ユーレイと活動

 菜々子がオカルト研究会に加わり、ついに部活に格上げされるまであと一人となった。

 一方で佑真はといえば落ち着かない様子で折り紙を折る回数がやけに増えていた。

 今も放課後の教室の片隅、窓際の自分の席でいくつもの折り鶴を折っていた。


「佑真さんったらまた折り紙折って……」

「別に……なんとなくだよ、落ち着くし……」

「いえいえ、わかりますよ」


 レイコはによによと笑いながら佑真の周りを飛び回る。

 佑真は鬱陶しい、というような表情をレイコに向けた。


「先日のキスは衝撃的でしたもんねえ、ファーストキスでしょう?」

「うぐっ」


 佑真はまた折り鶴を完成させた。今日だけで七体目の折り鶴である。

 レイコはにまにまと笑いながら再び佑真にすりよる。


「ふふふ、全く佑真さんったら照れちゃってぇ」

「う、うるさいな!仕方ないだろ……!!」


 佑真は顔を赤くして再び折り鶴を作った。八体目である。


「佑真さんってあれですか?実は結構年上好きだったり?」

「……」


 佑真はぎろりとレイコを睨みつける。

 それに微笑みながらも、レイコは素直に謝った。


「あはは、ごめんなさい、もう言いませんから」

「全く……」


 確かに菜々子とのキスが衝撃的で、それが無性に恥ずかしい気持ちもある。

 しかし佑真はそれと同時に思い出した何かについて、それと同じくらいに動揺していた。

 キスをされた後、不意に何か似たような経験をしたことがあるような、そんな既視感を覚えた。

 そのことについて考えると無性に折り紙を折りたくなるのだ。

 そして、その何かが一体なんだったのか、佑真は結局思い出すことができないでいるのだった。

 そんな折、恵梨香が佑真のところへやってきた。

 恵梨香はその童顔をきらきらと輝かせて佑真に詰め寄る。


「佑真くん!オカルト研究会の活動、しよう!」

「活動……って、何を?」

「まだ決めてないけど……あと一人だよ!あと一人で部活動だよ!部室だよ!!」


 恵梨香はふんふんとシャドウボクシングをするかのように拳を何度も突き出す。

 その勢いに圧倒されながらも佑真は少し考える。

 次にオカルト研究会は何をするべきなのか。

 幽霊、UFO、ケサランパサラン、この世界に何があっても不思議ではないのではないか。

 それを少しだけ、調べてみたい。

 最初は流されて入った研究会であったが、いつのまにやらずいぶんと入れ込んでいる自分が、少しだけ不思議で、そして嬉しくもあった。


「……私も……活動してみたい……」

「菜々子先輩……」


 佑真はつい菜々子から目をそらしてしまう。

 それを見ると菜々子は無表情のまま口をへのじに曲げた。


「佑真……その反応はちょっと傷つくぞい……」

「い、いや、その、ごめん……そういうつもりじゃなくて……」

「まあ、その……なんというか……ハーレムの主がまさかキスも未体験だったとは思わなくて……私もつい、舞い上がってしまって……あんなことを……」


 無表情のまま菜々子はもじもじと指をいじくった。


「い、いや、ハーレムの主じゃないから……」


 佑真も、顔を赤くしてそれだけ言うのが精いっぱいだった。

 レイコはその様子をにやにやと眺め、恵梨香も少し気恥ずかしそうにしていた。

 その時だ。


「NO!!!!!」


 突然強い叫び声が教室中に響き渡る。

 声がした教室の扉の方を見ると、ずいぶんと怒った様子のルシールが立っている。

 佑真たちはもちろん、教室に残っていた数少ない他の生徒もそちらにくぎ付けとなっていた。


「NO!NO!NO!!」


 強い口調でそう言いながらルシールが佑真にずかずかと近づいてきた。

 そしてそのままぐっと佑真の腕を抱き寄せ、菜々子から引き離すように間に割って入る。

 あっけにとられる佑真をよそに、ルシールは菜々子をキッと睨んだ。


「ユーマにキスして、研究会にまで入って!ちょっといきなり距離詰めすぎじゃない!?ずるいわ!」

「あ、あの、ルシールさん……ちょっと声が大きい……」

「ユーマもユーマよ!キスひとつでデレデレしちゃって!!それでもハーレムの主なの!?」

「違うって!」


 激昂するルシールをなんとかなだめていく。

 周りの視線が痛い。前々から少しずつ痛くなってきたような気はしていたが、ここにきて決定的なものになったような気がする。


「キスだったらワタシだってしたことあるのに……ほっぺにだけど……」

「……やっぱり……佑真、普通にモテモテ……」

「佑真さん、もう認めてしまいましょう!佑真さんはこれからハーレムの主としての人生を歩むんです!」

「うぐぐぐ……」


 佑真はレイコを恨めしそうに見つめることしかできなかった。


「あ、そうでござる!恵梨香殿にも言いたいことがあったでござるよ!」

「え、私?」


 言いたいことを言ってだいぶすっきりしたのか、心の余裕を取り戻したらしいルシールが今度は恵梨香に詰め寄った。

 恵梨香は少しだけ焦りながらも、身に覚えのないようなぼんやりとした表情をする。


「恵梨香殿だってユーマ殿のこと好きでござろう!」

「え、えっと……」

「少しは、その、ないでござるか!急にユーマ殿がキスされたことに対して!」


 その言葉を聞いた恵梨香は顔を赤くしながらちらりと佑真の事を見る。

 居心地が悪そうな佑真と目が合い、その童顔をさらにふにゃりとさせた。


「私にはまだ早いかなって……」

「ほぼ同い年でござるよ!!」

「そ、それはそうなんだけどね……」


 なおも困ったようにふにゃふにゃした笑顔を浮かべながら恵梨香はもじもじとした。

 それを見たルシールはかくりと肩をおとしてやれやれと言ったジェスチャーを取るのだった。

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ハーレムはユーレイから!? 氷泉白夢 @hakumu0906

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