けものフレンズ二次創作

@gimmikc

ツチノコとアイツでフレンズ

雨上がりの山道は、ジメジメた土の匂い。

ごっ機嫌だ! なぁ↑

ん、ん~。草木の露はキラキラ、月明かりはお誂え向き。

フレンズもあたりにはいないし、散歩にはもってこい(尻尾ぴこぴこ)。

あ、フレンズというのはな。動物がサンドスターにあたって変身した、

同じ基礎形態と言語、及び広義の社会集団に属するようになった生体のことでだな。

友達とかそういうことではないぞ。

俺に友達がいないとかそういうことではないぞコノヤロー!


「あー! よっるの王様~♪ 俺はツチノコってUMA(ユーマ)? TSU・CHI・NO・KO~♪

パーカーポッケに両手を挿して、一本下駄で夜を行く~♪」

とか鼻歌歌ったりして、一人でもたのーしー♪ つか、ずっと一人だし落ち着くぜ。ふぅ~↑

山頂のランドマーク<<ゴロゴロしそうでゴロゴロしないゴロリン岩>>にワンタッチして帰ってこよ~。


「王様の前には誰も許さないぜ~♪ 目をつぶっても歩けるぜ~王様だから怖くな……みぎゃ☆!?」

っ痛~……向こう脛っ痛~。

なんだ黒い岩。先日の噴火でココまで飛んで来たのか?


「せっかく、いい気分だったのにコンニャロー!!

そーゆーヤツには、喰らえキィィック! クセの悪い足だろぉ?」


あれ? ✕手ごたえ→○足ごたえナッシング!?

それどころか俺の綺麗なツルピカ生足首を生温かくホールドする何かが。

「ひぃぃ……セロリやめて……」



「鋭い蹴りをしている。だが、伸びきったところを掴まれると、それまでだ。

相手を選んで注意して技を選ぶといい」

低く落ち着いた声が岩から聞こえて、岩から伸びた手が俺を掴んでいてだな。

月の逆光で岩だと思っていたのは、<<いきもの>>だった。

さらに掴んでいた手にはナックルガードのついた指ぬきグローブがはめられていた。

これ、殴る用のやつだー!


それが俺の足を掴んだまま、ゆっくりと立ち上がった。


「なななんだコノヤロー!! やろうってのかシャー!! 足を離せシャー!! 怖くねーぞシャー!!

離さねぇと俺のピット器官で、お前の眉間に煙草吸わせるぞシャー!」

「やれやれ……クセの悪いのは口の方もらしい、な。

どうがんばってもピット器官からレーザー出ないのは知っている」

あっちの茂みに入れれば、あっちの木陰に入れればいいのにナ。

もうやだ落ち着きたい落ち着きたい!

つか、足を離してくれよぉ。

あ、離された(どてっ)。


「バカヤロー! 離すなら先に言えコノヤ……」

デ、デケエ~!? 195cmはあるゾッ!?

黒の学ランに、後ろ半分が毛と同化した学帽。

モフモフした襟巻を合わせて、カットソーから溢れた胸は豊満だっ。

ちょっと涙が出たのは、尻もちが痛かったからだからなっ。



「驚いたようならすまない。靴を……履き直していたものでな」

「わ……わかればいいんだコノヤロー。こんな夜更けに温泉でも探しに来たのか?

まっせいぜいセルリアンに気をつけるんだな~」

とりあえず変なデカイヤツはほっといて、撤収だ撤収。

茂み行きたい。落ち着きたい。お尻冷たい。茂み~。

地面が揺れているのは地震かな~。それとも俺自身の膝が揺れているのかな~。

「セルリアン」

お前も怖いんだろうが、俺は知らん。茂みに行くんだお前には振り向かないぞぉ。


ふぅ…落ち着いた。茂み最高。

それにしてもアイツこんなところで何やってんだ?(気づかれないように、木陰からピョコッ)

また、しゃがみこんで、何してるんだ?


――ペタペタ。

地面を撫でて。


――サスサス。

砂を摘んで擦り合わせて。


――ゴリゴリ。

地面を削って。


――グチャグチャ。

削れた土を水たまりで溶いて、指先に付けて。


「どれ、味を見ておこう」

――ンベロォ。


「この味。なるほど、な」

なななななんだ……?

