誰かが頑張るうらで遊びは愉しい
さて、今度は屋内で起こった話ではなく、郊外―街中のイベントのお話。
時は秀樹が家を出てしばらくたったあとまで戻り、場所は学校に一番近い駅
そこに明るい色のキャスケット帽を被り、全体的にボーイッシュな雰囲気で統一したファションの女子がいた。
名を樋ノ上葵。
黒髪おかっぱ頭の彼女はなんか気持ち悪い笑みを浮かべて駅構内の柱の一つに寄りかかっている。
「まさかこんなはやくチャンスが来るとは…ふへへ、やっぱり時代は略奪愛っすねッ」
小さな声でそんなことを呟く彼女
―おそらく、心の声が漏れ出たものだったのだろうが、まぁ周りは気にしていないのでノーダメージである、たぶん。
「あ、そこにいたのか。おーい!」
やがて、彼女が待ち望んでいた人物の声が聞こえてきた。
若干の緊張と抑えきれない幸福感に任せて満面の笑顔浮かべ
「んなッ!!!????」
盛大に笑顔を崩しながら女の子が出してはいけないような悲鳴を上げた。
―話は少しだけさかのぼり―
秀樹が(形式上だけ)勉強にさそいそれを優希が断った後の、相川邸。
兄がおとなしくあきらめたことに首をひねりながらも、まぁいいかと自らの予定を優先した。
ところで以前、こんなことがあったのを覚えているだろうか。
柊(への)告白大会の当日、優希は一人の少女と出会った。
ここからはその後の舞台の裏のお話
その時に彼はひとつ面白そうなことを思いついたので、その少女と一つ約束を交わした。
とはいってもそこまでたいそうなものではない―
その約束のため彼は行動に出る。
まず、人数が多いほうがいい。そして、できれば女性であることが条件だ。
優希の伝手では、それがカバーできる人は三人、いや二人しかいいない。その二人のうちの一人はいま絶賛仲たがい中である…微妙に語弊があるが。
なので消去法で彼は最後の一人に電話をかけた。
「あ、もしもしオレオレ、俺だけど」
『オレオレ詐欺はおことわr…って相川…?』
ふざけてオレオレ詐欺の真似をできるのは、まぁそれだけ仲のいい証。
その後すぐに相手がだれかわかるほど聞きなれてれば、もう友達くらいは親しいと思っていいだろう。
「そうそう。相川の優希ね。驚いた?」
『びっくりしたっすよ!ついにわが家もオレオレ詐欺デビューするのかと…』
「すまんすまん。ところで今日空いてる?」
『あ、ああるっす。全然空いてるっす!何かあっても余裕で開けるっす!!』
「お、おう?そうかよかった。実は手伝ってほしいことがあってさ、よければこの後一緒に出掛けない?」
『へぁッ!?出かける!?』
どんがらがっしゃんと受話器越しに物音が聞こえてくる。
思わず優希は耳を遠ざけしかめ面に。
そのあとすぐに受話器越しの相手が心配になり恐る恐ると様子をうかがう。
「おーい、樋ノ上、大丈夫かー?」
『~ッ大丈夫、全然大丈夫っす!』
「―あー怪我してんなら今日はやめとく?」
『怪我ぁ!?いったい何の事っすかねぇ!?ほらァ全然うごけるっすよ!!』
そういう彼女は電話を掛けながらスクワットを始めた。
もちろん、テレビ通話でもないので相手の現状は見れない。
優希にわかるのは、運動してるかのように荒い息遣いと、ときどき聞こえる風切り音のみである。
ただ樋ノ上の「なにがなんでも連れて行ってほしい」という気概は感じ取ることができた。
ので彼は話をつづけた。
「ありがとな。それじゃ悪いんだけど集合場所は駅前で、時間は午後一時半くらいでどう?」
『オールオッケー!それじゃ自分、ちょっと用意始めてくるっすね!』
ガチャンと受話器を置くのが早かったのは樋ノ上のほう、優希はその後結果に大変満足してゆっくりと受話器を下す。
―ここでお互いに少々誤解が生まれたのは勘のいいお方ならわかるかもしれない。樋ノ上はこれを『二人きりのお誘い』であると解釈したが、一度も。そんなことは、言ってないのである。―
