第7話
俺はさっき作った服をまた作った。それだけで、世界の声が聞こえてくる。
《ササキリョウジに新スキルが発生しました。【反復錬成】です。レベルアップです》
おっしゃ、レベルアップだ。おそらく、経験値はHPとMPを使用することによって溜まるのだろう。確かにさっきのはHPもMPも大分使ったしな。ここで俺は気になったことがある。先生、俺のステータスって他の
【具体的な数値はお教えできませんが、かなり低いほうでしょう。なにせ、神器のスステータス補正を受けていませんから】
ですよね~。は~。
【ですが、そのこともあり、主は錬金術師としてはとても優れています。スキルやレベルアップもとても早いので】
お、悪いことばっかりじゃない、ってことだな。確かに、世界の声を聞くときはなんというか達成感がある。シャーロットはあれが聞こえないのだろうか。なんというか、気のどくなきがしてきてしまう。だが、彼女は俺が哀れむことなんて望んでいないだろう。なら、俺はそんなことはしないさ。
それより、さっきみたいなことがあったとき、この服じゃまずいな。少し服のグレードを上げるしかない。俺は中世ヨーロッパのスーツをイメージした設計図を先生に依頼し、素材となるウール、ポリエステル、シルク、、コットン、リネンを集め始める。といっても、ウールは羊の毛だ。まず羊を見つけなくては。
「シャーロット、ホウキで羊がこの辺にいないか探してくれ」
「うん!」
シャーロットは空中に浮かんだ。シャーロットは高所恐怖症ではなく、ただパニックに弱いようだ。まあ、普通といえば普通だが。
「えっと、300メートル先くらいに群れがあるね」
「それって森の中だよな。じゃ、少し毛を貰ってくるか。シャーロット、待っててくれ」
「は~い」
俺は俊敏な動きで木陰だけを選んで進んでいく。木に登ったり、飛び移ったりと、かなりアクロバッティングだ。その途中、俺は石を拾っていく。それを【鑑定】する。
【堆積岩】
よし、期待通りだ。俺は【錬成】で堆積岩をナイフに変えていく。そして刃渡り10センチくらいのナイフができる。俺は茂みに身を隠しながら羊に近寄る。羊はほんのりと日光が当たる水場で休んでいた。この環境下で生きているからなのか、メチャクチャにゴツイ。すごい筋肉だ。あれに蹴られたら骨が絶対に折れる。慎重に俺は近寄って言った。俺は【反復錬成】でそこらじゅうの石を集めてナイフにしていく。最初は気絶させるつもりだったが、あれを気絶させられるとは思えない。何個か先の丸い棒状のものにし、俺は湖に投げる。群れを動かし、遅れたやつの毛を【抽出】させてつもりだ。だが、羊は逃げるのではなく、こちらにむかって突っ込んできた。え? 普通野生の動物って逃げないの? あんなマッチョなやつらに踏まれたら俺が挽肉なる。それは避けたい。群れといっても、十数匹だ。俺も向こうに向かって突っ込んでいく。そして、流れるように各々の頭を石のナイフの柄で叩き、右手で毛皮をそり、左手は【抽出】という処方でウールを回収していく。なんだろう、俺ってあんまりかっこよくない才能に恵まれているのかもしれない。何かと悲しいな畜生!
十分回収した俺はもう逃げようと思っていたんだが、どうやら、俺の天才的な芸当が小ばかにされたようにこの羊達には映ったようだ。再度突っ込んでくる。俺は木によじ登り、木の上を飛び移ってく。
「さすがにもう来ないだろ」
俺が振り向くと、俺のさっきいた木が倒されていた。あの羊たちは一斉にタックルして俺のいた木を折っているのだ。おいおい、この世界の家畜っていうのはこんなに強いのかよ!