なんだアノヤロー! 気っ持ちわるぅ。

アクシスジカは地面舐めてるけどナ。

確かにこの辺りは塩を含んだ土壌だが、

わざわざこの山を選んで登って来るなんてグルメかー!


――ペッ。

吐き出した!? アルパカスリだな、わかる。

え? 違いそうね。


ソイツが立ち上がっては、また登り出して、また砂を摘んで歩きだす。

俺は木陰から木陰へ様子を伺いながら、1kmもそんな調子で追い続けた。

あたりは茂みもまばらになっていて、センスのいい俺の鼻が温泉臭を感じているぜ。

お、落ち着かねぇ。


「やれやれ。狩りごっこに付き合うつもりはないのだが」

お、俺の真後ろから、アイツの声ががががが。

ずっとアイツを見ていたはずなのに、いつの間に(冷や汗だばぁ1リットル)。


振り向くと月の光を背にした学ラン野郎が輝く瞳をして見下ろしていた。

「なんだコノヤ……」


そして、アイツの後ろに、ひとまわりもふたまわりも大きな塔のような影が現れ、

ゆっくりズレて月明かりを遮っていく。

真っ黒な影にはシールで貼り付けたような目玉が一個だけ。

理解するよりも早く、俺は叫んでいた。


大きな影は俺の叫びに満足したんだ。目玉に表情なんて無いのにわかるんだ。

そして、俺たちを狩ろうとしている。


「ドリドリドリドリ!」

大きな黒い物体<<セルリアン>>、ソイツから何本もの槍が飛び出し、穂先が螺旋運動し始めた。

こんなので突き刺されたら俺たちはサンドスターを奪われて死んでしまう。

UMAはきっと無かったことになってしまう。

一度でいいから友達を作ってみたかったなぁ。


「オラァ!」

寡黙なアイツから発せられた一喝とともに、俺の顔にパシャッと液体のようなものが飛び散った。

それがセルリアンの破片だと気づくまでには3秒くらいかかった。

陰りから月明かりが戻る。

見ると、突き上げられたアイツの拳がサンドスターを周囲にキラキラを撒き散らしていた。

やがて光の霧が晴れると、前にのめったセルリアンの<<顔>>が削れてなくなっていたのが分かった。

飛び散ったサンドスターはセルリアンのものだった。

主を失った槍は一瞬間を置いてから、金属音を立てて周囲に散らばり落ちていった。


強い……。ほとばしるほど強い。

なんだアイツは。


「ドリ……ド……リ……」

散らばり崩れていくセルリアンの唸りがスローダウン&フェードアウトしていく。


「カチカチカチカチ」

代わってあたりに響くこの異音は一体……。

俺だ。俺の歯の根が合ってないんだ。


「セルリアンは塩水と反応すると、固形化する。このあたりはセルリアンを追跡するには便利な土地だった。

雨に溶け出した塩分がセルリアンの足跡を作ってくれたのでな」

俺の左の頬から固形化したセルリアンを取ると、指ですりつぶして見せた。

アイツの一撃で霧散したセルリアンの飛沫が、そう俺の涙で固まって石の粉になって、ってウルセー!

蛇に涙腺は無いはずなんだコンニャロー!


「ドリドリ鳴くから、さしあたりドリリアンと呼ぶことにしよう。名前があることが大切だからな」

アイツは周囲に注意を払うようにして目をそらした。

わかってやってるのが、余計なお世話なんだよキー!


