激動!風紀委員密着24時!(下)

 柊の耳に入った案件とは、校内のとある一角で怪しい取引を目撃したという情報だった。

 やけに活気に満ちていて時に高額な物品のトレードが起こっているという。


 ―ここまで言うとお気づきのかたもいるだろう、前話冒頭のアレである。


 不良たちの夢の祭典に、風紀という名のメスが入った。


 潜入などとそんな狡い真似はしない、真っ正面から乗り込み制圧せんと柊以下風紀委員メンバーは現場へと足を踏み入れる。


 その先で見たものは―


「最後はこれだ!去年の夏祭りに撮った秋穂姉の浴衣姿の写真!!!!!」


 目立つ位置に堂々と一枚の写真を見せびらかす顔を隠した一人の少年。

 その写真を一目でも見ようと、あわよくば手に入れようと躍起になるやんちゃボーイズ。

 競り上がるレート。

 扱っているのは柊が写っている写真(隠し撮りではない)。

 パッと見闇オークションそのものであった。


 固まる柊、他の風紀委員も予想外の事態に似たような状態に―


 いや、一人だけ動ける猛者が存在した。


「BU◯PのアルバムCD一枚!!」


 頼れる仲間の副委員長だ!

 彼はこのオークションのルールを瞬時に理解し、目的を達成せんと一人動いたのだ!


「ってなにやってるんですか副委員長ォ!?」


 二年の風紀委員からツッコミがはいった!

 因みに柊はフリーズしてるぞ!

 しかし副委員長志島は止まらない!むしろなにもわかってないと憤りすらしている!


「バカやろう!お前らあの写真をみてなにも気づかねぇのか!?そんなだから愚図なんだよ!!」


 (なんでこの人取り締まってたときより当たり強いんだ?)


 そんなことを後輩たちは思ったものの、念のため遠目ではあるものの写真をくまなく観察する。

 すると一つの結論にたどり着いた。


(柊委員長が笑っている…だと!?)


 ―ここで一つ解説を挟もう。

 柊は性質的にあまり人付き合いを得意としないタイプの人間だった。

 ―一重に昔起きたとある事件によるものだが、今回は割愛させていただくとして。―

 風紀委員なってからはとくに気を引き締めることが多くなり、それゆえ学校にいる間は滅多に笑うことがなかった。


 仮に見せたとしても、年下の子に向けたあやすような笑顔くらいしか風紀委員たちは見たことないのである。

 

 そして、写真には柊が浴衣姿で微笑む姿。

 しかも頬を赤く染めながら嬉しそうに笑っているという、普段の生活で絶対に見ることの出来ない『照れ笑い』という激レアの表情!

 眩しすぎて一部の生徒(風紀委員含む)が直視できないほどだ。


 この瞬間、集まっていた風紀委員のほとんどが男女問わず遣い物にならなくなった。

 全員が競りに出されている写真に夢中になってしまったのである!


 残された柊が再起動を果たした頃には仲間と後輩たちは全員やんちゃボーイズたちに混じり競りに興じていたのだった。


 それはそれでショッキングではあったが柊はそれよりも物申したい人物がいた。

 おそらくこの騒々しさでは届かないかもしれないがそんなこと知ったこっちゃないと声を張り上げる。


「なな、なにやってるのよ正希ィ!」


 一番目立つ壇上にいた、今年中1になる少年へ。

 名を相川正希あいかわまさきといった。

 言わずもがな相川兄弟の縁者、一番下の弟だ。


 もちろん柊ともバッチリ面識がある―どころか幼少期の面倒を柊がガッツリ見ていたのである意味では優希よりも濃厚な仲とも言える関係である。


 なんなら両親よりも頭が上がらない存在として正希は柊を認識していた。

 ―じゃあなんでこんなことしてるのかって?一番の理由は反抗期だからってやつです。―


 だからなのか、柊は顔を隠されても弟分であることを看破したし

 逆に耳に馴染んだせいか聞き分けることができてしまった少年は、顔を青ざめて柊を見た。


 壇上に立っているのでお互いのことがバッチリ見えるのだ。


 正希は声を聞いた瞬間に不味いと判断したのだろう、対応も早かった。


「今回はここまで!お前ら解散だ!捕まったやつらは自己責任だからな!」


 それだけ言い捨てるとブーイングの嵐飛び交う輩を無視してスタコラと逃げ去っていく。

 さて、取り残されたのは熱狂の渦に飲み込まれていた不良組と風紀委員たちだ。


 まだ状況をつかめてない一部とだんだん不味い状況だと認識しはじめた生徒たちが入り交じった状況で、柊女子からドスの聞いた喝がはいる。


「風紀委員!ボサッとしないでまとめて全員取り押さえなさい!」


 一方からすれば獄卒からのアナウンス、もう一方からすれば戦女神からの大号令と同じ意味合いだろう。


 我に返った風紀委員たちは次々と不良どもをお縄にかけていく。

 逃げようとしたものも多くいたが最初にとんずらした正希以外は全員指導室送りとなるだろう。


 順当に片がつきそうだと判断した柊はその場を副委員長に任せ逃げた最後の一人を追うことにした。

 もちろん、先ほどの失態については後程改めて是非を問うという一言も忘れずに言い残してからである。



 さて、一人脱出した正希はというと―


「ハァッハッ…クッソ!なんであんなタイミングで秋姉あきねえがくるんだよ!?マジびびったわ!!」


 そういいながらマスクとサングラスをはずして息を整えている。

 その顔は確かに兄弟であるとわかるくらいには相川(とくに次男)と似ていたが、その目付きは鋭く見るもの全てを威嚇しているようだった。


 そういう意味では兄弟のなかで一番個性的だった。

 それのお陰で苦労もしたし理由もあるのだが、そんなことより目下の重大事は柊の件。


 思わず条件反射的に逃げてしまったが、状況は最悪である。

 最近なぜか(正希のことにかんして)感が鋭い柊は、もう確実に実行犯を特定していることだろう。

 そうなると、幼馴染みである正希な逃げ道がなくなる。

 親兄弟ともども柊に味方することは確実だからだ。

 日頃の行いの差というやつである。


 ひとまず、どこかに身を潜めて打開策を―などと考えている時点でもう積んでいるのだが。

 ほら大魔王あねなるものの魔の手がすぐ近くに―


「みぃつけた。」


 ぬるっと捕まれた右手

 響き渡る悲鳴、具体的にどのような悲鳴だったのかは彼のプライバシーの保護のため割愛させていただこう。


「そこまで驚くことないじゃない」


 柊は至極遺憾だという顔でため息をつく。

 かわいい弟分に怖がられて若干傷ついている様子。


 対する正希はガッツリ右腕捕まれて逃げる逃げれない。

 顔面蒼白でガクブル震えている。


「な、なな、なんでここに…」

「何でって貴方わかりやすいもの。―で、どうしてあんなことしたのか、教えてもらいたいんだけど?」


 にっこりと笑いながら丁寧に情報を聞き出そうとする柊。

 もちろん目は笑っていない。

 無理矢理手を払えないわけではないが、色々と頭の上がらない正希は心情的にできない。


 チワワみたいに震えるしかない不良少年は、観念してことのあらましを話すしかなかった。

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