第29話 相打ち

 俺は剣を払い余裕のある笑みを浮かべる。残った魔族たちは戦慄の表情を浮かべる。


「キース。俺がやる。」


 そう言って前に出てきたのは同じく黒いローブを纏い、フードを深くかぶっている人物。


「頼むぞ。」


 どうやらキースとはあの黒騎士のことらしい。


 見かけは武器を身につけていない。だが、これは自分の手の内を明かさないためだろう。だとすればあらゆる事態を想定しなくてはいけない。


 俺は気持ちと一緒に剣を構え直す。俺は確信した。こいつは俺が本気を出さなければ勝てないということだ。剣士の勘と言うやつだ。


「人族の剣士よ。我が力を受ければその生意気な口をきけなくなるだろう。」


「そうかい。じゃあその力受けてやろうじゃないか!!」


 俺達はほぼ同時に地面を蹴る。


「っ!!」


 俺は目を疑った。明らかに速すぎる。俺はこいつに向かって剣を振ったはず。だが俺が切ったのは空気のみだった。俺が唯一確認できたのは俺が空気を切った瞬間俺の後ろに黒い影が見えたということだ。流石に間に合わない。俺はこのコンマ1秒にも満たない間に結論を導き出した。《想像イメージ》の力これを使うしか無い。俺は《想像イメージ》の力を使って最大限できることをする。


「はぁぁあああ!!!!」


 俺は《想像イメージ》の力で俺の体の向きを強制的に反転させ真後ろにいた黒ローブの男の首元めがけて剣を振り下ろす。黒ローブの男の隠し持っていたナイフが俺の肩に突き刺さり、俺の剣は剣自体の重さで黒ローブの男の首元を深くえぐる。


「ぐっ!」


 肩に感じる痛みに違和感を感じ、問う。


「……毒か。」


「その、通りだ……。もうお前はここで終わりだ。」


「お前もな……」


 だんだん意識が遠のいていく。視界がぼやけてきて力が入らなくなりその場に倒れる。黒ローブの男も同じく力が抜けるように倒れる。


「神風くん!!!」


 ニリアの声だ。霞む視界の中、俺の所まで駆け寄ってくる。俺は声を出そうとするが一切口が動かない。俺は心の中で思った。俺はもう終わりなんだと。想像イメージの力を使おうにも思考がまるで働かない。


 想像イメージの力とは絶対ではないのだ。ここまで何とか意識を繋いできたがもうだめだ。俺の意識はついに暗黒の闇へと消えていった。


29話 相打ち 完

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