「い、石だっ! セルリアンにとどめを刺すには石を破壊しないとだぞ。このままだとすぐに再生するぞ」

やっと言葉にできたのは、誰でも知っているような基礎知識。

「その通り。だがよく観察するんだ」


俺たちの半径10mには、飛散した拳大のセルリアンがキラキラと輝いていた。

いや、セルリアンが輝いていたんじゃない。

正確には飛散したセルリアンの一個一個についている石が輝いていた。

夜露に濡れた草原が朝日を反射するように、一面と輝いている。

つまり、一帯をセルリアンに取り囲まれているのだ。


さらに、呼び集まるように、脇道から道の上から下から同じデザインの新しいセルリアンが現れてきた。

潰さなきゃいけない石がたくさんある。ありすぎるんだ。


「多数の個体が寄り集まることで一つの個体のような状態になることを群体と言う。

もし、このドルリアンがそれなら群体ドルリアンと言ったところか。

あれだけの量がくっついたら私でも厳しいだろうな。

かと言って、全部をひとつずつ潰して回るのも厳しいだろう。

そこそこのサイズでもせいぜい一匹だと追跡していたつもりだが、見通しが甘かったようだ。

追い込まれていたのは私達のようだ」

アイツは解説をしながら、おそらく自分の考えをまとめているのだろう。

俺はそれを聞きながら、自分の恐怖がようやく解けてきたのを感じた。


「無関係の君を巻き込んでしまってすまない」

そう言って、勝手についてきただけの俺を見つめた視線が嘘を言っているようすは無かった。

だがコノヤローは、とんだ思い違いヤローだ。

ジャパリパークの危機に俺が無関係と言われて、はいそうですかと納得できるか?

無力と断じられた怒りと無いはずの愛着を動力に、

俺はジャパリパークの群れの内、上から数えたほうが早い頭脳を巡らせる。


「お、俺に意見がある。この窮地を脱する50個のアイデアのうち、ベストなひとつだ」

アイツは意外だと顔に描きながらも、黙っていた。

パワーとスピード、分析力もピカイチだが、きっと俺ほどはココの土地勘が無いに違いない。


「この道を登って行けば山頂にランドマークの岩がある。でっかい丸い岩だ。

うまく誘導して、アンタのパワーでこの山道をレールにして岩を転げ落とせば

ドリリアン達の石ごと潰せるかもしれない。

幸いドリリアンは動きが遅い。一個体にすればかなりのダメージがあるはずだ」

俺の指した指先には、ゴロリン岩と俺が名付けたランドマークがある。

今にも転がり落ちそうだが、地面の岩が歯止めになっているのだ。


「なるほど。すると包囲に対しては全速力での一点突破ができれば、山頂までたどり着ければ、な。

ドリリアンの包囲は見積もって3重はある」

アイツは山道を指差し、そこまでのドリリアンとの接敵地点3つをトントントンと見積もっていた。

「その一本下駄で走れるのか?」

それを俺は賛成の返答と受け取り、頷き返した。

「お前こそローファーで山道ダッシュなんて、転ぶなよっ」

俺たちは山頂にたどり着くべく、ドリリアンに向けて駆け出して行った。


「ドルドルドルドル!」

予想された通り、ドリリアン第一波攻撃。

こぶし大のドリリアンが石の雨のように降りかかり、

「オラオラオラオラオラ!」

と、アイツのラッシュによって露払いのように叩き落される。

そこを俺が、

「どけどけどけどけー!」

と一本下駄でザクザク踏みつけながら駆け抜ける。

第一波、突破だ!

スローなドリリアンが俺たちに追いつくことはない。


――山頂マデ200m↑ダヨ


「ドルドルドルドル!」

来たっ第二波攻撃だ!

群体化して道に立ちはだかるドリリアンが何本の螺旋回転する槍を振り下ろしてきたっ!

アイツは何事もなく容赦のない拳の連打を食らわせ雲散霧消させる。

一瞬後にドリリアンの数々がサンドスターを撒きつつ弾け飛ぶのは、

散開したドリリアンの一体一体の 石 を 正 確 に 破 砕 し て い る か ら だ。

ひぇえええ。戦闘中に成長しているぞアイツ!

っと、撃ち損じドリリアンが一個、アイツの頭上に落ちてきたが、これくらい問題ない。

「シャー!!!!!!!」

俺のパトリオットとび蹴りで正確に撃墜!

高さ5m前方5m以上を記録したツチノコ様のジャンプ力を舐めるなよっ。

よく聞け……これが蛇足だ! あ、待ってくれ!

