第3話

 目線の先にいる四体の巨人達。

 武器を持ち、装備もしっかりしている。

 そして、その中心にいる男は体付きも良く、密など少し力を込めただけで潰せそうだった。

 それに比べて現在の密の服装は学校の制服。武器はなし。


 巨人 VS 一般人


 まだ、ただ大きいだけの巨人のほうがマシだった。

 もしそうだったとしても、逃げ切れる自信さえ無い上に潰される未来しか見えないが。

 確実に、推定レベル1でも密が魔法やら身体強化やらを使えていたのなら、このぐらいの巨人など一撃だろう。

 だがしかし、現在密が使えるのはスキル程度である。それも、非戦闘系チートスキル。正直なところ、今のピンチに役に立つ訳もない。

 そして、目の前の巨人は全部で四体。圧倒的不利。


 そこで密は思った。


 物理的に勝ち目がないのなら、話術でどうにか出来ないか…と。

 普通は思いつかない発想だろう。しかし、密は紛うことなき日本人。争いごとにおいては自己保身が最優先である。力で勝てないのであれば、相手を味方につけてしまおうという、人間らしい発想である。勿論、自分に戦う力があったのならねじ伏せる気満々だったことは言うまでもない。

 どうにも、この体格差でも声は同じ位のサイズの人間と会話している時と同じ声量で聞こえるようだ。それは、先程聞こえた声で確認した。


 問題は、誰を相手に会話をするか、である。


 とりあえず、目の前のリーダ格の巨人は選択肢から外す。こんなに警戒されている中で話せる自信など欠片も無い。そして単純に怖い。

 密はその他の三人に視線を向けた。

 一人は美人のお姉さん。

 その隣が無表情の少年。

 最後の一人は、イケメンの…女性?だと思われる。


 誰にしようか、性別が同じ方が話しやすいだろうか、そう考えながらも観察を続けていると、不幸なことに相手側から話しかけてきた。

「お前は何者だ」

 最悪だ。迷わず選択肢から外した相手から質問されるだなんて。

 話すことへの恐怖と、質問の内容に密は思わず黙り込んだ。

 それも当然だろう。先程確認した自身のステータス。


 種族:人族 (多分)


 多分なのだ。何が原因かは謎だが、多分人族なのだ。堂々と人族です、などと言って嘘をつくのも如何なものかと思う。

 しかし、ここで返事をしないのも状況的には良くない。取り敢えずは人族と伝えることにした…が、


「ひ、人族です、………多分」


 残念なことに、密は嘘が苦手なのだった。

 当然、多分、などと付けてしまったので完全に相手は警戒している。

「人族?つくならもっとマシな嘘をつけ。こんなサイズの人族はいない。素直に本当のことを言ったらどうだ?」

 密は後悔した。何故あの時自分から話しかけなかったのか…どうして異世界に来たばかりでこんな目に合わなければならないのか……。思わず、涙が出そうになる。

 するとそこで、後ろにいた女の巨人が話に割り込んできた。

「ちょっとジン、やめなさいよ。この子泣きそうよ?それに、私達の言葉を理解して使えているじゃないの。種族なら、ステータスを見せて貰えばいいわ。ねぇ、貴方もそれでいいかしら?そうでもしないと、痛い目を見てしまうかもしれないわ」

 目の前の女の巨人の言葉通り、ステータスを見せれば納得してくれるかもしれない。納得して貰えれば、自分は無事でいられるかもしれないと少し嬉しくなった。

「ああ、見せてくれるのは種族の所だけでいいわよ?あと、偽装とかはしても分かるからやめておきなさいね」

 追加で説明までしてくれるとは、この巨人は随分と優しい。

 密は早速ステータスを表示しようとした…が、どうにもやり方が分からない。全てを共有、と書かれた場所は見つけたのだが、それでは他のところも見せてしまうことになる。仕方がない…密は目の前の巨人に尋ねてみることにした。

「あ、あの!種族だけの表示というのは、どうすればいいのですか…?」

「あら、結構知らない子っているものなのね。ステータスの種族のところを軽く押した状態で表示、のところを押すの。どう?出来そう?」

 言われた通りにステータス画面をいじってみる。すると、目の前にステータス画面が表示された。種族以外の部分は綺麗に表示されていない。勿論、多分、の部分はスキル偽装Sにより消している。偽装Sの鑑定結果には、看破でも見破られないと書いてあったので。

 しかし、密のステータスを見た四体の巨人は何故か揃って固まってしまった。もしかしたら、何か問題があっただろうか?そんな疑問を持ちながらも、相手側の反応を待つ。

 すると、リーダー格の巨人が無言でステータスを見せつけてきた。


 種族:人族


 …人族?え、人族?この巨人が?

 今度は密の思考が停止する。

「こんなに小さな人族なんて、私、初めて見たわ…」

「自分もだ。妖精様か精霊様かと思っていたのだが…まさか自分等と同じ人族だとは…」

「……驚き」

 口々に述べる言葉には驚きの感情が込められており、それぞれの視線は、まるで珍しいものを見るかのような、あまり居心地のいいとは言えない感情が込められていた。

「…人族というのはもしかして、ほぼ全てが皆さん位の大きさなのですか……??」

「そうね、今まで見てきた中では貴方くらいの大きさの人族はいなかったわ」

 認めたくない、否定して欲しい密の思いは届かず即座に肯定された。

 もう諦めて認めるしかない。

 この世界で生きると決めたのは自分だ。多少…とは言い難いが、この大きさでの利点だって沢山あるかもしれない。このくらいの事を受け入れられなければ、この世界で生きていくことなど不可能だろう。密はそう自分に言い聞かせる。


 そこでふと、称号を鑑定したときの説明を思い出した。


 :自業自得です。ガンバッテ


 密はその場に崩れ落ちた。

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異世界小人生活 涼聖 @umu

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