一章 アルケミスト、ゴブリン村救出!

第6話

シャーロットに吹き飛ばされた後、俺は頭を守りながら着地した。もちろん、空中で服を着ながらね。どうやら日光が当たらない環境なら大分この体は自由が利く。またシャーロットがホウキで飛んできた。


「ごめんなさいごめんなさい!」

「そんな必死に謝らなくてもいいよ。それに、この体痛覚がほとんどないし。さ、行こうか」


 俺は歩き始める。そして気づく。


「ねえ、ココどこ? 俺どこいけばいいかわからないんだけど」

「ほえ?」


 なんでそんな間抜け面(でも可愛い)してこっち見るんだよ。仕方ない、先生、ご教授をお願いします。


【かしこまりました。現在地は、サングリア大陸中部の大森林です。この地は、どこの国の領地にもなっていないモンスターの住処だそうです】


 え、マジで? あ~もしかしてあそこの目が赤いのってモンスターか。俺の前方にの茂みに、赤い目がいくつか浮かび上がる。


【はい。ハウンドウルフです。単体としてはランクE指定のモンスターですが、群れで行動する習性があり、小規模なもので4,5体、大規模なものでは20にも及びます。ですので、ランクはDからCにも相当するといわれています】


 じゃああいつら倒さないと俺この森から出られない? っていうか俺勝てるか?


【主はあまり戦闘向きの職業ではありませんが、私の知る限り、主はとてもお強い。ご武運を】


 先生がそこまで言ってくれてるのに戦わないほど俺は男を捨ててない。


「シャーロット、君はここにいる奴等と戦える?」

「う、うん。陰陽魔法と神祇魔法ならできるかも。でも時間が掛かるよ?」

「問題ない。そのくらいなら俺が稼いで見せる!」


 こういった興奮はだ。決して性的興奮ではないぞ。命の駆け引き、その興奮だ。


「行くぞ!」


 俺は走り始めた。ここは幸いなことに木陰でほとんど日光が差し込まない。ラッキーだ。俺が動いたのを見てハウンドウルフが飛び出してくる。俺は正直、犬か狼かどっちだよ! って思ってたんだけど、なんかしっくり来る感じのモンスターだ。このモンスターは知能が高いらしい。十体ほどを五体ずつに分かれて俺とシャーロットを襲ってくる。シャーロットのもとにハウンドウルフの牙が触れそうになるが、


「させるかよ!」


 俺は自分の近くにいる奴等を殴り飛ばし、シャーロットに近寄るやつに回し蹴りを喰らわす。お~、この体めちゃめちゃいい感じに動くぞ。それに、俺がしたいと思うことは先生が脳内でサンプルを再生してくれるから動きも滑らかになる。無双だぜ!


「おら、来いよ!」


 回し蹴り、上段蹴り、三段蹴り、踵下ろしなど蹴りの連打をかます。今の連檄で三体ほど倒したようだ。調子に乗った俺は、少し離れてるやつを飛びながら殴る。だが、


「な、なんでここだけ日光が……!」


 俺は地面にへばり付いた。ヤバイ、動けない。ハウンドウルフたちは目を妖しく光らせながら、復讐のように俺の体を貪りに来る。や、やめろ、服が、おい、ケツのところを剥がすな! きゃあああああああ!


「シャーロット、そろそろ何とかならない?」

「もうちょっとだから!」


 シャーロットを見ると、俺のケツを見ないように向こう側を向いて自分のかさばる荷物を漁ってる。どんくさいなお前。あ、ヤバイ、そろそろ死ぬ!

 俺がそう思った途端、視界が暗転し、見覚えのある場所にやってきた。


「やあ、久しぶり」

「っていってもまだ一日未満だろ。それで今はどういう状況なんだロキ」


 俺の前に立っていたのは若草色の髪を持った悪戯っ子という表現がよく似合う容姿の中性的な人物だ。


「あ、そういえば言わなかったけ。君の固有体質 【不死者ゾンビ】はね、痛覚を無効化し、即時再生を可能にする。だけどね、通常の人間の致死量分の攻撃を受けると君は今のままだとすぐ死ぬんだよ」

「どういう意味だ?」


 素直に言ってる意味がわからん。


「いやだってさ、本当に死なない不死身な体質とか無いでしょ」


 まあその通りだと思うけど、そういう体質の人にそれ言うか普通?


「君の不死者の体質はね、今までに受けた死の経験、君の場合、刺殺と出血死を体験したからその辺には免疫ができる、というったようなものなのさ」

「つまり、死んだ分だけ死に難くなる、と?」

「正解。それで、戻り方だけど、今君の体では書き換え作業が行われている。さっきの免疫をプラスして新たな君を構成するんだ。まあ、それは高速再生でもうすぐ終わるさ。今君が死んでからだいたい一秒未満だ。死に、生き返った直後の君は身体能力や魔力が暴走状態になっている。その辺は君でどうにかしてね。じゃあね~」

「お、おい何すんだよ!」


 俺はなぜかロキに蹴り落とされた。そしてもとに戻ったわけだが、


「シャーロット!」


 俺が死んだのを確認したモンスター共はシャーロットに標的を変えていた。日光に当たってる俺はとんでもなく弱いのだが、今は死んだ直後で魔力や体が暴走的活性化をしている。俺は人間様のパワーでいう200パーセントくらいの力で地面を蹴る。あっという間に接近したハウンドウルフたちをタックルで吹き飛ばす。そしてシャーロットの前に立ち、身構える。


「シャーロットもういいか?」

「うん。だ、だから早くお尻隠して!」


 おっといけない。今の俺はハンケツどころかケツを隠すものが一切無い。俺はとりあえずシャーロットのもとを離れて前の奴等に飛び込む。脳内先生の声が聞こえてくる。


【主、【英雄転生】を発動します。健闘を】


 ほえ? それ何? この疑問に先生は答えてくれなかったが、なぜか俺の体が青白く発光し始める。そして体中に異様なオーラ、というか力が沸いてくる。これが魔力の波というやつなのだろう。今ならなんでもできる気がする。俺は近くの木を引っこ抜き(300パーセント)、投げつける。二体が潰れる。よっしゃ! そんな俺の喜びもつかの間、シャーロットが叫んだ。


「リョウ君、退いて!」

「おう!」


 俺は精一杯に真横に飛ぶ。シャーロットがなにやら詠唱を始めた。


「神に仕えし陰陽の巫女が願い奉る・月夜の輝き・天の光。【神祇魔法】 天照大神!」


 俺の飛んだすぐ後ろを眩い光が駆け抜ける。俺は地面に転がりながらも、シャーロットを見る。すると、シャーロットの後ろに光に包まれた神が光臨していた。その圧倒的質量で、襲ってきたハウンドウルフどころか、後方の森が吹き飛んだ。跡形も無い。なんでだ、実力差がありすぎだろ!


【主が本来、神器を選ぶことで加算された分の能力もシャーロット様に回っています。そのせいもあるでしょう】


 先生が俺を励ましてくれてるようだ。マジで最高ですわ先生。一生付いてきます! まあ何より、俺の服がボロボロになるくらいで犠牲はすんだ。は~、新しい服作らないとな。とりあえず、命があるからオッケーってことで!

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