第二波、ブチ破り抜けた。


――山頂マデ50m↑ダヨ


「ドルドルドルドル!」

ドリリアン、その声は聞き飽きたし、第一波と第二波を合わせたような

群体の直接攻撃と個体ごとの飛来攻撃には、そのアイデアの貧困さには哀れみすら覚えるぜ!

凡愚凡策なんだよっ。

「お前! これで最後だ」

「わかっている。野生解放で切り抜ける」

槍が無数の個体がアイツめがけて降り落ちる瞬間に、

ブンッと空気が震える謎の低周波が聞こえた。

次の瞬間、全く同時に全てのドリリアンが石を破壊されて、モヤのように漂っては空気を汚していた。

全く目を離していなかったのに、結果だけがそこにあった。

完全な勝利、ランクS勝利に思わず笑いがこみ上げてきた。

「俺の出番も残しておいてくれてもいいんだぜ」

と、頼もしい背中に声をかけたその時だった。


あの完璧な攻勢を誇ったアイツが足をもつらせて、顔面からアイツには信じられないほど無様に転んだのだ。

まるで地中から誰かに足を掴まれたかのように。

「お前何やってんだ!」

駆け寄った俺が見たのは、アイツのローファーを突き破った棘のセルリアンだった。


「地面に潜んで踏まれると同時に棘を出した。

さしずめドリリアン地雷というやつか。シンプルな上からの攻撃で私を慣れさせてから、足を奪う。

こいつは随分賢いな。別個体の経験から学習して新たな戦術を編み出してくるとは。

刺さるというか直接サンドスターを吸収するような働きをしている」

腰をおろしたままのアイツは足についた棘の形のドリリアンを抜こうともせず、俺の足を見た。

「な、なに解説してるんだっ。早く行かなきゃだろうっ」

俺はゴロリン岩を指差して、足踏みした。

「君は歯の長い下駄があるから、棘が届かなかったようだ。

だから、この地雷原も走って来られたし、おそらく頂上へも行けるだろう。

下は見ての通りドリリアンは今、群体化を進めながら登ってきている。

私はここでドリリアンを引きつけるから、君は頂上のあの岩を、この道に沿って転がすんだ。

野生解放した君の蹴りならきっとできるだろう。全部まとめて倒せるように、私が合図する」


コイツ、ドリリアンと刺し違える気だっ!

ドリリアンと一緒に、ぺっちゃんこになるつもりだ!

「そ、そんなことできるかコノヤロー! お前を置いてけっていうのか!?」

「君の作戦は滞りなく進行している。わかっているだろうが、

これはジャパリパークの危機なのだ」

俺は左手で右肩をポンッと叩かれて気づいた。

地面についている右手、さっき俺の頬を触った右手、そしておそらく利き手だろう

コイツの右手にもドリリアンの棘がへばりついている。

この手では、しばらくあのラッシュはできないだろう。

怪我というような流血はなく、キラキラした輝きがドリリアンの黒く透明な体内に吸い上げられていくのは、

分析の通りコイツのサンドスターなのだろう。

両足も右手も力が入っていない様子なのは、ドリリアンによる吸収に伴う麻痺が発生しているのかもしれない。


「ドリ……ドリドリ……」

かつて俺たちが破った三つの包囲網の残党が寄り集まって群体化し俺らと同じようなフォルムの、

だが大サイズの、一本の槍を携えた岩の巨人が登って来ていた。

ソイツは一歩一歩進むたびに、ドリリアンが参集し、更に大きくなり破壊神のような威厳すら満ちている。

わざわざこんな小さな二人に意趣返しとは、恨みがましい神様もあったものだ。


あと100mも無いだろう。ここに達するまで3分もかかるだろうか。

コイツの言うとおり、今やらなければやられるのだ。

俺も、そして間違いなくジャパリパークの顔も知らない友達でもなんでもないような連中でさえも皆。

あの手にかかってしまうだろう。


「すでにあのサイズでは私の手の及ぶところではない。わかったろう早……」

「うるせーコノヤロー!!!!!」

俺の蹴りはカミソリのように、自己犠牲ムード満々なコイツからドリリアンを削り取り、千々に切り刻んだ。

「ありがたいが無駄だ。まだ手足の感覚は戻らない。無駄なことをやっていないで、早く山頂へ行け!

