14 ギガント・マキアーを――ゲーゲン・ヤークトを開始するわ
『全ガンツァーは――作戦開始ポイントに到着したわね?』
暗く冷たい宇宙空間。
アリサの覇気のある
地球の静止軌道上――迎撃ラインには、百を超える人型迎撃戦闘機が作戦開始ポイントに到達し、『巨人』を迎え撃つべく隊列を組んでいる。各国、各機関、各製造会社の様々な『ガンツァー』が、それぞれの作戦内容にあった迎撃オプションを装備して前線に立ち尽くす。
まるでこれから、交響曲の演奏を始めるかのように。
その全ては、今背にしている青い星――地球に住む残された人類を守るため。
そのたった一つのシンプルな理由のためだけに、『マキア』と呼ばれる子供たちは、この場所に立っているのだ。
『これより巨人迎撃作戦、ギガント・マキアーを――ゲーゲン・ヤークトを開始するわ。全員、翼をささげてちょうだい。そして、この星と、私たち人類と、その人類の未来のために、最後の最後までもがいて、
――『ゲーゲン・ヤークト』。
それは、アリサが好んで使う
アリサの故国であり、故郷のドイツの言葉であり――『ガンツァー』の名称の由来にもなった言葉。
『ゲーゲンアングリフ』。
ドイツ語で『反撃』や『逆襲』――『迎撃』を意味する言葉であり、そして『ガンツァー』という名称は――人型迎撃戦闘機の初期構想と、その第一号機の開発を成功させたドイツ人設計技師の言葉が由来となっている。
その設計技師フォーゲル・ハインラインは、人型迎撃戦闘機の雛形である第一号機『ナイチンゲール』を完成させた際――「これは、人類が『巨人』に反撃をするための鎧であり翼だ」と口にしたと言う。
まるで翼を広げるように、両手を高く空に掲げながら。
その人類の新しい希望であり翼は、
『
人類存続という希望を背負い――
人類の未来を翼に乗せて。
『ギガント・マキアーを開始するわ。さぁ――狩りの時間よ』
アリサの作戦開始の言葉とともに、巨人迎撃の
機体のスラスターを点火して、巨人『エンケラドス』接近するべく前進を始めた。
僕も迎撃補佐の任務を遂行するために、チームを組んだ巨人爆破作戦『第七班』のメンバーと共に『エンケラドス』に向かって行く。
僕は操縦席の
僕の直ぐ後ろには、チャイカの搭乗するソ連製のガンツァー『アルマータ』が続いている。
装甲の分厚い灰色の機体は、迎撃オプションを予め機体に装備させた兵装一体型の機体で、汎用性を失う代わりに高い耐久力と整備性を誇る――その両腕には、
『灰色の棺桶』なんて言われて
『七班の全員聞いてくれ。知っての通り、俺たちは巨人最右翼の爆破を担っている。比較的安全なポイントではあるが、気を抜いたりするなよ? それと、そろそろ地球の重力に引かれて加速を始める巨人から、剥がれた破片が落下してくるころだ。ダストトレイルにも注意しろ』
『第七班』のリーダーであり、『ギガント・マキアー』の要でもある『巨人』の爆破を担当する『マキア』が、『七班』のメンバーに有線回線で通信を行う。リーダー機のみが使用できる有線回線は、僕たちが使用する通常回線の上位に位置し、班員全員の回線に優先的に割り込める。
『トップ・マキア』でこそないが、これまで三回の『巨人』迎撃作戦に参加して帰還を果たしている優秀な『マキア』は、必要以上に余計なことを言わず、端的に作戦内容を確認してみせた。
彼の乗る統一ユーロの主力機体――深い緑色の竜にも見える『ヤクト・ドラッヘ』の両手には、巨大なドリルと
全長三十メートルに及ぶ――
『
それは『巨人』を構成する重珪素『ギガニウム』を掘削し、『巨人』の最深部にまで到達できる巨大な杭でありドリル。
そのドリルの先には、重珪素を応用して開発された爆薬が搭載されている。『ギガス・ブレイカー』で『巨人』の中心部まで掘り進め、爆薬を内部から爆発させて『巨人』を粉々にするというのが――『ギガント・マキアー』の最も分りやすい作戦内容だ。
今回の作戦は、全十基の『
僕たち迎撃補佐の役目は、『ギガス・ブレイカー』を設置し、『巨人』を掘削している間、リーダー機を何があっても守り抜くディフェンダー。
『巨人』周辺では何が起こるか分らず、不測の事態の連続。僕たちは時に盾となり、時に翼となって――作戦完了までリーダー機を守り続ける。
たとえ、自分たちの乗る機体が犠牲になろうとも。
僕とチャイカを含めた迎撃補佐の六機は、『ギガス・ブレイカー』を運ぶリーダー機を守るように上下左右に展開して警戒を強めている。先ほどリーダーの『マキア』が語ったように、そろそろ剥がれた巨人の欠片や、ダストトレイルが地球に向って降り注ぐ頃合いだった。
ダストトレイルとは、宇宙を移動中に剥がれた隕石の欠片のことを指し、それらが地球の引力に引かれることで巨人よりも先行して落下を始める。基本、数百センチから数メートル程度の小さな欠片だが、それらが星の雨となってマッハの速度で降り注ぐ。
『巨人』の欠片や、ダストトレイルのほとんどは、地球に衝突する前に大気圏で燃え尽きてしまうが、機体に直撃すれば被害は甚大で、場合によっては大破があり得る。初迎撃で命を落とす一番の原因が、これによるものだった。
『九班、迎撃補佐機大破』
『六班、迎撃補佐機中破』
『四班、リーダー機損傷。交代要員の要請をします』
各宙域で被害報告が上がり始め、前線は混乱を始める。
僕たちの宙域でも、先ほどから赤く染まった流星が地球に向っていくつも振り注ぎ、そのたびに僕は緊張を強めて警戒を厳とした。
僕は、機体背面のウェポンラックから
ライフルの装備と同時にモニタと『
『スバル機、迎撃を開始する』
僕は操縦桿の引き金を引き――ライフルから弾丸を発射する。レールの役目を果たす黒の銃身から、電磁誘導された120mmの弾丸が音速を超える速度で放たれる。
そして、一瞬で貫かれた巨人の欠片は――
粉々に砕け散って宇宙の塵となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます