とシャーロットは無事森を抜けた。いや、無事とはいえないか。さきほどのハウンドウルフや羊のように、いろいろなモンスター(家畜もだぜ)に襲われてきた。この森どうかしてやがるっ! どんだけ厳しい環境なんだ。ここに落としたロキに恨みが募るぜ。だが、そのおかげで少しわかったことがある。俺の作ったこのスーツ一式は、この魔力の濃い森の影響を多分に受けた素材を使ったおかげで、一種の魔道具と化していた。モンスターなどの物理的攻撃でも、魔法のような遠距離の魔力攻撃にもそれなりの体勢があったんだ。先生に聞いたところ、


【もし、主がこれを市に出せば、軽く数百万は稼げる代物です】


 だそうだ。まあ売るつもりなんて全く無いけど。だって、そんなもの他の人に渡したくないだろう? フツメンの数少ない(イケメンのように女なんて無理無理)独占力の結果だけどな。

 今回は基本俺は逃げるのに精一杯だった。シャーロットのホウキで空を飛んでもよかったが、空は空でオオカラスというモンスターが飛んでいる。あれはもはやカラスではないな。全身が真っ黒で本当に怖かった。体長も三メートルくらいはあった。

 俺は戦利品、さまざまなモンスターの皮や肉、それ以外にも鉄鉱石なども手に入れた。まあ、最初にとったのはベルトの金具になったけどな。今はさきほどシャーロットに渡した羊毛のバッグでもって歩いている。これだけあれば食料にも、売れば金にも困らないだろう。途中、シャーロットが、


「なんだか、ペアリュックみたいな感じだね!」


 とかいっていた。正直、誰も見て無くてもそういうのは恥ずかしい。口に出されるとそれは数倍にも跳ね上がるものさ。森を出た平地で俺は倒れた。別に体力が限界なわけじゃない。日光だ。忌まわしき太陽だ。アポロだ。正直、気絶しかけている。さきほどの帽子ではなにもない平野では日光をガードしきれない。


「リョウクン?!」

「しゃ、シャーロット。日陰とかないかな? それか俺に日光が効かなくなる魔法かけてよ」

「え、あ、うん。ちょっと待ってね。式神に見てきてもらうから」


 シャーロットが符を取り出した。どうやら、陰陽魔法を使うようだ。あの符は式神らしい。

 何から何まで頼るっていうのはどうかと思うが、今は緊急事態だ。もしかしたらロキが言っていた死の経験とやらで燃えるかもな。そのくらいに事態は深刻だ。いや? あまり人徳的な考えではないが、一回死んで【英雄転生】で一気に移動するか。よし、それでいこう。俺は限られた力で服を脱ぎ、ワイシャツを捲くる。この服、自己洗浄機能に近いものがある。だから常に清潔だ。まあ、ずっと着ているのは元日本人として耐えがたいのでいつかは洗うが。俺は直に日光を浴びる。先ほど鏡代わりに使った石で日光を反射、俺の体に向けて高熱が発生。あー、燃える、ヤバイ、本当に、あ、あー、あ……。そこで俺はまた死んだ。それだけですむ予定だったんだが、


「ぐああああああああああああああ!」


 とんでもない激痛が黒い見慣れた空間で俺に圧しかかる。肌を焼かれるような痛み、いや、本当に燃えているかもしれない。あの日焼けした後にシャワーを浴びたときに走る痛みが何百倍にもなって襲ってくる。くそ、この体は痛覚を感じないんじゃないのか!


