第159話 エピローグ

 #エピローグ


 △△△△△△


「お前達、本当に良かったのか?」


「うん、おおおおばあちゃん、あらためて別れると辛くなるから」


「おが多いんじゃが……。 へこむんじゃが」


「ああ、これでよかったんだ、お別れの挨拶なんて性に合わないよ」


「いや、ワシの凹みは、スルーなんじゃが」


「お兄さまの幸せが、一番大切だと思う」


「はあーっ、ちびすけもスルーなんじゃな、まあ、あやつは、実際よくやった。慕われるのも当然じゃろう」


「そうですな、隊長どのは、この世界をお救い下さった功績があります。それに見合った対価を受け取る権利があるはずなのです。でも、本当は悲しいのですぞ、うおーーーーん、うおおおおおおっ」


「なんじゃ、このゴリラは、喋っとるぞ!? しかも泣いとるぞ!?」


 すべてが、メル達の企てた計画だった。悲しい別れはいらない。偶然の事故でこの世界に来た二人だからこそ、別れを惜しむ間もなく偶然の事故で元の世界に帰してあげることが、メル達の出した答えだった。その為にレイラにこの茶番を頼み込んだというのが真相だった。


「おおおおおおおおばあちゃん、あたしはさ、どこかの世界であの二人が生きているってだけで良いんだよ」


「また、人を雄叫びみたいに……。だが、そうか、そうじゃな」


 レイラは、ひ孫の成長に目を細め、口元にうっすらと笑みを浮かべた。




 △△△△△△




 桜の季節、俺とヒナは、制服に身を包み入学式を迎える高校へと向かう身支度をしていた。あれから二年が過ぎ、俺達はすっかり日常を取り戻していた。ヒナと言えば俺と同じ高校を受験し見事……いや、なんとか合格し新入生として今日の入学式へと滑り込む事が出来ていた。


 準備を終えた俺達は、同じ目的地である学校に向けて歩き始めた。


「お前、勉強苦手だったのにどうしてウチの高校希望したんだ?」


 今更な質問にヒナは、口を尖らせる。


「べ、別にお兄ちゃんと同じ高校に行きたかった訳じゃないんだからね!! 変な彼女とかつくられたら迷惑だから私が見張りやすいように同じ学校にしただけだよ」


 こう言っちゃなんだが、俺の高校は名前の通った進学校だ。見張り程度の理由で入れるような学校じゃない。妹が、たくさん頑張った結果なのだ。


「そういや、きちんと言ってなかったな、ヒナ、入学おめでとう!」


「た、だったら……でて欲しい……」


「えっ? 聞こえないよ、もっとハッキリ言ってくれよ」


 ヒナの顔は、少しあからんでいる。怒ったのか?


「頭を、撫でて欲しいって言ったの!!」


 今度は、辺りに響くほどの大きな声で近くを歩いていた人達からはクスクスと笑い声も聞こえる。


「ちょっ、待て、わかった、わかったから!」


 自分の声の大きさに気がついたヒナは、恥ずかしさにすっかり顔を伏せてしまった。相変わらずの綺麗な黒髪で少し大人びてきたようにも思える。


 その頭を撫でる俺、ビジュアル的にこの絵面は大丈夫なのだろうか?


「良く、頑張ったな、おめでとう」


 ヒナは、返事の代わりにちょっぴり頷いた。

 恥ずかしそうな顔は、耳まで赤く染まっている。


 多分、忘れた頃に今のお礼を言いにくるのだろうと密かに思う俺だった。


 そんな当たり前のような平和な時間、それがどれだけ貴重なものなのか俺とヒナには十分わかっていた。あの世界での経験は、俺達に本当に色々な大切を教えてくれた。そしてかけがえのない仲間達は、どうしているだろうか? 願わくば残してきた世界が、ここと同じよう穏やかな日常であるように、もう会う事のない仲間達の幸せを祈るのだった。


 ありがとう、俺の大切な仲間達、出逢えて本当に良かった……またいつか、生まれ変われるならきっと……



 入学式から数日が経った。

 綺麗に咲き誇っていた桜の花もすっかり役目を終え葉桜へと変わった頃、ようやく暖かく穏やかな過ごしやすい日々を迎えることとなった。


「なあ、ヒナ、兄妹で一緒に登校ってもうそろそろやめていいんじゃね」


「えっ! もしかしてお兄ちゃん、彼女でも出来たの!?」


 もちろん彼女などいないが、休日に朝食を食べながら妹とそんな他愛のない会話をしているとテレビから臨時ニュースのアナウンスが入った。


 アナウンサーの声も慌ただしく、何やら深刻な事件でも起こった様子だった。ニュースの内容に耳を傾けると。


 爆破事件!?

 それも日本で一番の電波塔の付近だと!?


