第9話

 タケミナカタはたじろいだ。

 世の中にタケミナカタをたじろがせることができるものは多くない。

 それでこそ、タケミナカタの名を持つ由来であるのだから。

 しかしこの少女からは何やら不思議な感覚を覚える。

 自分とは異質の力を持っているかのような。

 そのまだ見たこともないあるかどうかもわからぬ未知の力にタケミナカタはたじろいだ。

 そしてそのことに驚いた。

 自分がたじろぐことがあるとは思っていなかったからである。

「私は待ち伏せられることを畏れてはおらぬ。畏れる理由がないからだ。かつて私を待ち伏せて斬ろうとしたものもいたが、いずれも事をなさなかった。そなたもその手合だというのなら、私に害をなそうとしたものどもがどのような最期を遂げたか詳しく語ってさしあげよう」

 タケミナカタは自分が覚えた感覚を振り払うように威厳をもって言葉を返した。

 しかしそれはあまり効果がなかったようだ。

「わたしは待ち伏せていたわけではないし斬ろうなどとは思っていませんよ。待ち合わせようとしていたんですけど」ヤエコトシロは一度言葉を切り、潤んだ目でタケミナカタを見つめて続けた。「あなたに遭いたくて」

 ヤエコトシロはなんだかあやしい雰囲気に持っていきたいようだ。タケミナカタは拒絶するための言葉を切り出した。

「私の名は知っておっても、私を知らなかったのであろう、そなたはさきほどそう言った。知らぬものを待ち合わせてどうするのだ」

 ヤエコトシロはその言葉にあまり反応を示さなかった。しかたなくタケミナカタは相手に合わせて話題を替えた。

「で、私に用事があるのか」

「そう、そうです。わたしはあなたに重要な話を持ってきたのですよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る