【この森は魔力の濃度が通常地帯より大分高い。おそらく、その影響で魔力を体に宿した羊になったのでしょう。さきほどのハウンドウルフも同様で通常主より大分強かったようです。通常の家畜はもっと大人しく、地球と大差ありません】
ふ~、よかったよ。こんなのばっかりっていたらちょっと農家さんが可哀想だ。できればやりたくなかったのだが、仕方ない。俺はジャンプしながら羊の眉間にナイフを投げつけていく。ナイフが刺さった羊は、
「めええええええええ!」
「もええええええええ!」
「まええええええええ!」
「みええええええええ!」
「ぬええええええええ!」
とか叫びながら倒れていく。こいつら、個性的過ぎるだろ! そんなオーケストラみたいな叫び声とは思っていなかった。鳥肌立つよ本当に。俺が先頭の何匹かを殺したのを見て、他の羊は俺を睨みながらも逃げていく。本当に悪いとは思うが、先に俺の命を狙ってきたのはお前らだろ。それでも、命を殺めるいう行為はあまりいいものではない。それが人間であろうと、家畜であろうと、同じことだ。死肉をそのまま放置していくなんてことはできない。俺は残りのナイフで毛皮をそり、肉を切り分ける。この辺の知識も先生に頼りながらだ。まあ肉の切り分けだけだが。俺は肉も回収し帰途に付く。くそ、服が血生臭くなった。俺はまた服を脱ぎ作り着る。本来だったら洗濯したいところだが、そんな余裕も場所も無い。だが、服は捨てはしない。茂みなどで付いた傷を【錬成】で修復していくと、
《ササキリョウジに新スキルが発生しました。【物体修復】です》
お、またスキルが増えた。修復をより精密にするためのスキルだな。俺、スキル習得早すぎじゃね? 天才か、まさか俺にそういう才能が!
【主の場合、初期設定時に付与される分のスキルが後から追いついてきている節もあります】
ま、マジか。ちょっとショックだぜ。まあ、気を取り直していこう。俺は戻りながらも素材を順調に集めた。ポリエステルは人工物なので【錬成】で作り出す。結果、
《ササキリョウジに新スキルが発生しました。【合成繊維錬成】が発生しました》
合成繊維錬成、確かにそのうち役に立ちそうだ。っていうか、自己経営の服やができそうな感じの技術をいくつも手に入れたな。案外ラッキーだ。俺は今着ている麻の服を下着にすることにした。さっきのズボンではなく、下着を作り直す。俺のムスコにフィットするジャストなサイズだ。最高。それに、この森で大半のものが揃ったのも大きい。だが、普通はここまでいっぱい素材は使わない気がする。まあ、今更言っても仕方ないけどさ。俺はシャーロットの元に戻る前にスーツを作ってしまうことにした。まずはズボン、これは無地の黒だ。そしてさっきのハウンドウルフの茶色の皮でベルトを作り(金具は堆積岩、今はコレしかない)、白のワイシャツ、灰色のベストを作る。黒いネクタイを締め、そして黒の背広を着る。そしてベージュ色のコートを着込む。あまった素材で黒の背の短いシルクハットを被る(じゃないと俺が日光で途中で気を失うからだ)。靴は樹皮で型を取り、ハウンドウルフの皮を使いまくった革靴を履く。なんていうか、地球じゃ絶対できないような格好だ。でも、案外気に入ってる。俺は自分の体格はこの世界と地球で全く変わってないと思っていたが、顔は見ていない。ふと気になって、錬成で石を磨き、
《ササキリョウジが魔法、【錬金術】を発生させました》
顔を見る。っていうか、今錬金術っていった? コレ石だぞ、あ、でも金属になってるな。コレ、鉄鉱石なのか。いや、それより、魔法だと?! 錬金術も魔法なんだな。確かに事象を塗り替える強力な技術だからな。なるほど、鑑定でも同一結果だ。あー、くそ、今顔を確かめてる途中だったのに。気を取り直してもう一回見てみる。そこまで変わったわけじゃない。ただ、バランスはよくなってる。黒髪黒目。少し切れ長の目も変わってない。ただ、、前より顔に活力があるように見える。転生のおかげか、それとも彼女のおかげか。この答えは今は出ないだろう。なら考えないのが世の情けってもんさ。俺はシャーロットのもとに戻った。
「もどったぞシャーロット」
「あ、リョウクン……?」
「あのね、服を立派にしたからって疑問系じゃなくてもよくない?」
シャーロットは信じられないという顔で俺を見てる。ココは木陰なので、帽子を取る。相変わらずボサボサの長くも短くも無い髪がある。これがさっきはげかけていたと考えると、大事にしないとな。それにしても、
「お、おい。長い間見すぎだよ。そんなに変か? 自分では割りと気にいってるんだが」
「ううん、とっても似合ってるよ!」
お、この世界初のシャーロットスマイルだ。眼福眼福。でも、やっぱりこの顔を見ると自然と俺のほうが照れてしまう。
「そ、そっか。ありがとう。そうだ、コレ使えよ」
俺は来る途中に作った羊毛のかばんを渡した。
「お前は俺と違って荷物が多いからな。とりあえず、ホウキと杖以外はその中に詰めちまえ。ほら、ささっとこの森を抜けるぞ」
「うん!」
また神姫の微笑だ。くそ、これを見ると、ちょっと幸せな気分にされて癪だな。ぽっけとに手を入れ足早に歩く俺にシャーロットは笑顔で付いてくるのだった。
ステータス 名前:ササキリョウジ
種族:
性別:♂
職業:
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