第10話

 タケミナカタは訝った。

 重要な話が良い話であったためしがなかったからだ。とはいうものの、おそらく遠くから自分に会うためにやってきた貴人を無下に帰すわけにもいかない。

「長い話になりましょう。どこか、落ち着ける場所をご存知ありませんか」

 ヤエコトシロはそう言ったので、タケミナカタは自分の館に客としてもてなすことにした。

「わざわざ私に会いに参られたのか?ええと、その、やくもたから」

「やくもたつ国、みほのみさきです。そう、わたしにはあなたの助けが必要なのです」

「なぜ、私に?やくもたつ国からこの国は近くはあるまい。なぜに、わざわざ遠くの国の私に助けを求めるのだ」

 タケミナカタはさらに質問を重ねた。

「それはおいおいお話ししましょう。わたしは、あなたに助けを求めているのです」

 そこで、タケミナカタは自分の館に戻ると、家人に支度を申しつけた。突然の予定外の来客にタケミナカタの家の者どもは浮き足だった。

 ヤエコトシロが西国のものだということはわかっていたが、そもそも西国のものがタケミナカタを訪ねてきたのは初めてだ。どのようなもてなしをすればよいのか、誰も知らなかった。そのため、タケミナカタは東国のものと同じようにもてなすことにした。幸い、失礼はなかったようだ。

 夕餉が終わるころ、タケミナカタは切り出した。

「話をきこう。だが、そなたを助けるかどうかは話を聞いてからだ」

 そこで、ヤエコトシロは話し始めた。あしひきの山鳥の尾のしだり尾のご

とき長い長い話になった。ヤエコトシロが先般言ったように、重要な話で

もあった。

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タケミナ 穂積 秋 @min2hod

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