第7話

「つ、司(つかさ)ちゃん。こ、この男の人……」


 現れた女子高性は直登の姿を見るなり、先ほどまで直登と話していた女子高生――司へと聞いた。

眼鏡にお下げ。

 そして一切着崩していない制服が、彼女が真面目であることを告げていた。見た目は、ひと昔前の委員長という風貌だが、オドオドとした態度で人を纏めることが出来るとは思えない。挙動不審な少女は、人と話すのが苦手そうだと、優しい声で直登は言う。


「初めまして。ちょっと、人を探しててね。それで彼女に少し話を聞いてたんだけど――君にも聞いてみてもいいかな」


「えっと」


 なぜかそこで司のほうをみた。

 そして、自転車を止めると、司のスカートの裾に手を伸ばして握ると、「ど、どうしよう?」と司に確認したのだった。

 やはり――というより、直登が想像していた以上に、人見知りなのかも知れない。初対面の男の質問に、司を挟まなければ答えられないのだから。

 助けを求められた司だが、握られたスカートから手を離させた。


「別にいいんじゃない?」


「で、でも……。わ、私……」


 司が助けてくれないことで、泣きそうな顔を浮かべる。

 眼も赤くなり、涙が溜まり始めている。

 人を泣かせるのはいい気分ではないと、直登は無理になら答えなくていいと告げようとする。


「あの……」


 だが、直登の声は司によって遮られた。


「大丈夫だって。心(ここ)も、少しは人馴れしないとマズイでしょ。この人なら何言っても平気だから、ゆっくり話してみな」


 司は自分のスカートの裾をつかんで離さない桂葉 心(かつらは ここ)にむかってそう言った。直登の予想通り、桂葉は極度の人見知りだった。

 話しかけてから今に至るまで、一度も視線が交わったことはない。


「でも……」


「大丈夫だよ。この人ならさ」


 さっきまでの警戒心はどこへやら、直登は信用できると司は平然と言う。そして直登に、二人で話してた時の、厳しい表情が嘘のように満面の笑みを浮かべる。大抵の男なら、その笑顔だけで惚れてしまうかもしれない。

 だが一瞬直登に向けられた視線が険しくなったのを見逃さなかった。

 まるで、「余計な事するんじゃないぞ」と言わんばかりである。どうやら、直登を桂葉の人見知り克服に、利用しようとしているらしい。

 質問に答えて貰えるならば、利用されようと構わない。

 直登は、司にした質問と同じことを桂葉にへと聞いた。


「えっと、じゃあ、聞いてもいいかな? 君は、三日前の放課後、商店街に行ったりしたかな……」


 横で鬼の見張りがいるからか、自然と優しい言葉使いになってしまう。

 これでは、冗談の一つでも言えない雰囲気である。改めて畏まると、女子高生とどう接していいのか混乱する。

 赤岬なら、こんなに気を使わなくともいいのだが……。

 見張り番である司の審判はクリアしたのか、何も言われなかった。後は桂葉が答えるのを待つだけだ。 最期まで笑顔を絶やさずに直登は、桂葉の言葉を待った。

 一つの質問に答えるのに、三十秒ほど間が空いてから、


「わ、私は……、い、行ってないです」


 桂葉は言った。

 そしてすぐに桂葉は、司にへと抱き着いた。直登の質問に答えるのがそんなに怖かったのだろうか。若干、司の表情が固くなった。


「……」


 司は桂葉の頭を撫でようと手を伸ばしたが、頭に触れる瞬間に躊躇した。が、すぐに親友の頑張りに優しく頭に手を乗せる。


「……だってよ。オジサン。残念だけど私たちは無関係だね。ここ、よく答えたわね。偉いよ」


「怖かった、怖かったよー。司ちゃん!」


「…………」


 この子、こんな性格で学校生活大丈夫なのだろうか。日頃の生活を見てみたいと好奇心を煽られるが、口に出すのは勿論、表情にも出せなかった。

 司が直登を見ていたのだから。

 桂葉 ここは、学級委員長というよりは、小動物に近かった。司の背に隠れて直登から距離を取ろうとする動作は、リスや兎を彷彿とさせる。

 聞けることは聞けたのだから、これ以上は迷惑だ。直登は紳士的に腰を折り曲げて二人に礼を述べた。


「関係ないのに聞いて悪かったね。時間も取らせちゃったし……」


「ふーん。ま、見つかるといいね。探してる人」


 そんなことはどうでも良さそうな司だ。

 桂葉の人見知り克服の用が無ければ、直登となど話す必要はないということか。


「ありがとう……」


「じゃあ、失礼します」

 

 礼を述べた直登に、軽く会釈をした二人は、それぞれの自転車に跨ると、自転車を漕いで直登から離れていく。桂葉の脚が小さな足が凄い勢いで回転する。

 人見知りとは言え、少しやり過ぎなのではないか。


「そこまで、嫌われたのか……? 俺……?」


 桂葉の脱兎の如くの別れに傷付く。

 目的の『魔女の証』ではなかったのかと、直登は念のために『気配』を探るが――やはり、感じることはなかった。

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