第32話 ラーデゥン・フリューゲル

 あと、50m。俺は全速力で天風のもとへ向かった。だが、天風の姿が見えた瞬間。俺は戦慄した。なぜなら、天風はキースに後ろを取られ今にも切られそうになっていたからだ。俺はこのままじゃ間に合わないとすぐに思った。想像イメージの力は思考で制御する。つまり自分が触れているもの以外には影響を与えられない。虚無の刃を飛ばすにも距離がありすぎる。


 だが、今の俺はその一段階上のステージ。覚醒アウェイクを使える。覚醒アウェイクは魂で制御する。よって、その影響範囲は想像イメージのそれを遥か超える。


 俺は黒竜の剣を引き抜き、《ソニック・ストライク》の構えをとる。


「さ、黒竜。お前の力を開放する時だ。頼むぜ。」


『よかろう。お前の意志のままに使ってくれ。我が力を。』


 俺は剣に意識を集中し、イメージを送り込む。すると剣は黒く光りだし、形を変えていく。今まではシンプルな黒い直剣だったがその形はまるで竜であるかのような形だ。黒い柄に黒竜の翼のように伸びる鍔。そしてまっすぐ乱れのない黒い刀身。まさしく黒竜の剣といった風貌だ。


「はぁぁぁああああ!!!!!」


 俺は形を変えていく剣を片目に技を発動する。想像イメージの力では到底到達しないであろう速度で一気に駆け抜ける。50mという距離を0コンマ1秒にも満たない速度でキースの持つ剣をはじく。


「なっ!?」


 俺は天風の前に立ち、剣を払う。


「わるいな。遅くなった。あとは俺に任せろ。」


「神風……。ごめん。俺……。」


「何言ってんだ。お前が時間を稼いでくれなきゃ俺はここにいない。もうじき死んでた。」


 俺は剣を担ぎながらそう言った。


「神風……その剣って…」


「黒竜の剣。…いや、《ラーデゥン・フリューゲル》だ。」


「き、貴様。なぜ、ここに!?」


 キースは戦慄の表情を浮かべながら言った。


「俺は死なねぇよ。死ねねぇんだよ。何があっても。覚悟はいいか?キース。」


「ふっ。まぁいい。やってやろうではないか。」


 キースは右腕を横に払うと手を開く。すると俺の飛ばした剣がその手に吸い付くかのように飛んでいく。


「どうやら、気は抜けないみたいだな。」


 こいつは想像イメージの力の中でも特に何度の高い、《虚無のかいな》を使ったのだ。さっき言ったように想像イメージの力は自分の触れているもの以外には影響を与えられない。だが、その使用者の想像力の強さによってその壁はなくなる。だが、石ころを持ち上げる程度が限界だ。それを剣でやってのけた。これはつまり剣そのものにも意志が備わっているということだ。それだけあいつはあの剣を信用している。そのような剣士は大体の確率で超強敵だ。


「さて、貴様の持つ剣。さっきとはずいぶん違うな。新しい剣を持ってきたところで太刀筋が鈍るだけだぞ。」


「いや、形は変わっていてもこいつはさっきの剣と同じものだ。これがこいつの真の姿だ。」


「ほう、いわゆる神器と言うやつか。」


「そうだな。うちの村の最高の鍛冶屋が極めた、神器を超える代物だ。」


「ほう、では、お手並み拝見と行こうか。」


 お互いに剣を構える。キースは今まで見たことのない構えをとっている。対処のしようがない以上できることは一つだ。俺は再び《ソニック・ストライク》の構えをとる。


 お互いの必技が起動をはじめ、剣が光始める。キースの持つ剣は紫、俺の剣は赤に輝く。俺の知っている必技で紫に光るものは存在しない。俺はセヴァンが使ったあの技をさらに、応用する。


 同時に地面を蹴り、一気に距離を詰める。キースは独特の軌道でまっすぐに突進してくる。それに対して俺は必技の連携で速度を最大限上げる。俺は瞬間移動したかのようにキースの後ろに斬り終わりの体制で制止する。キースも同じく、その場に静止し、こちらに振り向く。


「貴様、本当に私を攻撃する気があったのか?」


「もちろん。」


 俺がそう言ったと同時に俺の通った軌道、正確には剣の通った軌道に沿って紅い閃光が走る。俺はセヴァンの使った技、伸びる斬撃を参考にして覚醒アウェイクならではの遅れて伸びる斬撃を放ったのだ。相手を油断させ、一気に仕留める。これが俺の導き出した答えだ。ちなみに必技の連携を使わずにやれば残る斬撃となる。


「な、んだと……」


「キース、一つ聞きたい。お前の使ったあの必技。あれはなんだ?」


 キースはその場に膝を付き、苦しみながら答える。


「《独自の必技》だ。あれは私が作り上げた技だ。」


 キースは立ち上がり、俺に問う。


「お前のはなんなんだ。」


覚醒アウェイクを使った、《残る斬撃》だ。俺はそれを《必技の連携》でスピードを極限まで高めて、斬撃を遅らせたんだ。」


「ふっ、化け物め。いい試合だった。もう、思い残すことはないさ。剣士神風、そして、剣士天風よ、いいものを見せてもらった。礼に一つ、情報を教えてやる。これから魔族はしばらくこちらに攻めてこない。だが、近いうちに大きな戦争を起こそうとしている。お前たちは立派な剣士だ。騎士として、保証してやる。」


 キースは自分の天命が尽きることにすぐに気づいたのだろう。俺たちにここまで重要な情報を漏らした上に俺たちを評価した。魔族は魔族でもやはり騎士なのだろう。嘘偽りないその眼を見て俺は心から尊敬の念を抱いた。俺から見ても立派な騎士だ。


「ありがとう。キース。お前は立派な騎士だな。お前のことは一生忘れない。絶対にだ。」


 キースの体は次第に光だし、やがて爆散し、夜空に散る花火のように消えていった。


『剣士神風よ、私を降したことに胸を張るがいい。いつかまた会えるのならもう一度試合をしたいものだ。』


 キースの声が天から聞こえた。


 俺は魔族である騎士としてのキース生きざまに剣士として感服せざる終えなかった。


「実質的勝利、剣士的敗北ってところか。」


 俺がつぶやくと、セヴァンと二リアが走ってくる。ちなみにセヴァンはエルフの有する領地を周り、他の場所に危険がないことを確認し二リアと合流したそうだ。


 俺たちは一度エルフの国、アルフヘイムに戻り、今日起きたことを報告し、アルフヘイム内にある宿に一泊し、今回俺たちが守った村に向かった。


 32話 ラーデゥン・フリューゲル 完









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人生という名のロールプレイング るみにあ @show1999

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