#1 遠い世界の願い事

「……っす…きるっす…」

誰かの声が聞こえる。

「…おきるっすよ!」

ぺしぺしっ、俺の頬を叩きながら目の前の少女は言う。

いつまで寝ていただろうか、記憶が曖昧だ。

時計を最後に見たときは9時頃だったはず…

「って!お前は誰だ!?なんで俺の家にいて…俺は…?」

「やっぱり状況が呑み込めてないっすね~」

目の前の少女は言う。

「俺はコンビにいて…叫び声がしたから見に行ったら…?」

記憶がない…何か黒いのを見た気がする…

「そこまでは覚えてるっすか?」

てかなんなんだ目の前美少女は…日本人とは思えないくらい綺麗な銀色のロングをポニーテールにしている。身長は…俺と頭一つとちょっと違うくらいか?いやこれはきっと夢だ、悪い夢でも見てるんだ。おーい、早く目を覚ませ俺ー…

どうやら夢ではないらしい。

「なあ、お前…どうして俺の家にいる?どこから来た?」

少女は少し唸ってから

「あたしは吸血鬼と魔人のハーフっす、名前はエミ・ヴァーダっす。」

「吸血鬼っておま…」

「別にニンニクとか十字架がダメってわけじゃないっすよ、ただ太陽に当たると使える力が二分の一になったり鏡には半透明にしか映らなかったり…ってっところっすかね?」

少女は淡々と答える。

「あたしはあんたをさらう為に来た、と言っても過言じゃないっすよ?」

「ちょっとまて…」

言葉はさえぎられる。

「とりあえず普通に東京での学校生活楽しんでくださいっす。早く寝たほうがいいっすよ?今日あったことは明日ゆっくり話すっすから。」

時計は深夜一時を回っていた。

「ったく…人んちにいきなり来たかと思えば…まあいい、お前はうちに泊まったりしないよな…?」

少女は少し考えて

「今日はカエるっす。あ、もしかしたら居候するかもっす、その時は…よろしくっす。」

「ああ、そうか…って居候かよっ!」

少女は闇に消えていた。



ジリリリリリリリ…目覚まし時計がやかましく鳴り響く。

「…んん、朝か……」

カチッ、スイッチを押して時間を確かめる。

もうこんな時間か…さっさと飯食っていかねぇと…

「何食うかなぁ…」

眠たい目をこすりながらキッチンへ向かう。

「おはようございま~すっすよ」

何か聞こえた気がするがとりあえず顔を洗おう。

「挨拶は大事っすよ?なんでも気が晴れるとかなんとか…」

いやぁ朝の洗顔はいいね!気持ちがいい。

あ、タオル出すの忘れてた…お、出てる。ラッキー、神様も俺の日ごろの行いを見てくれてるんだろうなぁ…しかも手渡しとは!なんと気が利くんでしょう!これも匠ならではの工夫。

某家屋改造番組のナレーションが脳内再生される。

「ありがとうがないどころか無視っすか?いい度胸してるっすね」

なんか見えた気がするがきっとまだ目がちゃんと覚めてないんだろう。

いやぁこの世にこんな銀髪美少女がいるわけない、ましてやエミ・ヴァーダ何て名前の奴が…

「ってなんでお前が俺の家にいるんだァァァァァァァァ!!」

ご近所さんに怒られた。



「んで、お前はどうして俺の家にいる?どうやって入った?」

椅子に座り何故か用意されていた目玉焼きを頬張りながら

「単純っすよ、ここの窓を……」

「割ったのか!?」

「割ってないっすよ〜昨日鍵を開けて行っただけっす」

メチャクチャ焦った、タダでさえ金がないのに……

「そうだ、昨日あったことを話してほしい」

俺は昨日の夜コンビニから家まで意識がなくこいつ、いやエミに介抱?されていた。

「そっすね〜…どこまで覚えてるっすか?」

エミは前のめりに尋ねてくる。

「近いな…んー…叫び声を聞いてなにか見るところまで、かな」

俺は昨日の記憶の引き出しを漁る。

「"なにか"っすか、そのなにかは明確には覚えてないんすね?」

どう頑張っても思い出せない、確かに見たはずなのに。

「これからあんたにはいろいろ知ってもらわなきゃいけないっす」

色々とはなんだ…なんだか嫌な予感がする…

「その前にあんたの方の情報がほしいっすね、あの人は教えてくれなかったんで」

あの人とはなんだ…まったく訳が分からん。

「情報って…自己紹介とかそんなもんでいいのか?」

「そうっすね~」

箸を口元に当て少女は答える。

なぜか家で見たこともない派手な箸を持っている、マイ箸というやつか?

「俺は佐野結衣斗、年は16、今年新潟県から上京して高校に進学したばかりだ。」

ふ~んと聞こえてきそうだった

「彼女はいるんすか?」

くっ…!なんて嫌な質問を!痛いところをついてきやがる…

そんなことを考えていると

「い、いないんすねwww」

おい!なんだそれ!なんだその馬鹿にした笑い方!

