第6話

 タケミナカタは驚愕した。

 見も知らぬ少女が自分の名を知っていたからである。

「なぜ、私の名を知っている」

「もしかしたらそうかな、と思って。ということは、あなたがタケミナカタさまなのですね」

「知っているなら隠しても仕方がない。その通りだ」

 タケミナカタは居直った。

「しかし、そなたには私の問いに答えて貰わねばならぬ」

「答えられること、答えられぬこと、答えがないこと、答えるべきではないこと、様々な問いがございます。さきほど申しましたがわたしの言葉はかなり重いのですよ。軽々しい問答にお応えするわけには参りません。わたしの言葉を聞くに値する問い語りであるかどうか、じっくりお考えください」

「なかなか言ってくれるな。そなたの言葉が重いとはどういうことだ」

「おやおや。それがひとつめの問いですか。とは言え、初対面で互いに名も知らなかったもの同士、わたしの言葉を軽く見るのも仕方ありませんわね」

 そう言われてタケミナカタは少女の名も知らないことに気づいた。

「そなた、名をなんと申す」

 タケミナカタは威厳を込めてひとつめの問いを発した。すると少女の顔に満面の笑みが拡がった。

「そう、それです。それこそわたしが求めていた問いです。美しい問答にはリズムがある。そうでなきゃいけません。そうでなきゃいけませんわ」

「?リズムとは?」

「ああ、あなたの語彙にはない言葉でしたね。無を律する、即ちリズムなり、と空事を騙って誤魔化すのはさすがに失礼ですんで、理詰めでリズムを考えてみますと、調子、が近いですかね」

「調子?」

「そうです。文を調えるのですよ。それでこそわたしに問うに値する問いでございます」

 少女はひらりと舞った。

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