第8話
タケミナカタは断言した。
なよ竹のかくやには及ばぬとしても、これだけの器量を持つ姫ならば、誰か有力者の娘であろう、機嫌を損ねぬほうがよいと考えたのだ。なぜに護衛もなく独りいるのかはわからぬが、それはお互いさまだ。
「そうですか。わたしはあなたの名くらいは存じておりましたのに」
「だが、知らぬものは知らぬのだ」
ヤエコトシロはとん、と沓を鳴らして後ろに一歩さがった。
「そうですか。それならそうなのでしょう。わたしの虚名もここでは使えないのですね」
「そなた、それなりの名を持つものか」
ヤエコトシロは目を細めた。
「先ほどから名乗っております。なのに効果がないということは、わたしはここではあなたのいうそれなりの名を持っていないのでしょう」
タケミナカタはここにきて少女をじっくり眺めた。登場の仕方と破天荒な言動に惑わされ、ろくに見ていなかったのだ。
着ているものは上等なもので、良家のものであることがわかる。ただ、それにしてはひとりで行動していることが解せぬ。タケミナカタもひとりで行動しているが、それは別の事情があるのだ。淡い赤を基調とした服は、ヤエコトシロに似合っていると思えた。そして、今さらながらであるが、ヤエコトシロが白く光る腕輪を身につけていることにタケミナカタは気づいた。
「さて。わたしのことはもういいでしょう。あまり説明する気もありません」
ヤエコトシロはたたんたたんたんと調子良く沓を鳴らし、身をかがめたかと思うと、驚くほど軽やかに体を一回転させた。ヤエコトシロの右腕の腕輪がしゃらんしゃらんと音を立て、その音に紛れ込ませるかのように声をきいた。
「わたしはあなたを待っていたのです」
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