そしてそのままとあるおたくの電話番号にそのままかけなおした。
「あ、マナちゃん?実は前言ってた約束の件。今日行けそうなんだよねー。よければ―」
―そして現在。―
樋ノ上の前には待ち人である相川優希、そしてその隣には大小二人の女子がいた。
うち一人は樋ノ上も知っている子だが、もう一人は初対面である。
なんとか平静を保ちながら彼女は口を開く
「そ、そそそその、その子はどちら様っすか…?」
めちゃくちゃ震えているが、優希は「初対面だから緊張してるのかな?」程度にしか思っていない。
それはそれとして本題に入るために一度自己紹介を挟むことにした。
「この子は八坂生徒会長の妹さん、マナちゃんっていうんだって」
「はじめまして、生徒会長の妹、八坂マナと申します、今日はよろしくお願いしますです。」
「う、うん私樋ノ上葵。よろしく…今日は?」
気合の入った自己紹介をする八坂妹に、流されるまま返す樋ノ上。
そしてふと最後に気になる部分を言葉にした。
「そ、それで今日はどういった集まりっすか…?」
「それはな―」
一拍おいて優希は口を開いた。
「チキチキ、八坂マナちゃんをプロデュースして八坂家に目にもの見せてやろうの会だ!!」
「―ハイ?」
言っていることが十割理解できない樋ノ上、やたら恐縮しまくってる八坂妹、いまだに何故ここにいるのかわからないもう一人の女子。
そんな彼女たちに説明するためさらに彼はつづける。
「八坂んちのマナちゃんなんだけど、今まで家族にかわいいって言われたことないんだってさ。いくら八坂んちが美形ぞろいのご家庭だからってそれはおかしい。ので俺たちこの子をプロデュースして可愛くして八坂兄たちをあっと言わせてやろうという魂胆なのだ!」
やや興奮気味に言い切った優希
樋ノ上も内容は理解できたが、「どうして…?」の感情が先行する。
「なるほど、そこで今日この子―マナちゃんのために私たちの力が必要だったわけか。じゃぁ予定通り近場の洋服店を見ていく感じでいいのね?」
「あれで納得できたんすか!?」
「わたしはここに来る途中で軽く説明は受けてたから…。ところで優希君、費用はどうするの?」
「大丈夫です。今日出かけるとき、父様と母様からお小遣いもらってきてるです。高いものじゃなきゃいけると思うのです。」
そういって持っていたお財布の中身を見せたのは八坂妹。
そこには確かによほど高いものでなければ十分足りるほどの金額がつまっていた。
「もちろん、企画者の俺も半額くらいは支払う…支払えるはずだ。なので比較的良心的な値段でよろしく頼みますお二方」
そして追随するように優希が(気持ち的に)腰を低くしながらそんなことを宣った。
そんなものいいに樋ノ上が疑問に持った
「え、別に相川が出す必要がないような…」
「その辺りはこっちも色々と勉強させて貰えるお礼とカッコつけたいってことで一つ。」
優希としては女の子の前でカッコつけたいのと、これから女子を口説くために事前に予習をしておきたいという下心があったようだ。
―もしこれをいまここにいない誰かに聞かれれば果たして怒っただろうかそれとも呆れただろうか―
「フフッわかりました。そう言うことならわたしも一肌脱がせていただきますね」
何故かついてきた少女は、なにかツボに入ったのか小さく吹き出しつつも快諾。
そして樋ノ上は不承不承といった感じだ。
「自分も、今さらとんぼ返りするのも億劫っすし特に異議はないっす。それはそれとして―」
「それはそれとして―?」
他に説明するところがあっただろうか―とは優希の心中。
そして、遅れてやってきた他二人も可愛く首をかしげている。
そして、最後の一人―樋ノ上は頭を痛ませる仕草をしながら、今日一番の疑問を投げ掛けるのだった。
「どうしてここに、月宮さんがいるのか説明して貰いたいんすけど!?」
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