もう走り出さないと間に合わなくなるぞ! 今更私がいなくなっても誰も困らん!」

言われるまでもなく、そんなことわかってるぜ!

だが俺はお前を引きずっていく。

山頂まで? いやいや、ほんの近くだ。

そこにある、休憩と観戦にお誂えの岩場、までだ。


「何ボヤボヤしている! 本当に間に合わなくなるぞ」

「お前がすることは、ただひとつ。そこで、見てな。

さっき言っただろう? 俺はこの窮地を脱する50個のアイデアがあるって。

ベストなひとつの作戦の次! そう、<<ベストなふたつめ>>に作戦を変更する!」

そもそもゴロリン岩の台座は俺の野生解放キック程度じゃ、壊せないんだよっ。


野! 生! 解! 放!

俺は全身のサンドスターが活性化するのを感じ、お前の瞳に映った自分の姿が光輝いているのを見た。

極度の緊張と興奮状態が、俺の叡智に唸りを上げさせるのだ。

身体能力とピット器官の感度が人生史上最高性能まで高められる!


「この巨神ヤロー! 俺が相手だ!」

夜の闇の中で煌々と輝く俺の瞳は格好の目標となる。

明るいものに惹かれて行動する。それはセルリアン一般の常識だ。

俺はドリリアンとメンチ切りつつ、ゆっくりと休憩所から離れつつ、後ろ足で山道を登っていく。


双方の距離は30m

観察するんだ迫り来る敵を、この高みから周囲を。そして、俺自身を。


距離5m。よし、充分引きつけることができたな。

ココが良い、ココがベストポジションだ。


アイツの麻痺もちょっとずつ解けてきているみたいで、手足を確かめている。

まぁ、今更参戦できる距離じゃないけどな~↑


ドリリアンも戦闘には適した間合いだと理解したのだろう。

さぁ一対一のガチンコバトルの始まりだ。タイマンだぜドサンピン!

「ドルドルドルドル!」

「シャー!!!!!」

俺が信じられない速度で踏み込み、左膝正面に重い蹴りをブチ込んだ。

膝の関節を逆パカしやがれ! 群体化はむしろ俺達と同じデザインだから戦いやすいぜ!

後手に回った巨神ヤローは左手で振り回すが、スローな動きで今の俺を掴むことなんて不可能だ。

右手の槍の死角、隙だらけになった左半身から小山のようなドリリアンの体躯を駆け上がる。


「シャー!!!!!」

ドリリアンの顔面に蹴りを入れ、ちょっとウサを晴らすと、俺は高く飛び上がった。

位置エネルギーと野性解放力を蹴りの一点に集中させ、

ギリギリに引き絞った弓から放たれた光の矢になったように稲妻キックを繰り出す!

ドルリアンの顔面を貫いた俺の蹴りが勢いあまって、地面に激突する。

爆弾でも落とされたように土がえぐれ、煙と重い飛沫となって周囲を存分に汚し尽くした。


「ドル……ドル……」

「やったか!?」

すり鉢状になった地面に立って、俺は土煙の向こうのドリリアンの姿をうかがう。

俺のピット器官はドリリアンの熱源をイマイチ捉えきれず、

そろそろ野生解放のタイムリミットが近いのがわかった。


「煙ってえ……でも、これだけ喰らえばひとたまりもないだろう」

やがて土煙が晴れ、ドリリアンの姿が見え……。

「ドルドルドルドル!」

土煙の晴れるまでもなく、ヘッドレスとなったドリリアンが右手に構えた槍を俺に向かって、

突きおろして始めていたっ!