殴りてぇぇぇぇぇ…

「い、いねぇよ…悪いか…?」

この野郎…!

「い、いやwわるくないっすけど…あっはははははははwww」

「おいてめぇ、一発殴らせろ」

「か弱い女の子に手をあげる気っすか?」

いやいやいやいや!おかしいのはそ…やめて!私をそんな瞳で見つめないで!怒れなくなっちゃったじゃないの!

「そ、そうデスネ…やめておきマス…」

「いい子wいい子w」

やっぱ殴りてぇぇぇぇ…!

そんなこんなで朝ご飯を食べ終わり

「学校っすか?」

なんでこいつは俺の周りをずっとウロチョロするんだ…金魚のフンか!

「着替えるからどっかいってろ」

「私は気にしないっすから~」

いや違ぁう!お前じゃない!俺だよぉ!気にするのは!

少しは高校男子の恥ずかしさを理解してくれよぉぉぉ!

「そ、そうか…」

ジロジロ見るなぁぁぁぁ!

「…ぷっw」

なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?「ぷっw」っじゃねぇよ!

「……恥ずかしいよぉ///」

俺の渾身の演技だ受け取れ

「すごく…」

おお?すごくなんだ…?

「キモいっすね」

畜生!…いやよく考えれば気持ち悪いな、うん。

「俺は学校行くけどお前は何するんだ?」

割と気になる

「私っすか?私はいろいろ報告とかそういうのがあるっすから一旦ここはでるっすよ?」

その後にいつでも入れるっすからと続ける。

いや俺のマンションのセキュリティはホームレス並みか!

まあ”ヒト”じゃないこいつなら余裕なんだろうな

「んじゃいってくるわ」

エミは手を振りながら

「いてらっしゃいっす~」


キーンコーンカーンコーン

「起立!気をつけ、礼!」

朝のHRが始まった

新井、飯塚…とテンポよく先生が出席をとっていく。

「おい、佐野!」

横から声をかけてきたのは多田魁人、クラスのムードメーカーみたいなやつでうるさい。

入学してすぐ声をかけてきたのもこいつだった。

「お前やけに眠そうだな、彼女にフラれでもしたか?」

おいお前、その話題はNGだぞ、デジャブを感じる…

「彼女なんてはなっからいねぇよ…」

どうしてこうも俺は彼女がいると思われるんだ…

いやもしかしていないのをわかってて聞いてくるのか…?

「そっか、そうだったな」

笑うな!お前もか!

「生憎な…多田、お前はいんのかよ」

こうなったら聞き返す

「そうだな、いるかもなぁ」

なんだその言い方!イライラさせんな!

「はっきり言ってくれ…」

ん?と

「いねえよ?」

仲間だ…!やったぜ!

「い、いないのか」

「いてもいなくても変わらないだろ?」

こいつ意外と適当な奴だったりして…いやそうだな

まぁいっか。



「あ、そっすね~、何を見たかまでは覚えてないらしいっす」

「あなたの正体については話したのかしら?」

「目的と自分の種族くらいっすかね、ちなみに目的は濁した感じにしたっすけど」

「まぁいいわ、いずれ知ることになるのだから」

「そっすね~、んじゃまた」

機械のマイクが切られる

「ハイテクなのに聞き取りにくいってどういうことっすか全く…」

あとでパーツをもっといいやつにしとかないとっすね

エミは建設中のビルの屋上にいた。今日は休工中だ。

お腹すいたっすね…でも結衣斗が返ってくるまで飯は当たらないっす…

「エミ様、ここにいましたか」

「あ、やっときたっすか~、遅いっすよ全く」

「いえ、少し手間取ってしまって」

メイド姿の女は淡々と答える。

「ま、いいっすけど~」

あ、そういえば

「お腹すいたっす、何か食べ物ないっすか?」

メイドは少し考え

「コンビニというものを利用してみては如何でしょう?」

「お、いいっすね?お金はあるっすか?」

「何をおっしゃいますか、お持ちになってるでしょう?」

バレたっすか…仕方ないっすね

「それじゃ、ちょっといってくるっす」

エミはそのまま飛び降りて姿を消した



キーンコーンカーンコーン

「気を付け、礼!」

どうしてあんなにも放課後近くまで元気に挨拶していられるのだろうか、俺は不思議でたまらない。

とりあえず帰るか…

「あれ?結衣斗部活は?」

またお前か、多田よ。

「あのなぁ、まだ始まってないだろ?」

そう、まだ五月半ばである、まだまだ体験、見学期間だ。

「そっか、わりわり」

ボケてるにも程があるだろ…



「じゃあな」

「おう、じゃあな」

俺は多田と別れた後帰り道を歩いていた

帰ったらエミがいるのだろうか、あんな性格だが見た目は超絶かわいい。

思春期男子には刺激の強いナイスバディ…とは言い難いが。

相変わらず眠いな…

「オマエガ佐野結衣斗カ…」

俺は背中から声をかけられた—――







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