第十三話 影VS影
第七話の小学校に引っ越した頃。
新築にもかかわらず、そのマンションは変だった。
襖や扉は勝手に開く。
子供が走る後ろ姿をみる。
何となく水回りが怖い。
やだなぁと思いながらもどうにか出来るわけでもなく、ただ日常を過ごしていた。
トイレとお風呂が玄関近くにあったのだが、いつも暗くて嫌いだった。
前の第十二話で居たトイレのカラカラ音も、あの家に残ると思ったのに、なぜかついてきている。
夜中目が覚めたときやはり、カラカラと音をたてているのだ。
それに関しては慣れすぎているからか、あぁついてきちゃったか位の思いだった。
嫌なのは、お風呂のやつだ。
髪の長い女で、黒々とした髪以外は白っぽい。
日が落ちた薄暗い時にフワフワと横切る姿を見ると、息を飲んで固まってしまうほど、異様だった。
女はよく動いていた。
脱衣所や隣のトイレの前。その先の廊下と玄関。リビングまでは入ってこないけれど、磨りガラスに映る。
酷いときにはお風呂に入ろうと蓋を開けると髪の毛が一面に浮いている。
それは一瞬でどこかに引っ張られるように消えてしまうが、いい気分にはならない。
女の顔は一度も見えなかった。
ユラリと現れてこちらを振り返ろうとする。
その度に私はなにも見えていないと自分に言い聞かせ無視をする。
ある日の夜。
喉が渇いて目が覚めた。
お茶をのみながらふと気づく。
音がない。いつもカラカラと慣れ親しんだおとがしていない。
少しの好奇心で廊下の扉を開ける。
おや?
男が風呂場を向いて立っている。
直感でトイレの住人だと思うが、こちらを気にする様子はなくただ風呂場を見ているようだ。
意外と若いな。30歳前後で長身痩せ型。
少し長めの黒髪。何を来ているかは分からないが、そこまではっきり見えるのに驚いた。
そして、雰囲気怒ってる?
ボケッと眺めていたら、男性が揺らいだ。
そして、風呂場から気持ちの悪い感覚。あの女だ。
黒い糸が流れてくる。きっと髪の毛。
そこまで見て私はそっと扉を閉めた。
見てはいけないものを見たのかもしれない。
その日は中々寝付けなかった。
音はそれからしなくなった。
相変わらず、女は風呂場にいた。
ほら、あそこにも影 イチカワ スイ @ku-si
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