「やってねぇえええ!」

本当に最後の野生解放の力を込めて、俺はヘッドスライディングで飛び退ける。

それでもドリリアンが腰をかがめて、手を伸ばしたらなんとか届くような距離だ。

ドリリアンの槍は、俺の蹴りの時とは比較にならないくらいの威力で地面に突き刺さり、

なおも掘り進めんと螺旋運動を続けながら、周囲に土砂を撒き散らしていた。

「ドリドリドリドリ!」

勝者の咆哮に聞こえたソレは、ドリリアンが無駄に賢くなった証左のように感じた。


槍を地面に突き立てたまま、ドリリアンは俺を掴もうと左手を伸ばしてくる。

ドリリアンの動きは相変わらずスローだが、

もう俺も実は指一本動かすこともできないくらいにサンドスターを消耗していた。

仰向けで息も絶え絶えだった。

減らず口のひとつを遺言代わりに言ってやるくらいしかできないほどだった。


だから、言ってやることにする。

耳(あるのか?)をかっぽじって、よーく聞け。


「最高から二番目の作戦は完了した。ミッションコンプリートだ」

ドリリアンの手が停止する。

明らかに俺の言葉に反応しているのだ。

このドリリアン、やはり賢いぞ。

だが、その賢さは今は必要無いんだけどな~↑


「このあたりの土壌は塩分を含んでいて雨が降れば溶け出す。

セルリアンは塩水に触れると石化し、お前は僅かに足跡を残すことになった。

だから、アイツがお前を追跡してこられたんだ。

そして今、お前は全身に大量の土を浴びているから解るだろう?」

ドリリアンの手は全く動くことがなく、螺旋回転を続ける槍の音だけが響いていた。

そして、その音もやがて聞こえなくなった。


「このあたりは地下水に恵まれていて、掘り当てれば滝のように流れ出てくる。

火山活動も盛んで地下水は温められ、いつ噴き出しても良いように準備万端な状態で眠っているのさ」

俺は一息ついて、地面に耳を当てた。


「野性解放でレベルキャップを外した俺のピット器官は、

その爆発寸前の地下水脈を探し当てることができる。

ちょっと印を付けて、あとはパワー自慢の穴掘り大将に貫通式をお願いしたのさ」

俺の真骨頂はあくまでピット器官。

蹴りはどこまでいっても蛇足。蛇足なんだぜ。


「そう。地下水脈をプッシュしたのは大将、それはお前だドリリアン!

無限の塩水に飲まれて消えろぉおおおおおお!」


「ドルドルドルドル!」

「気づくのが遅えぜコノヤロー!」

――ドドドドドドド。


大地を持ち上げるように轟いてくる水音がドリリアンの怒号を打ち消し、

すり鉢状の地面の中心から吹き上げた熱泉がドルリアンの槍を弾き、

炸裂弾のような飛礫がドルリアンの群体を撃ち抜き、バラバラに解体し、

ボトボトとこぼすように流れの中に落としていく。

外に放たれた熱い奔流は塩土と混ざり合い、個体の数々を軽石へと変え押し流していく。


「ドルドル……ドルドル……」

ドルリアンの断末魔が濁流に飲み込まれて消えて行くのを聞いた。

それにしても伏せておいてよかった。そもそも立てないけどな。

サンドスターの限界。気力もないし。


――ゴロゴロゴロゴロ。

なんてこった。

山頂のゴロリン岩が今の爆発的振動で転げ落ちている。

変わった地形のせいで、まっすぐ俺に向かって!

でももう交わせないし、いいや。これだけやったから俺、疲れちゃった。

うまくやったよな俺。UMAだけに。

「なんて諦めるか! っつか、うきゃー! ダメだー! 逃げられない! 潰れるー!」

無慈悲に迫る大岩に思いっきり目を閉じた。


暗闇の中で聞いた低く落ち着いた声。

「君がいなければ、私は負けていたな。君を尊敬するよ」

――パッカーン。


「うあああ! もーだめだー! ジャパリおせんべいになっちゃう!