「おいおい、あんな物倒れたら大惨事じゃねえか!」


「それで、お兄ちゃん、彼女いるの!?」


「おいヒナ、今、そんな事言ってる場合じゃないよね」


 テレビには、その様子が映像として流されていた。俺達なら電波塔までダッシュで行けばそう時間は掛からないだろう。俺が、行ったところで何が出来るわけでも無いかもしれない、でもそれでもやっぱり、ほっとけないよな。


「よし、行こう!」


「えっ!? ああ、う、うん、はあ~っ……」


 やれやれ、という表情を見せるヒナ。それでも付き合ってくれる妹は、やっぱりいい。


 身体能力をフルに発揮して日本最高の電波塔『テッペンタワワ』へと向かう俺とヒナ。


 誰が付けたのか、ネーミングセンスに突っ込みを入れてやりたい。


「お兄ちゃん、多分これ日本人の手口じゃないよね?」


 俺もヒナと同意見だ。おそらくこの手のテロ行為を行なって国外に逃げるなんて事は、日本の警備体制の優秀さを考えるとあまりに無謀だ。そう考えるとよほどこの国への認識が無いものか、玉砕覚悟の理想主義者ってところじゃないだろうか……じゃなければ。


「ああ、とにかく、とびっきりやべえ奴らだって事は間違いなさそうだな」


「そうだね、これはやばそうだね」


 程なく、現場に到着した俺達は、辺りの様子を探る事にした。周辺に民間人の姿は無く既に避難は、終えているようだった。その代わりに警察ではなく自衛隊らしき一団が塔の周囲を取り囲んでいた。


「戦争かよ!? 警戒レベルとんでもないことになってるみたいだな」


 確かにこの電波塔が、倒れでもしたらどれだけの被害が、出るのか想像もつかない。


 ヒナもそれを察してか俺の顔を見て頷く。


 自衛隊員以外の何者かの気配を探ると塔の内部からじんわりと感じられる。まだ逃げてはいないのなら確かめない手はない。逃げないテロリストならどんな行動を取るのか予測もつかないのだから。


「やっぱり上に誰かいるようだな」


「私にも感じられるよ、どうも何人かいるっぽいけど」


 ここからは気を引き締めていかないと危険だ、それに下手に見つかってテロリスト扱いされないように気をつけないとな。


 視認できない程の超高速で警護の隙間を駆け抜けて行く。入口の自動ドアは、一旦センサーを感知させてから隠れ、扉が開いた瞬間に移動する。エレベーター前にはやはり数人の自衛官がおり、使用するのは無理だろう。


 彼らが、上へと移動する様子がないのは一旦収まった爆発に対する様子見と塔の安全のためにテロリスト(?)達への過度の刺激を考慮しているからだと思う。


 そっと階段へ向かう扉を開けると気が付かれないように中へ滑り込む俺とヒナ。勿論ここにも警護が配置されていたが、反対側の壁を叩くことで皆の注意を引き、その隙に中へと侵入したのだ。


 そして非常階段をめっちゃ駆け上がる。


「流石にしんどいな」


「うん、でも私は大丈夫、若いからね」


「おい、あんま変わんねーだろ。人を年寄りみたいに言うな!」


 そうこうしているうちに最上階に到達し最後の扉を開ける。


 中にはローブを纏った複数の人影が見えた。隠れる様子もなく、ガラス越しに外の様子を伺っている。


「チャンスだよ、お兄ちゃん!」


 ローブ達の背後に回り込んだヒナは、身をかがめ一気に飛び掛かる。


「お、おい待て! ヒナ!」


 俺が、感じた違和感、それはテロリストと思われる奴らの持っている武器が、現代のそれとは大きくかけ離れていたからだ。


 俺の言葉にバランスを崩して体当たりする体勢になったヒナは、そのまま馬乗りになった相手のローブを引き剥がす。


「えっ、何で!? そんな事……」


 目を見開いたまま固まるヒナの眼は、潤む。


「えへへ、来ちゃった」


 その声を聞いた途端、言葉にならない懐かしさが、俺の胸にも込み上げてくる。


「ああ、久しぶり……メル」


 ようやく振り絞ったセリフには、沢山の記憶を呼び覚ます、そんな想いがこもっていた。


「良かった、やっと、やっと、会えた」


 そばにいたリンカの声は、うわずりここに至るまでの経緯の困難さを物語っているようだった。


「うえーーーーん、お兄さまーーっ!」


 アリサは、既にがん泣きで俺に飛び付いてくる。

 クールキャラのはずの彼女が、一番取り乱しているのは意外な事だった。


 もう記憶の中でしか会えないと思っていた彼女達が今、目の前にいる。こんな奇跡とも思える再会が、現実となって現れたのだ。


 こんな嬉しいサプライズがあるだろうか。


「あーーーーっ! タケルが泣いてる!」


「うっせえ、泣いてねーよ!!」


 ここまで来てくれたみんなの気持ちに感激したのは確かだし、声が震えてるのも確かだ。


 多分、いや、おそらく、きっと、泣いてるな俺……


 何か拭うものがないかと手元を探ると柔らかいものを掴み取った。


「キューーっ!」


 わっ、なんだコレ!

