エピローグ

エピローグ・聖女再生、失敗――


「よう、生きてたか」

 しばらく、灰と親友の死体の横でうずくまっていた所に、様子を見にムンビがやってきた。

「……そうだな」

 後から、シンドとイグアナ。そしてシンドのツールから、メッティ・シュガーの声が聞こえる。

「……生きてるの、隊長の方、ですよね」

「中身がヨウ・ルツギの方だっていうなら、そうだよ。あっちは俺が焼き払った」

 クローンが居た辺りは、小さく灰が盛られていたけれども、風が吹いて舞い散ってしまう。

「――少し、離れてろ」

 剣を拾い上げ、落ち着いてきた経絡にチャクラを回す。焼き付いて使い物にならなくなったかと思ったけれど、きちんと練られたチャクラはジュツを起動させる。

 周囲の温度が下がるのを感じて、3人が更に距離をとった所で、回転数を上げるとそのまま剣に熱を集めて、カイドの死体を焼き払った。

 思ったよりも心が不安定だったのか、炭を経てやっとの事で灰になるまで焼き尽くした。

 そしてしばらく立ち尽くす。何も、喋る気が起きなかった。

「――お前はどうして、無事だったんだ」

 イグアナが、その空気の中で口を開いた。

 周りは、何の区別も無く炭や灰になるまで焼き尽くされていた。その中で、俺とカイドだけが生き延びていた。

「……ミナに助けられた」

 あのクローンは、一瞬だけ俺達の知るミナだった。

 魂がどうとか、そういうことは分からない。ただ“俺と同じく命がけ”で“ジュツを制御して”助けてくれたのは確かだ。

 いや。あの時、焼き払おうとした瞬間に聞こえた声は、そもそも俺以外に聞こえてたのか。

 立ちすくんでいると、シンドが鞘を拾って俺の所に持ってきてくれた。

「……これから、どうするんですか」

 溶けかけ、形が歪んだ剣を無理矢理鞘に収める。そしてシンドの問いかけの答えを、ムンビも待っていた。イグアナとツールの方は良く分からない。

「……カイドを殺して、クローンを全部焼いて、俺も最後に死ぬ気だった」

 この体もミナのクローンだ。一人、のうのうと生き残る訳にもいかない――と思っていた。

「じゃあ、今は……?」

 口にしたくなかった。考えたくも無かった。

 けれども――。

「あいつ等、本当に無責任すぎるんだよ……っ!」

 思わず大声を上げてしまうと、側にいたシンドが身をすくませる。

「揃いもそろって先に死んでおいて、しかも同じような事ばかり言いやがって……! 何が“後を頼む”だ! 人任せにしてるんじゃねえ!!」

 俺を助けたクローンのミナも。

 俺に殺されたカイドも。

「……隊長」

 なんといえば良いのか分からない感情が、体の中を大蛇か激流のようにうねりを上げて回り続ける。

 胃の重くなるような、叫び出したくなるような。何かをぶちこわしたくなるような衝動がぐるぐるする。

 ――それを、無理矢理深呼吸で落ち着かせる。一度や二度じゃない。何度も、チャクラの呼吸とも違う、心を落ち着かせる為に、無理矢理ねじ伏せるように、息を吸って、吐く。


「――聖女を、やる」


 捻りきって、絞り出した答えが、ソレだった。

「再誕した聖女を、やってやる。ボロボロになった比良坂を、とりあえずどうにかしてやる。あのバカ2人に押しつけられて、不本意極まりないけれども、それでも――っ」

 奥歯が割れそうな位に歯を食いしばる。

「――死ぬ前に、そのくらいは、やってやる」

「そ、それじゃあ……!」

 驚きと嬉しさが入り交じった笑顔を浮かべるシンド。

「手伝え、シンド。ムンビももう逃げるな、逃がさないからな。イグアナ、お前も雇われろ。手駒が欲しい」

 聖女なんて柄じゃない。

 不本意で面倒で、本当は一度死んでいて、死ぬ気だったのに、誰も彼もが死なせてくれない。

 親友共はそろって俺に押しつけて、目の前には自分がやらかした灰の山と、擦り切れて疲れ切った地獄のような街が広がっている。

「はい、喜んで!」

「ったく、しゃーねぇな」

「仕事か、なら良いだろう」


 何を何処まで出来るかは分からないけれど、どうやら逃げた方が後悔しそうだった。

 せめて死んだ時に、胸を張っていけるように。

 俺は、この街で押しつけられた“聖女”をやる事にした。


 聖女再生は、成功したのか、失敗したのか。

 それは――。

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聖女再生、失敗 森崎亮人 @morisakiR

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