アンコが出ちゃうー! ここでくたばるぅぅ! 潰されるぅぅ! あとはあとは……」

 

悲鳴の在庫が切れた俺は恐る恐る薄めを開けると、

身体から蛍光のオーラを漂わせたアイツが肘の先に砂煙を漂わせていた。

見るとアイツの周囲にはかち割り氷のような石塊が煙を上げて散らばっていた。


肘鉄ってそこまで強かったっけ。

冷や汗はあっちで噴いているぜ。

最高から二番目の作戦って、本当に必要だったのかな。

月光に照らされたまま、俺の意識は闇に落ちていった。



一日の始まりと別れは同時に訪れた。

あれほど勢いのよかった泉は、ほぼ落ち着いていたようで下流に小川を作っていた。


「私はあまり存在を知られてはいけないのでな」

立っているのもやっとだろうに、もう旅立つのだそうだ。

俺は肩ぐらいの高さの岩場に腰をかけて、コイツの目線と合わせている。

サンドスター空っぽで、俺はまだ立てないんだよ!


「で、でも俺だって似たようなモンだぜ? 超レアキャラクターだからな~↑」

「そうだな。出会ったのが君で良かった。ツチノコ君」

ふぁ!? なんでコイツ、俺の名前知ってんだ!?


「わかるさ。見ればわかる。同じUMA、ここジャパリパークの……のけもの同士だからな」

びくぅ! のけものってヒトが気にしていることを……。

ん? UMA? コイツが? オオカミの一種じゃないのか?

襟巻してるし、モフモフパフパフしてるし。


「私はジェヴォーダンの獣。ジェヴォーダンの獣のフレンズだ。

ジャパリパークを陰から守る獣、会うことのできないはずの獣だ」


ジェヴォーダンの獣。

UMAでも最強最凶クラス

(首を狙う野生動物と違って獲物の顔面をガブリ、とするフランスの恐ろしいUMA。資料によると襲撃回数306回・死者123人・負傷者51人で激ヤバなのであーる:ピエールおにいさん談)

の伝説的オオカミ!


プロの仕事を見た! プロと話した! これで死んだ!

「ジェ……ジェヴォ……」

「?」

「ジェヴォって呼んでいいか? ほらアレだ! 名前は付いてることが大切だってお前が」

命乞いする時は笑わせろって、生死をかけた話題反らしだこれが!

ジェヴォと呼ばれた獣は、口角を1mm上げてこう言った。

「ジェヴォか。いい名だ。君以外呼ぶものもないから奇妙だが」

決死の賭けは首尾よく決まり、俺はまだ生きていられるようだ。くぅぅ。


「さて、そろそろ私は行くとしよう。ああ、協力と命名の礼にこれを君に」

ジェヴォが懐から取り出したのは!

それは!

ジャ! パ! リ! コ! イ! ン! だー!!!

うぇええええへへぇえええ!

くれるのか! それ、もらっちゃっていいのかこんな貴重な物を!

俺の顔が映るくらいピッカピカのまるで作られたばっかりのようなジャパリコインに前のめった。


「本物の! ジャパリコ! イ……」

俺はジェヴォの顔と見比べて、口を噤んだ。

ジャパリコイン。それはそれは貴重なものだし、正直喉から手が出るほど欲しいさ。

でも、コイツがこれからの旅でいつか本当に必要な時に、

自分のために使うべきものなんだきっと。

きっと、もう過ぎたことに使うべきものじゃない。



だから、俺は俺にとって、もっと大切なものをもらうことにしよう。

それは奪っても奪えるようなものじゃないんだぜ。


「握手をしてほしい。友情の証として、握手をしてくれないか? 嘘でもいいんだ。

でも、俺ずっと友達いたことないし。握手したこともないんだ。だから」

視線はもうずっとどっか行ってるし、言われなくても顔真っ赤っかなのはわかってるよキー!

でも……ジェヴォは手からグラブを外して、差し出してくれたんだ。


「それで良ければ、かまわない。のけものフレンズ同士、戦いをともにした友情の証として、

喜んで君と握手をしよう」

俺たちは見つめ合ったまま、ガッチリ握手をしていた。

このまま、いつまでも離したくはなかった。


俺はジェヴォの去った後の道、ドリリアンが石化した道をずっと見つめ続け、

それから握りあった右手に目をやった。

あの瞬間が夢ではなかったことを確かめるように指を開いたり閉じたり。

無意識に笑いがこみ上げてくる自分がまた楽しくて、笑った。


「じゃあなジェヴォ。俺達は、のけものフレンズだぜ?」


to be continued...


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