第4話・第四次エルバ774戦役.3 "退役勧告"

 金属の化け物女といった罵声をかけられるのはいつものことであるし、相手が機械化兵だろうが生物強化兵だろうが、ましては何ら改造措置を受けていないゲリラであろうが、殲滅するのが機械化兵士の任務であり、当然の”業務”であった。だから復讐のために襲われるなんてことはいつものことであり、いちいち気にかけることはなかった。


 だがマリンの電脳の情報処理のバグのせいか、マリン本来の”人間らしさ”が発現してしまった。憐みの心だ! マリンに復讐しようとした女性ゲリラも彼氏と同じように葬った後、マリンは精神的に参ってしまったのだ。それを察知した戦闘指揮システムによって、マリンは強制的に前線の指揮権を剥奪されてしまった。こんな人間らしい感情を持ち敵に対し憐れみを抱いた戦闘指揮官は有害だとみなされたからだ。


 エンヴォーグにおける戦闘が終結した後、マリンが指揮していた部隊は事実上解体されてしまい、残存兵力のうちの一部がエルバ774基地に到着したわけだ。この時点で事実上マリンの退役は決定的だった。なぜならマリンは自発的精神改造を拒否したからだ。


 マリンのように実戦部隊の指揮官まで昇進した機械化兵士は自身の今後についてある程度の自由意志が認められていた。さらに機械化するか、それとも退役するかである。前者の場合は精神改造、すなわち電脳の自我をさらに機械的なものに書き換える事でさらなる戦闘マシーンとなることであるが、後者の場合は兵士として失格の烙印を押される事であった。そうなれば、マリンの機械化兵士としてのキャリアは終わるわけだ。


 軍中枢からの命令が超光速異次元通信によって送られてきたのはエルバ774の通信システム端末であった。その軍中枢からの命令書はこんなものであった。


”第815女子遊撃強襲機械兵小隊指揮官マリン・エルグ・ニシヅカ大尉は第99戦区艦隊本部に到着した時点で退役処分とする。なお武装解除手術実施後に今後の事は決定する、以上。第99戦区艦隊司令兵務署”


 マリンはやっぱりだと思った。機械化兵士の末路といえば戦闘で喪失するか生き残っても耐用年数がくれば廃棄されるかであった。運がよければ残された電脳が別の義体に移植される可能性があった。


 マリンの機械化された身体の耐用年数はまだ相当余裕があったので、リサイクルできる”部品”は別の戦闘マシーンの製造に使われるが、リサイクルされないものがあった。それがマリンの電脳と生殖器だった。


 その二つだけは新たな義体に移植されて、後は機械盟約にとって役に立つ兵士供給のための種族繁栄のために尽くせという事であった。ようは子育てをしろということだった。


 マリンはその措置に対して複雑な想いをしていた。血塗られ破壊だけの世界から解放されても、次は繁殖のために従事しないといけないことに対する絶望感であった。マリンの電脳の作動レベルは下がり気味であった。

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脱走女子機械兵マリンの憂鬱 ジャン・幸田 @JeanKouda0

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