「ロキ、どうなってる!」

「あ、そういえば言ってなかったか。じゃあまた説明しないとね」


 若草色の髪の少年(少女?)は苦しむ俺に全く興味を示さず、淡々と話し始めた。


「君の体質は、痛覚を無効化する。だが、痛覚自体は溜まるんだ」

「……どういう、ことだ?」

「君は今日光の高熱でここに来たわけだけど、その分の、致死量分の溜まった分の痛みが今君の身を襲ってる。まあ普通に向こうの世界では感じないけどね。君は死ぬたび、再生が間に合わなかった分の痛みが数百倍になって君の身を焦がす。まああくまで痛みだけだし、死ねないよ。気を失うことも、ショック死も不可能。どうだい、今の気持ちは?」

「最悪だよ、畜生……」


 なるほどな。つまり、こいつは俺に軽々しく死ぬなといいたいのだろう。これが死の

重みと痛みだと。確かに、死ぬなんて事は容易くしていいことではない。今回は俺に完全に落ち度があるな。


「悪かったよ。すまない。これからは命、ってやつをちゃんと扱う」

「うん、それでいい! やはり、君はボクの見込んだ賢人だ。じゃ、シャーロットをよろしくね」

「ああ。いわれなくてもあいつは俺が―」

「そういうかっこつけいらないから。じゃあね~」


 またロキは俺を突き落とした。っておい、フツメンの数少ない男前名シーンを取らないでくれよ。いわれなくても俺が守ってやる。命に変えてもな。そういってみたかったのに。でも、二回言うとメチャクチャ恥ずかしい。ま、まあいいよな。うん、今回はなしで。俺の意識は暗転し、、覚醒した。


「リョウクン、リョウクン!」

「ん、シャーロットか。どうした?」

「なんですぐそういうことするの!」


 シャーロットは泣きそうな顔をしていた。そらそうだな。この世界で、唯一の知人が死んでいたのだ。心細かっただろう。今回はシャーロットにも悪いことをしていた。よく考えれば全く普通な行動とは思えない。異常だ。


「……ごめん」

「う、うん。わかってくれたらならいいの。さ、行こ!」

「ああ」


 俺が深く反省したのがわかってくれたようだ。俺たちはまた歩き出す。なぜか、【英雄転生】は発動しなかった。一体、これはどういう条件で発動するんだ?


【主、これはユニークスキル、前例の無いものです。こちらでも答えようがありません】


 そっか。先生でも無理なら今は諦めよう。俺はシャーロットのホウキで余った毛皮を頭上に浮かせ、その影に入って歩いた。随分と器用なホウキだ。先生ほどではないが頼りになる。心の中で頭を下げながら俺は歩いた。少し前を歩く。シャーロットはこちらを振り返らず、式神の指示を必死に聞きながら覚束ない足取りで歩いてる。彼女は長い髪を今は、肩に掛からないところまで短くまとめてる。編み込んだり、分けたり、俺にはよくわからないがとても可愛いというのはわかる。こういったところも庇護欲をそそられてしまう。

 だが、彼女と俺のこの戦力差は納得できないが。俺がぶつぶつ言いながら歩いていると、日が沈み始めた。お、体が楽になった。そこで、いきなりシャーロットが足を止め、土手にかがみこむ。俺も合わせて屈みこむ。


「どうしたんだ?」

「リョウクン、見て」


 シャーロットの指差した先にはほのかに明かりの付く村があった。だが、人間が暮らしているにしては屋根が低い。あれはもしかして?


「ゴブリン、の村か?」

「うん、多分そう」


 まさか、初めての村がゴブリンの村とはな。まあこの辺はどこの国でもない魔物の生息域だからな。普通だろう。さて、どうしたものかな。


ステータス 名前:ササキリョウジ

        種族:亜人ハーフエルフ

        性別:♂

        職業:錬金術師アルケミスト

        レベル:8 ランクE

        経験値:355MAX400

        HP:3000MAX3000 MP:1900MAX1900

        スキル:【鑑定】 【錬成】 【質量変化】 【重量変化】 【合成繊維錬              成】 【反復錬成】 【物質修復】 

        ユニークスキル:【森羅万象】 【英雄転生】

        魔法:【錬金術】

        装備:魔法式スーツ一式、ナイフなど

        

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