女子供三人依らば姦しい

 説明しよう―【チキチキ、中学校低学年美少女着せ替え大会】とh…え、それより気になるものがあるって?


 OK、説明しよう。『月宮さん』とは―

 物語冒頭にその言葉だけが出てきた、この学校―成平中学校に在学中の校内一の美少女である―!

 校内一は言いすぎじゃないかって?否!

 何故なら去年のミス成平中コンテストに見事優勝を納めたからである。

 中学なのにミスコンやったの?という疑問はおいといていただきたい。そのうちするから(めそらし)。


 ともかく!彼女―月宮円香つきみやまどかは、その艶やかな背中まで届く黒髪と一目を引く陶磁のような白い肌。

 深窓の令嬢を彷彿とするその容姿をもって、去年の春鮮烈な中学デビューを果たしたのだ。

 そんな彼女も今年で三年、文芸部副部長と生徒会副会長の役割を見事両立させ、今年の秋には二つの任を円満退職する予定である。


 なんだこの才色兼備(ドン引き)



 ともかく、なぜそんな彼女がこんなヘンテコな集いのあまりパットしないメンバーに混ざっているかというと。


「最初は事案かなーって思ったんだ。」

「―ハイ?」


 のっけから意味の分からない言葉の羅列に、樋ノ上の頭の中が疑問符で埋まっていく。いや意味が分かっているから逆にだろうか。


 しかし月宮そんなことお構いなしに話をつづけた。


「今日は参考書と…ついでに好きだった小説の新刊を買いに出かけたの。そしたら街中で優希くんを見かけたんだ。最近連絡先も交換したし友達みたいなものでしょう?だからふと何してるのか気になったから様子を見に行ったの。そしたら―」


 そこで一つ区切りもう一人の少女、八坂マナを手を取り抱き寄せた。

 そして自らの携帯を見せるように開く。

 そこには「110ひゃくとおばん」とダイアルされる直前だった。


「こーんなかわいい子と一緒に連れ立ってるの見ちゃってね。思わず女日照りになった優希君が子供に手を出した!って思って通報しようか迷ってたの」

「「ストップストップストップぅ!!!!???」」


 今にも電話が掛けられそうな状態に、必死に止めようとする樋ノ上と優希。

 そんな彼らを見た月宮は―微笑わらっていた



「ごめんごめん、さすがに冗談だよ。というか優希君はこの流れさっきもやったよね…?」

「体が…勝手に…!」


 基本的にノリがいい男相川優希と若干小悪魔じみた挙動を見せる月宮。

 月宮の両腕にすっぽりと収まったマナは少し戸惑っている。

 そしておちょくられていたとようやく気づいた樋ノ上は―激昂した。


「だ、騙したんすね!?」

「通報しようか迷ったのはホント。」

「そっちは本当なんすか!?」


 ―それはまるで掌の上で踊らされてるようだったと、後の樋ノ上女子は語る。

 さんざんおちょくられたあとようやく話の帰結までたどり着いたのだった。


「ともあれ通報はやめにしたんだけど、それでも心配だからついてきたのでしたっ」

「は、はぁ…これ最初と最後だけ言ってくれればよかったのでは。」

「樋ノ上さんの反応は新鮮だったからつい」


 ペロリと舌をだして茶目っ気をアピールする月宮=サン。歴戦の小悪魔っぷりである。どうやら樋ノ上も気に入ったようだった。


 対して樋ノ上はすでにグロッキーである。


 しかし10分もたたないうちに、このグループでのヒエラルキーは確立されようとしていた―!

 ちなみに野郎が一番下ね。上から月宮→マナ→樋ノ上→越えられない壁→優希である。慈悲はない。


 仲良くなることはいいことである、がしかしそろそろ時間が押してきて―


「二人とも…気づくのです…主催者と主役がおいてかれてます…気づくのです…」

「わ、わたしは楽しいので問題ないですけど」


 そう小声で切り出す主催者と主役の二人であった。



「それじゃぁ、今回の企画の大まかな内容を説明する!」


1.八坂マナちゃんを予算内でプロデュース!

2.コンセプト『庶民的』町に出掛ける際に常用できるものを選ぶこと

3.それぞれ一着ずつ持ちより主役であるマナが着てみたいと思ったもの選ぶ!


「―以上だ!」


 格付け番組の司会者になった気分で説明を終える優希。

 雰囲気に釣られて拍手をしているのはマナ一人だけだ。


 他二人は、なんだがやや不満げである。

 最初の勢いはどこへやら、今度は女子二人の様子に釣られてしおしおと


「あの…やっぱ駄目でせうか…?」

「駄目って訳じゃないんすけど」


 真っ先に歯切れの悪い返事をしたのは樋ノ上だ。

 もともと二人きりのデートのつもりでここまで来た女である。邪m…もとい付き添いが二人もいては、デートどころではない。


 そして片や後輩の女子―マナが心配でついてきた月宮。

 樋ノ上と合流した時点で誤解はほぼ解けているのでここに付き合う必要性がない―ないのだが。


「そうね、やっぱりここは選ばれた方にご褒美を用意するべきところじゃない?例えば―来週の休日一日優希くんを自由にできる権利とか」

「のったぁ!」


 即答。茶々をいれる間もなく樋ノ上は月宮の手を取った。

 今まで邪険にしていたのが嘘のような転身かわりみである。



「あの、俺の意思は…?というかそんなんでええの…?」

「でもこれが一番安上がりだよ?樋ノ上さんもノリ気だし、そっちの都合にも会わせるからさ」

「うん?…そう…?確かに…?」

「そそ!むしろプラスだよ?」


 うまく丸め込まれてる上に来週も休日一日女子に質にとられてることにかわりないぞ!

