魔王エミレールの悩み事

けろよん

第1話

 暗黒の渦巻く魔界の大地。

 魔王城の玉座に腰掛け、膝の上に開いたノートパソコンの画面を見つめながら、魔王の少女エミレールは何事かを考えていた。

 彼女の表情は先程からぴくりとも動かない。

 魔界の宰相ザメクは魔王の思案を邪魔しては悪いと思ったのだが、彼女の物思いがあまりにも長かったので声を掛けることにした。

「エミレール様、何か考える事があるのなら、この私にも話してはいただけないでしょうか」

「ザメクか」

 エミレールはもう一度考えるようにノートパソコンを見つめてから、蓋を閉じて顔を上げて言った。

「実はわたしは数日前にカクヨムに小説をアップしたのだがな。なぜか全く読まれないんだ。わたしは多くの人に自分の書いた小説を読んでもらいたい。お前はどうしたら良いと思う?」

「それならツイッターやSNSで宣伝されてはどうでしょう」

「ツイッター?」

 ザメクは宰相として多くの情報を集めていた。インターネットに触れる機会もあった。そこで得た情報でそういう物があることを思い出した。

 エミレールは良いとも悪いとも言わなかった。ただノートパソコンを膝に置いたまま訊ねてきた。

「わたしはそれがどういうものか知らないんだ。お前は知っているのか?」

「それは……」

 ザメクは言葉に詰まってしまった。そうした行為があることは知っていたが、それ自体はやったことが無いので知らなかったのだ。

 ザメクが困っていると、そこに扉を開けて入ってきた人物がいた。

「そんな面倒なことをしなくても、俺がもっと良い方法を知っていますよ」

 竜の仮面の男ドラゴンだ。

 魔王軍に古くから仕えているザメクは新参者の彼の事を快く思っていなかった。だが、この場は救われた形になった。

 エミレールは異世界から来た彼なら良い考えを授けてくれるのではと思って訊ねた。

「どんな方法があるんだ?」

 訊ねる少女にドラゴンは拳を握って強く力説した。

「弱者であるカクヨムなど捨てて、人の集まるなろうに小説を出すのです。そうすることでエミレール様の小説はずっと多くの人々に読まれ、やがて世界を手にすることすら出来るでしょう」

「わたしにはカクヨムのために書いた小説をなろうに出す気は無いんだ。お前の意見は飲めない。すまない」

「うぐ、そういうことなら仕方ない。王はあなただ。魔王様の意向に従いましょう」

 ザメクはエミレールがきっぱりとドラゴンの意見を退けたことに内心でほくそ笑んだが、事態が解決したわけでは無かった。


「エミレール様の小説が読まれるにはどうしたらいいんだろう」

 ザメクが考えながら魔王城の廊下を歩いていると、話を聞いていた警備の悪魔達がやってきた。

「ザメク様、実は我々に良い考えがあるのです」

「ほう、良い考えとは?」

 ザメクはその考えを聞きだした。

「ふむ、私にはよく分からないことだが、それでエミレール様が笑顔になれるなら。良かろう。やってみるがいい」

「ハハッ、では直ちに」

 宰相の許可を得て、悪魔達はさっそく行動を開始した。


 次の日もエミレールはノートパソコンを見ながら何かを考えていた。

 だが、その日は訊ねるよりも先に彼女の方から顔を上げて話し掛けてきた。ザメクはとても感動したが、外見では平然とした態度を取って彼女の話を聞いた。

「今朝起きてみたら、なぜかわたしの小説が読まれていて、星やフォローがたくさん付いていたんだ。わたしは夢を見ているんだろうか。わたしには何が起こっているのか分からない」

「エミレール様の小説をやっとみんなが認めたんですよ」

「そうか。わたしにもついに読者が付いたんだな。わたしはもっと小説を書いていきたい。お前も応援していてくれ」

 魔王の悩みが取り除かれて、魔界にも平穏が戻ってきた。


 魔王城で良からぬことが行われていることは神の知るところとなり、それはお告げとして王女レオーナに伝えられた。

 神の意思を受けたレオーナはさっそく召喚の儀式を行って、異世界から勇者の少年を召喚した。

「ここはどこだ? 僕は異世界に来たのか」

 レオーナは塔の魔法陣で彼を出迎えた。

「よく来られました、勇者様。わたし達の世界では今大変なことが起こっているのです」

「大変なこと?」

「はい、魔王城でF5連打や複垢といった不正が行われているのです。このままではカクヨムのルールが崩壊しかねません」

「悪い奴は放っておけないね。分かった。魔王は僕が倒すよ。勇者として!」

「では、勇者様にふさわしい武器を与えましょう」

 こうして勇者は魔王と戦うことになった。

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