 俺が、鷲掴みにしていたのは、ペンギンっぽい生物だった。


「おおおおっ、マシュ!! お前も来てたのか!?」


「マスターTは、自分の使い魔に気がつくの遅過ぎ」


「ああ、悪かったよ」


 と言うか俺の呼び方" マスターT"になったのか!

 マスターDとかだったら、黄色いアレみたいだったからまだマシか……


 しかし魔道具のログを辿って来たならどうして俺達が戻った時間と場所にメル達は、現れなかったんだろう?


 ふと、そんな疑問がよぎり、彼女に問いただす。


「それは、ちょっと失敗したからだよ。あたしの次元転移の魔法は、まだ覚えたてだから……」


 おい、いま何か、とてつもなく不安な事言わなかったか!?


 それにしても時間ズレ過ぎだろ! こいつらのことだ、覚えて直ぐに試したに違いない。


「こっちに来たら、タケル達の姿が無かったから焦ったよ。魔力も溜まんないしさ」


 その後のいきさつは、アリサの説明でわかってのだが、"どうしてこうなった"の内容が酷すぎた。

 転移したアリサ達は、取り敢えず最初は、辺りをひっそりと探索していたらしいのだが、何の情報も得られなかった事でだんだん痺れを切らし、選んだ方法がリンカの剣を使った棒倒しで探す方向を決めていたらしい。


「よし、あっちだ」


 やがて全く根拠のない手段で進む彼女達の前には、とてつもなく高いタワーが現れた。


「アレって!? もしかして長い棒じゃね?」


「おお、じゃあ私のこの剣よりずっと信頼性があるんじゃないか?」


 もう、この時点で考え方おかしいだろ。

 アリサっ! お前が付いていながら何でこんな……


 顔をしかめる俺から目を逸らすアリサ。

 絶対面白がっていたなコイツ……


 ともかくこの高層タワー『テッペンタワワ』を棒倒しに使おうと考え攻撃をした結果、今の状況になったらしい。まあ、おかげで見つけられたんだけどな。


「にひっ」


 アリサは、親指を立ててチラリと俺の方を見る。完全にお前だけは確信犯だよな。あと、ヒナもいいね返さなくていいから!


 アリサの目論見通り騒ぎは、大きくなり俺達の知ることとなったが、ひとまずテロレベルの話になっているのは非常にまずい。


「おい、さっさとここから引き上げるぞ」


 しかし急かす俺を制するようにメルは、手のひらを向ける。


「まった! タケル。略してまっタケ」


 人をキノコ扱いしないで欲しい。略す必要あったか今。


 お構いなしにメルは、続ける。


「とにかく助けて欲しいんだよ……おおばあちゃんとセカンドオピニオン・ホサマンネンが……大変なことに……じゃ、邪竜が……あうう」


 ホサマンネンさんのセカンドオピニオンは、よくわからんが、ともかく、レイラさんの身に何かあったらしい。それなら次元魔法の使えるあの人が直接ここに来ていない説明がつく。


「どう言うことだ、詳しく……」


「お兄ちゃん、すぐ行かなきゃ! 邪竜だよ! 大変なんだよ!!」


 俺の言葉を遮るようにヒナが、割って入る。と言うかお前の目、嬉しそうに輝いてるぞ。


 どうやら邪竜というワードが、ヒナの琴線に触れたらしい。


「ありがとう、急いで帰りの魔法陣を用意するよ!」


 俺まだ何も言ってないんだけど……


 メルは、何やら途中で止めたらヤバそうな詠唱を始める。相当な魔力消費なのは俺でもわかる。そっか、マシュを連れて来たのはその為か!

 マシュは、魔力タンクとしての役割もある。


 それにしても上手く片付いたとしてもちゃんと帰って来れるんだろうか。そんな俺の気持ちを察してかアリサが、ささやく。


「お兄さま、大丈夫………………………たぶん」


 長いだろうその間っ!


 ヒナは、待ちきれずにソワソワしてリンカの手を取りくるくる回っている。


「やれやれだな……」


 あいかわらずの慌ただしさに少し呆れる。


 魔法陣が描く光の模様はやがて束となり次元の扉を作り出す。願わくば無事に着けますように。


「お兄ちゃん! 早く!」


「タケルっ、急いで!」


「タケル、もたもたするな!」


「お兄さま、さあ、こちらに!」


 マシュにまで背中を押されややヨロけながら前に進む。


 もし運命の神様なんてものがいるのなら毎度の厄介ごとに恨みごとのひとつでも言ってやりたい。それでもまあ、ここはひとまず、あざーーーーっす。



 光に体を包まれた俺は、初めて異世界に転移した時の事を思い出し、そこで出会った多くの人を思い出していた。


「ああ、もう、わかったよ!!」


 そうだ、知らない場所じゃない、懐かしい匂い。


 自然と笑みが浮かび、駆け出した俺は、心の中で叫ぶ。




 " ただいま、俺の世界 ! "






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妹が魔王様にっ⁉︎ yu@ @yu01

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