第5話

 タケミナカタは瞠目した。

 さきの姿なき声との問答を、なきことにするためである。そういえば姿なき声は次の夢にてお会いしましょうと言っていた。夢だったに違いないのである。

「いや、そんなことより」

 タケミナカタは目を開いた。

「そなた、先ほど私に大事なことを言っておったな」

「現代の車のことは、大事でも小事でもなく、単なるご挨拶ですよ」

「現代も起亜もどうでもよい。そのような言葉は私には理解できぬのだ。そのことではない。私がどこから誤っていたかということだ」

 少女は、えもいわれぬ笑顔を見せた。

「おかしいか。そなたも私を愚弄するか」

「そうではございませぬ。あなたの誤ちは終わっていない、と申し上げました」

「そう、それだ。その言葉の真意を知りたい」

 少女はきゃらきゃらと笑った。

「私を笑うのか。相応の覚悟はできておるのか」

「覚悟なんて異国の言葉をあなたが使っちゃだめですよ〜」

「小娘に指図される覚えはない」

 少女は顔から笑みを消した。

「わたしの言葉は重いのです。あなたはわたしの言葉を聞くに値するお方ですか」

「なんと不遜な。私を誰だか知らぬのか」

 タケミナカタは不快になった。

「名をなんとおっしゃるのです?」

 少女は怯まなかった。それどころか名を聞いた。

「見ず知らずの小娘に名乗る名は持ち合わせておらぬ」

「教えてくださいよぉ」

「そなた、なんだか言葉づかいが変わったぞ」

「だって。なんだか堅苦しいんですもの」

「好き勝手言ってくれるな。そのような妖しい語りの小娘と相手をしている暇はない」

「お望みなら話し方を戻しましょう、タケミナカタさま」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る