第30話 黒竜
気が付くと見たことのない無の空間が広がっていた。真っ暗の無の世界。あかりなど無いはずなのにそこには空間がはっきりと見える。この奇妙な空間で俺は一人歩きだす。
「俺はどうなったんだ?」
俺は問う。
『意識を失っている。』
どこからともなく声が聞こえる。
「意識を失っている?」
『そうだ。』
「死んだわけではないのか?」
『今のお前は脳の機能が停止したただの人形。ここにいるお前は私、そしてお前の仲間の記憶の中にいるお前、つまり《メモリアル・ソウル》だ。』
「メモリアル・ソウル?……記憶的魂?」
『そうだ。消えようとしているお前の魂をお前の仲間たちの、関わってきた人々の記憶に眠るお前のメモリアル・ソウルがお前の《
「俺の魂を?」
『まだ、死ぬ時ではない。目を覚ませ。まだやることがあるであろう。この世界にはお前が必要だ。』
「だが、どうやって!!」
『簡単な話だ。お前の潜在能力を完全に開放し、メモリアル・ソウルとパーティカル・ソウルをお前自身の体に呼び戻すのだ。さすれば、お前はさらに次のステージへ行けるであろう。』
謎の声は俺になぜここまでしてくれるのだろう。この声は一体何なのだろう。俺は自然と思考がそちらの方向へ向いていった。
「お前は誰だ?」
『知っているはずだ。お前は一度、いや何度も私と意思疎通を繰り返したではないか。』
俺はその言葉を聞き、一つの答えを導き出した。
「まさか、お前は……。黒竜…なのか?」
『そうだ。』
黒竜は短くそう答える。
「なぜだ?どうしてなんだ?お前は魔族の守護竜なんだろう?俺はお前の守べき魔族たちを殺しているんだぞ?お前の力を使って。」
俺は少し強めに問う。
『それは私の
「善の闇……。」
俺は過去をさかのぼった。前にも一度このような事態に陥ったことがあるはずだ。そう、あの時だ。俺はあの時どうした。
「お前の力。俺の潜在能力とともに解放させてもらうぜ?」
俺はそう言って意識を集中させる。脳の思考クロック数をどんどん上昇させ、思考で制御する
だんだんと視界が開けていき現実世界へと意識が戻る。目を開くと目の前には涙を流す、二リアの姿。俺の上がり続けていた脳のクロック数は急激に下がった。何かがおかしい。この状況。俺は横になっていて正面には二リアの顔。これは、つまり……。俺の思考は完全に停止した。
「か、神風くん!!目を覚ましたんだね!!!」
その声に俺の意識は再び戻される。
俺と戦っていた時はあんなに騎士っぽかった二リアが女の子らしい口調になっているのを聞き少々微笑んでしまいつつ、体を起こす。
「ありがとう。二リア。解毒してくれたんだな。もう大丈夫だ。」
「無理しないで。まだ、完全に治ったわけじゃないんだから。」
「すまないな。それは無理な願いだ。」
俺はそう言って立ち上がり、周りを見渡す。二リアは俺を少し離れたところに運んでくれたようだ。俺は索敵スキルを使い、キースのいる場所を探る。すぐに場所を特定し、その場所に向かう。その場所にはキースのほかに一つの反応がある。天風だ。倒れた俺の代わりに戦っているのだろう。
俺は腰に携えた黒竜の剣の重さを感じながら、ソニック・ムーブを使い、その場所に急ぐ。
30話 黒竜 完
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