 やったね優希くん!


 そして本日メインイベントは、恙無く進行していった。


 思わぬ副産物にやる気を出していただけの樋ノ上も、やはり女の子なのか真剣に服選びをしているうちに熱が入りだし


 場を引っ掻き回していた月宮も、可愛い後輩のためなのか真剣にかつ楽しそうに服を吟味していた。


 それから―

「えっと、やっぱりどっちも可愛くて、わたしには選べないです…」


 最終的に樋ノ上は動きやすさを根底にイメージを一新するようなるべく明るい色でまとめたのに対し。

 月宮は逆に物静かなイメージをむしろ冗長するように落ち着いた色と服の組み合わせで攻めてみた形となる。


 両極端なコンセプトの優劣をつける目などマナも優希も持ち合わせていない。

 

 後は個々人の趣味から選ぶしかないのだが、どちらも甲乙つけがたく―まぁがたつのを嫌ったというのもある。

 それは、主催者である優希も同じことで煮え切らない態度である。


 先に折れたのは月宮だった


「仕方ない、今回は引き分けということにしてあげましょう。」


 その言葉にブーイングを始める樋ノ上、優希とマナはホッと息を吐いている。


「なので来週土日、一人一日ずつ優希くんを自由にできるってことて」

「それはマジで勘弁してくだせぇ。せめて日曜だけは…」


 土下座する勢いで休日を死守しようとする優希。

 結局、二週間にわたって履行するという約束のもと決着がついたのだが―。

 そんな優希の様子を月宮は注意深く見つめていた。

 


 そして日も暮れ始めたころ、優希は門限が厳しいらしいマナを送るため先に帰路へとついた。


 特に急ぐ理由もない月宮と樋ノ上は、帰り道も同じということもあり連れだって歩いていた。


 そしてこれを好都合と思った樋ノ上は新たに涌き出た疑問に手をつけることにした。


「月宮…さん。一つ聞いて言いすか」 

「わたしがわかることならいいよ。」

「自分の記憶だと、あんたは相川から告白を受けて一度振ったはずなんすけど…なにも思うところはないんすか?」


 それは、この物語の冒頭のお話。

 全ての発端、優希が月宮に告白したという事実はあったはずなのだ。

 だというのに今日の彼らはそんな雰囲気は感じさせない、どちらかというと男女関係のない友達感覚だったと樋ノ上は感じていた。

 それこそ、自分や柊と接していたの同じくらいである。


 もしくは『友達としてメルアドを交換した』ともいっていたし考えすぎかもしれない。

 ―と思っていたら予想外の返しが来た。


「うーんとね、少し語弊があってわたし『まだ告白されてない』んだよ。」

「…は?」


 さすがの樋ノ上も言葉がでない。


「呼び出しておいて、土壇場で怖じ気づいたみたい。それでわたしの方から話を振ったの『柊さんと付き合ってるのにいいの?』って」


 その一言に優希は大きく動揺して、柊との関係を否定するより先に、珍しく一度だけ言葉を濁したのだ。

 ただ一言「あいつはそもそも―」とだけ。

 その後は物語冒頭をなぞった形である。


「相川、案外ヘタレだったんすね~。」


 樋ノ上からみて優希はとにかく行動に移すのが早い男の子だ。

 思考は止めないが、目的のためなら一直線で突き進んでしまう危うさがあった。

 そんな彼が初な反応で戸惑っていたという話は樋ノ上にとって意外だった。

 新鮮だったとも言う。

 


「あ、もしかして幻滅した?」

「まさか、そういうあんたはどうなんすか?」


 とりあえず目の前の厄介な人物が当面の障害にはならなさそうである。

 そんなことを考えながら適当に返事を返す樋ノ上。

 まだ油断するには早かったと言うのに―


「わたし?わたしは―で来てくれてたら、嬉しかったかな」

「え」


 樋ノ上の足が止まる、思考も止まる。

 それをまるで追い上げるように前に出ると、月宮は樋ノ上に向き直り茶目っ気たっぷりな笑顔を向けた。


「優希くんに世話になったのはなにも君たちだけじゃないんだよワトスンくん。」

「」

「そう考えると、お互い世話になったもの同士仲良くなれるかもしれないね!」

「そ、そんなわけあるかぁ!?あんたと自分じゃ丸きりちがうっすよ!?」


 よくて恋敵ライバルとかいて『とも』と呼ぶくらいだろ!

 三度めの思考停止から再起動を果たした、そんなネタに走ってしまいそうになるほどペースを崩される樋ノ上。

 しかし端からみたらただの中のいい女友達にしか見えなかったのは、余談である。

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