読書対決~童話編

鵜川 龍史

読書対決~童話編

(ラーメンズ、「読書対決」を下敷きとして)

A:グリム童話『シンデレラ』。

B:アンデルセン『みにくいアヒルの子』。

A:シンデレラは、継母と姉たちに毎日いじめられていた。

B:みにくいアヒルの子は、周りのアヒルの子たちに毎日いじめられていた。

A:シンデレラのいじめられ方といったら、もうとんでもなくて、靴がいつの間にか両方とも右足用になってたり、靴の中敷きだけが左右逆になってたり、靴がボーリング用のシューズになっていて歩きづらかったりした。

B:みにくいアヒルの子のいじめられ方は、もうそんなの比較にならないくらいすごくて、焼き鳥屋に奉公に出されて毎日同胞殺しに加担させられたり、焼き場を任された結果羽が燃えたり、挙句の果てに自分自身が焼き鳥にされそうになったりした。

A:シンデレラのいじめられ方なんか、もうそれどころじゃなくて、掃除が終わったと思ったらサッカーの試合帰りの姉が土足で家に上がり込んできたり、洗濯物を生乾きのまま取り込まれたり、せっかく作ったシチューにオロナミンCを入れられたりした。

B:みにくいアヒルの子なんか、そんななまやさしいもんじゃなくて、「アヒルっていうか、もはや、ヒルだよね」とか言われたり、「みにくいっていうか、もはや、にくいよね」とか言われたり、「アンデルセンっていうか、もはや、出ない線で検討したいよね」とか言われたりした。

A:そんなある日、シンデレラの所に魔法使いのおばあさんが現れる。

B:ところがある日、みにくいアヒルの子は覚醒する! そう、「見にくいアヒルの子」になったのだ!

A:え、なに? 何になったって?

B:「見にくい」、っていうか、「見えにくいアヒルの子」だよ!

A:話が見えにくい。

B:うるさい! いじめられ続けて幾星霜、負の屈折率を手に入れた結果、薄汚れた灰色の羽は白く輝く光を放ち、メタマテリアル化したのだ! 光学迷彩によってステルス化したアヒルの子は、復讐の狼煙を上げた。

A:一方、シンデレラは、魔法使いのおばあさんによって巨大化した。

B:巨大化?

A:そう、巨大化。放射線の影響で。巨大化したデレラは――。

B:デレラ?

A:そう、デレラ。デレラは多摩川河口から呑川へとさかのぼり、蒲田で上陸した。

B:ちくしょう! アヒルの子はステルス部隊を全面展開。

A:しかし、デレラは突如、上体を起こし、二足歩行になってさらに北へ向けて侵攻した。

B:「CP、こちらアタッカーワン。目標が報告と違う、繰り返す目標が報告と違う!」

A:「シン・デレラ」(本を閉じる)

(B、悔しそうに地団太を踏む。A、余裕の表情。Bは再戦を申し入れ、Aはしぶしぶ受け入れる)

A:グリム童話『小人の靴屋』。

B:また、グリム童話? いいや。こっちは、イソップ寓話『金の斧』。

A:昔々あるところに、まじめな靴屋がいた。

B:昔々あるところに、まじめな木こりがいた。

A:靴屋は毎日一生懸命働いているのに、なぜだか日増しに貧乏になっていき、ついには、残り一足分の靴の材料しかなくなってしまった。

B:木こりが一生懸命木を切っていると、なぜだか妙に手汗をかいてしまい、ついには、手を滑らせて斧を泉に落としてしまった。

A:靴屋は、嘆いた。「はたらけど/はたらけど猶わが生活楽にならざり/ぢっと手を見る」(石川啄木)

B:(手を見る)うわあ、汗だくだ。

A:(嫌そうにBを見て)ところが、次の朝、作業台の上には立派な靴ができあがっていた。すると、ある紳士がやってきて、その靴を高値で買い取りたいと言った。おかげで、そのお金で二足分の材料を買うことができた。すると、翌朝には、やはり同じように立派な靴になっていた。そんなことを繰り返しているうちに、貧乏生活脱出だ!

B:それって、靴屋の腕がそれほどじゃなかった、ってことなんじゃ?

A:うるさいよ!

B:一方その頃、木こりが泉のそばで嘆いていると、泉から女神が現れ木こりに尋ねた。「あなたが落としたのは、この金の斧か、この銀の斧か」

A:金の斧!

B:強欲め! 心のきれいな木こりは、「私が落としたのはそのどちらでもございません。使い古した鉄の斧でございます」

A:手になじんだ道具は、金にも銀にも代えられないものだよね。(深くうなずく)

B:(Aを睨み付けて)女神は「あなたは正直者ですね。それでは、三つとも、全ての斧を差し上げましょう」

A:ある日、靴屋のお客が尋ねた。「この加工技術は素晴らしい。このような熟練の職人を求めているのだ。もしよければ紹介してくれないか」――靴屋は知っていた。この靴を作っているのが小人だということを。「紹介してくれれば、これだけ用意しよう」お客の立てた指の本数を見て、靴屋は息を飲んだ。翌日、靴屋は籠に入った小人を差し出した。

B:おい!

A:お客は漫画家だった。小人は、背景、モブ、トーン貼り、ベタ塗り、効果線と様々な作業をこなしていった。そのうち、小人はいくつかのページの仕上げを任されるようになった。

B:木こりが持ち帰った金と銀の斧は、その加工の素晴らしさが評判になり、ある日、アップル社の人間がやってきて言った。「その鏡面仕上げの技術は素晴らしい。ぜひ、その職人を紹介してくれないか」木こりは泉の場所を教えた。数日後には、その泉の周辺は立派な工場になっていた。

A:女神は?

B:女神は毎日毎日、iPodやiPhoneの鏡面仕上げを手がけた。そのうち、金と銀だけではなく、ローズゴールドやジェットブラックといった新色を生み出すこともできるようになった。

A:一方その頃、小人の仕事量は日増しに増えていた。やがて小人は眠れない毎日を過ごすようになった。

B:女神も、もはや限界だった。ある日、泉に潜ると、女神が二度と出てくることはなかった。

A:(対抗するように)小人も、とっくのとうに限界だった。ついには、原稿を落としてしまった。

B:あなたの落とした原稿は「多数の人物が絡み合う、あおりの構図のページ」か、それとも「広角レンズを使ったかのような、遠景の複雑な構図のページ」か。

A:私の落としたのは、その週の連載の最後を飾る、集中線・効果線使いまくりのアクションシーンのページです。

B:残念だが、原稿を「落とした」ということは、休載決定、と。(本を閉じる)

(幕)

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読書対決~童話編 鵜川 龍史 @julie_hanekawa

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