激動!風紀委員密着24時!(上)

 校内には人目に付きにくい場所というのはいくらか存在する。

 そういうところではこぞってやんちゃな不良たちが、大人に反発するため、大人のいけない火遊びを真似て粋がるのだ。


 そう、この成平中学でも似たようなことが起きていた。


「それじゃぁ今度の品は1000円相当から、行ってみようか」

「遊〇王の新弾未開封10パック!」

「図書券2000円分!」

「新品未開封のスニーカー一足!!」


 一人の少年が紙切れ一枚もてあそぶように観客に見せつける

 すると熱狂した彼らはこぞって持ちよった私物を掲げはじめた。


 まるでサバトが闇オークションのようだ。

 集まった連中はまだケツの青いやんちゃボウズばかりだったが。

 かわいいね!



 ところ変わって放課後。

 今現在裏庭には素行不良な学生の姿は特に見当たらない。

 代わりと言ってはなんだが、男女の一組で行動するものたちが多くたむろしていた。

 言わずもがな彼らはカップルである。


 組数にしてそれほど多くはないものの、回りからの余計な茶々が入らない(回りも似たような奴らばかりなため)ので各学年から邪魔をされたくない奴らが集まってくるのだ。


 とはいえ、盛り上がりすぎると羽目を外してしまう輩がでるのも確実。

 そんないきすぎる輩を諫めるために存在するのが―


「おいみんな!やつらだ、風紀委員がやって来るぞ!」


 風紀委員である。


 左肩に専用の腕章をつけ、数人の男女が連れだって裏庭へと突入した。

 

 そのうちの一人、風紀委員長である柊秋穂は、平時よりも気持ち厳かな目付きで裏庭の様子をうかがっている。

 いわゆる、仕事モードと言う奴だ。


 


「そこのあなたたち」

「「は、はい!」」

「制服がやけに乱れてるようだけど…どうしたの?」

「いやその…昼寝、そう昼寝をしようとしただけで、息苦しくて少しはだけただけてす!」

「そう…でも昼寝するだけでそこまではだける必要はないわね。すこし詳しく話を聞かせてもらおうかしら…指導室で」


 そういうと柊は付き添いの後輩風紀委員に指導室、と呼ばれた空き教室に案内するよう指示を出す。


 カップルが何やら抗議を始めたが柊と風紀委員はどこ吹く風。

 何なら一部の風紀委員は嬉々とした―むしろ鬼気とした様子でカップルを更迭していく。

 いつの世もモテと非モテの溝はかくも深く暗いものであった。


 それはそれとして、柊は粛々と疑わしいカップルたちを粛清、ではなく指導室へ更迭していく。


 そしてあらかた片付いたところようやく一息つきながら一言。


「最近風紀乱れすぎてないかしら…何か行事でもあった?」


 心底不思議そうに呟いた。

 その問いかけに、風紀委員たちは一斉に押し黙る。


 実際、ここ一年柊が風紀委員長に抜擢されてからは特にカップルたちの風紀は良好であった。

 手を繋ぐ、腕を組む、あったとしてもフレンチキスくらいなぎりぎりプラトニックな恋愛が主。

 その上、彼らは目をつけられないためにも校則は遵守していたし、もちろん身嗜みにも気を配っていたのである。


 が、最近になってその緊張は緩みはじめた。

 この場だけではなく制服は着崩しはじめ

 女子はコスメに異様に執着しはじめ

 男子は香水やら髪染めに手をつけはじめたのだ。

 今回の一斉検挙は緩みはじめた風紀に危機感を持ったことが一つの要因だった。


 とはいえ、その原因を突き止めないとあまり効果がないのは事実。

 どうしたものかと柊は頭を悩ませていた…が

 実は心当たりがないのは柊のみでほかの風紀委員はあらかた見当がついていた。


 それは―何度も擦っているあの柊女子告白騒動である。

 さらに付け加えるならば、柊と優希が付き合っていなかったという事実に起因していた。


 これまでは風紀委員長が特定の誰かと付き合っているという事実(誤解)。

 端から見て仲睦まじくもプラトニックなお付き合い(事実誤認)を模範としてカップルたちは一先ず自粛していたわけである。


 それが嘘(誤解)だと判明した暁にカップルたちは自重をやめたのだろうと彼ら(柊以外)は察していた。


 が、誰もそれは指摘しない。

 やぶ蛇になると誰もが理解していたからである。

 具体的には下手につついて異性として意識させるのが嫌だったのだ。


 かたや人望厚く清廉潔白な風紀委員長。

 去年開催されたミスコンにはがあったのか話題には上がらなかったものの委員の生徒全員(男女含む)が認める美少女。


 かたや前生徒会長の弟だが、どちらかというとやんちゃする方で、別段容姿が優れているわけではない問題児。


 お似合いかと言われれば、一周回ってアリかも知れない。

 しかし風紀委員にとって優希は目の上の瘤でありいけすかない奴の筆頭だったのである。


 校内の平穏より己の私怨と(あと私欲)を天秤にかけ、彼らは後者を優先したのであった。



「しかし委員長、制服を着崩していただけで指導室送りは些か厳しすぎるのでは?」

 

 上記のような心境を一先ず飲み込み、2年の風紀委員の男子が疑問を口にする。

 常であれば毅然とした態度で答える柊だが、今回だけは口ごもった。


 それを見かねて三年生から助け船が出された


「お前らなにも気づかなかったのか?送られた奴の共通点。」

「え、えーと…そういえばみんな不自然に汗かいていましたね。それと顔も赤かったような…あ」


 ここまできてようやく府に落ちた二年生は顔を真っ赤にしてうつむく。


 ぶっちゃけるとエッチしてた疑惑があったのだ。


 でも中学生だろと侮ることなかれ、どこからともなくそういう知識は手に入るから万が一ということもあった。


 ともかくそういうことを口にするのが憚れた柊。

 今回の助け船はまさに渡りに船であった。

 便りになる副委員長に柊は素直に感謝していた。


「ありがとね志島」

「姫さんのためならばこれくらいお安いご用ってやつよ。」

「うん、姫呼びそれやめてくれる?ガラじゃないし、そもそも副委員長の自覚ある言動しなさいよ。」

「こいつは手厳しい」


 していたのだがこの副委員長、人を食ったかのような言動が多くナンパな性格のため評価の難しい男だった。

 呆れのこもった目線で睨まれても副委員長はどこ吹く風、むしろ構ってもらえて嬉しそうだ。


 ―現状の風紀委員は柊を偶像崇拝アイドルとして見ている輩が多かった。

 若干ナンパな気質の副委員長もその口である。


 ともあれ本日分の見回りも大概終わり、このまま号令と共に解散するかと思った、そのときである。


「柊委員長!取り急ぎ判断を仰ぎたい案件が―」


 風雲急を告げる知らせが届いた(誇張)

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