零れる
屋根裏
零れる
太陽が水平線の彼方へ沈む。
広大な海の、無限の水に、大きくて熱い身体を溶かしてゆく。
光の速さで何億年もかけてようやく辿り着けるような、果てしなく遠い距離は、その瞬間だけゼロになるかのよう。
空は赤く灼け、曇りなく広がる赤に浮かんだ月が、少しずつその存在感を増していく。
小さな星の数々が、今にも消えそうな輝きで、月と僕を取り囲む。
その小さな輝きを数えながら、僕は第三者になりきってみる。
広い海をバックに、赤い空を見上げる僕。
写真にしろ絵画にしろ、余白が大きすぎるような気もする。
なんせ僕のいる砂浜には、目印になるような建物もなければ、海に浮かぶ船の一隻も見当たらない。
太陽と海が溶け合っているその更に向こう側では、探検家のヨットが波に揺られているかもしれない。
海賊船は嵐と仲良くやっているだろうか。
大きすぎる余白にぽつんと落とされた僕は、間違いだろうか。
誤って零れてしまった絵の具だろうか。
風景画を描きたかった画家にとって、スケールの大きな写真を撮りたかった写真家にとって、僕は邪魔者だろうか。
それともいいアクセントだと笑われるだろうか。
どの結果にも、意味は無いのだろう。
点は面積を持たない。
僕の見る星も、星の見る僕も。
きっと目に見えるだけの、空虚な形。
見上げた空は、黒に滲み始める。
零れる 屋根裏 @Atc_Strtl
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