第7話
タケミナカタは感心した。
少女が振袖をふるりと振る振舞に心を奪われたのだ。
タケミナカタは少女の舞いを見ていたいと思ってやまなかったが、なんとか心を取り戻し、先ほどの問いを繰り返した。
「我が名はタケミナカタ。しなのおうみのほとりの出なり。そなたの名はなんと申す」
少女は舞いをやめなかった。舞いながらこう言った。
「よくなってきましたね。ならばわたしも答えを返さねばなりますまい」
とん。
沓を鳴らした。
「しなのおうみのたけきみなわかなをもとむ」
つつつ。
近寄った。舞いをやめ拝礼した。
「やくもたつみほのみさきのいるえさき、ヤエコトシロと申します」
顔をあげた。
「お待ち申しあげておりました」
タケミナカタは思わず調子を外して呟いた。
「待っていたと?」
「そう、舞ってましたー」
「いや、そうじゃない。ええと、そうだな、かかるところに舞いて待つ、さすれば我をいかに知りしか」
「知るも知らぬも逢坂の、逢いて相手の名をぞ知る。まあ、知ってるとも知らないとも言えますね、タケミナカタさま。あなたの名は存じ上げておりましたが、あなたのことは存じておりませぬ」
「私の名を知っていたと?誰から聞いた」
「それはひみつです」
少女、ヤエコトシロはくるりと翻った。
「ですがタケミナカタさま、わたしの名はご存知でしたか」
タケミナカタは少女の名を聞いたことがあるかどうか思案した。西国の造のもとにいと美しき姫あり、という話を聞いたことがある。その姫の名をなよ竹のかくやといいける。
いや、違う名ではないか。
「残念だが、そなたの名を聞いたことはない。だが、もう忘れることはな
いだろう」
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