第31話 負い目
俺は負い目を感じていた。俺は本当に神風の力になれるのだろうか。本当に迷惑をかけていないだろうか。足を引っ張っていないだろうか。そう考えるたびにすべてが重く感じる。でも、これ以上神風ばっかりに責任を押し付けるのではなく、俺もあいつと一緒に背負っていかなくてはいけない。俺の剣士としての力は全部神風から受け継いだもの。俺がしなくてはいけないのはここからさらに自分流に変えていき、ものにしていくこと。
「我が名は天風!!黒騎士キース!ここより先へは行かせない!!!俺が相手だ!!!」
「ふっ。最近の人族は威勢がいいのが多いみたいだな。いいだろう。この私が直々に相手をしてやる。」
そう言ってキースは腰の剣を引き抜く。キースの剣は禍々しいオーラを放っている。魔剣という奴だろう。魔族に伝わる神器級の武器。俺は決意を剣に込め、腰から剣を抜く。お互いに剣を構える。キースは上段に構えている。おそらく、上段から下段にかけての縦切り《バーチカル・スラッシュ》だろう。俺はそれを見て水平切りの構えをとる。お互いに集中力を高め、同時に地面を蹴る。
「せいっ!!!」
「はぁぁぁあああ!!!」
俺の読み通りバーチカル・スラッシュを打ち込んできたキースに対して俺はホリゾンタル・スラッシュをキースの持つ剣めがけて打ち込んだ。だが、これでは押し返すことができない。俺はすぐに行動に出る。ホリゾンタル・スラッシュの軌道を外れないように体を回転させ、キースの技を受け流す。そして俺は、ホリゾンタル・スラッシュからホリゾンタル・ツインスラッシュに技を変更し第2連撃目をキースの背中に打ち込む。
「はぁっ!!!」
「なにっ!?」
キースは大きく体制を崩し俺の必技をまともに受ける。
「ぐはっ」
キースはその場に膝をつく。だが、流石は騎士と言ったところか。キースはすぐに立ち上がり、俺のほうを向く。
「なるほど。人族の剣士だと見くびっていたがどうやら、実力はあるようだな。お前の力認めようではないか。だが、私とてお前のような相手に本気を出すような大人気のないことはしないさ。ここからは手を抜いてもらえるとは思うなよ?剣士天風よ!!」
キースは俺のほうに剣の切っ先を向け言い放つ。俺は再び剣を構える。正直さっきのが精いっぱいだ。俺の経験を乗せた一撃がこうもきかないとは。
「言い残すことはないか?剣士天風よ。」
「ないね。俺は生き残るから。」
「そうか。では、騎士として、お前という剣士に敬意を払い、我が全力の剣を持ってこの戦いを終わらせていただく!!」
お互いに姿勢を低くし、同時に地面を蹴る。何合も打ち合い、俺は何とかキースの剣をさばくことができた。だがこれでは、攻撃を仕掛けられない。なにか、何かないか。必死に考えながらさらに何合か打ち合った後答えを見つけた。これしかない。神風に教わったあの技なら。この状況を打破できる。
「ふっ。ただ、さばいているだけでは私には勝てないぞ!剣士天風よ!!」
「そっちこそ、俺にさばかれるようじゃ、あまいんじゃないか!!!」
「そこまで言うか、もういい。終わらせるとしよう。」
キースは今までにない速度で俺に切りかかってくる。間に合わない。何とかさばこうとするが、俺の剣をはじかれてしまう。だが、これは狙い通りだ。うまく挑発に乗ってくれた。
「せあっ!!!」
俺はバク転で後ろに飛び回転する途中足でキースの持つ剣を弾き飛ばす。神風から教えてもらった技の応用技だ。そして、地面についた瞬間、ソニック・ムーブでキースの背後を取り、腰に隠してあったナイフ《ジェネディクト・クリエグラーディオ》を取り出しうなじを狙い切りかかる。
「なっ!?」
俺のナイフは見事にヒットした─────はずだった。
俺が切ったはずの空間はゆがみ黒い影を残すのみ。そして、俺の後ろには剣を振り上げているキースの姿。
「え!?」
俺はやっぱり、神風の代わりにはなれないんだ。気づくと俺の頬には涙が流れていた。俺は振り下ろされていく剣を呆然と眺めながらその場に立ち尽くした。
31話 負い目 完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます