第2話

 密は、最初にいた草原から未だ動けずにいた。

「普通さ、こんなところに飛ばす?町の外れとかでよかったんじゃない…?」


 動けないのも当然である。どこを見ても木。どちらが北かも分からないのだから。

 そもそも、密には基礎知識はあるものの、ここはどこの国なのか、どちらの方向に町があるのかまでは分からなかった。適当に歩こうにも、草が生い茂っていて進みたくない。なんとなく理解できていることなど、通貨の価値と国の名前、魔力の使い方くらい。

 神の常識には、知らない世界へ行く少女に近くの町までの地図を渡す、と言う行為は含まれなかったらしい。


(どうにかしてこの森を抜け出さなければ…!)


 とりあえず、元の世界で散々読んできた異世界小説を参考にして、自身のステータスを確認してみることにした。どの作品でも、主人公は『ステータスオープン』と言ってステータスを確認していたので、密もそれに習って唱えてみることにする。


「『ステータスオープン』!」


 憧れていた異世界の魔法。初めての魔法に密は非常に興奮気味だったが、表示されたステータスを見て固まった。



 名前:神木(かみき) 密(みつ)

 年齢:16歳

 種族:人族(多分)

 性別:女


 レベル1

 体力:1000/1000

 魔力:測定不能

 適性:全属性


 素早さ:MAX

 力:25

 運:測定不能


 固有スキル:言語理解S、創造S、アイテムボックスS

 スキル:鑑定S、偽装S

 ギフト:神眼

 称号:世界最小の人族



 まさにチート。神様の言うとおり、これならば簡単に死ぬことはないだろう。ただ、気になるところが多々あった。


「なんで種族が『多分』なのっ!?!?どこからどう見ても人族でしょ!!」


 何か問題でもあったの!?鏡はどこだーー!!と騒がしい密であったが、確認のしようも無かったので早々に思考を放棄した。

 しかし、密はまだ知らない。こんな最強すぎるステータスを持つものは世界にただ一人であることに。そして、この『多分』が付いたのにはもう一つ理由があったことに…。



 そんなことに気がつきもせず、都合よくあったスキル鑑定で他を詳しく確認してみる。




 言語理解S:ありとあらゆる言語を理解することが出来る。知性さえあれば魔物とも会話が可能。(スキルレベル上限突破)


 創造S:多少の制限は存在するが、大体のものは魔力から創り出すことが出来る。魔力による作成のため、作成者の意思により消滅させることも可能。創り出すものによって魔力の使用量は変化する。(スキルレベル上限突破)


 アイテムボックスS:魔力量に伴って容量の増える異空間の収納。(スキル上限突破)


 鑑定S:鑑定したいものの細かい説明を視ることが出来る。生物の場合は、ステータスを見ることも可能。ギフト・神眼により、視たいと思うだけで使用可能。(スキルレベル上限突破)


 偽装S:姿かたちは勿論のこと、ステータスや物などあらゆるものを偽って見せることが可能。ギフト・神眼により看破でも見破られることは無い。(スキルレベル上限突破)


 神眼:神によるサービス。主に鑑定、偽装などのスキルを使用可能にする。また、嘘を見抜くことが出来る。普通は見えないものでも見える。


 称号:自業自得です。ガンバッテ。





 これは誰が…いや、何がこんなにも詳しく説明してくれているのか。明らかに最後のところは、そう思わせるには十分だろう。


 かつて鑑定による説明自体に棒読みで応援された者が何人いるだろうか。


 だめだ…考えても無駄な気がする…と、密はまたしても思考を放棄した。未だこの場所から出るための手段さえ思いついてはいないのに、余計なことを考えている暇はない。そして、世の中いくら考えたって分からないことはあるのだ。それが自分の周りに人より多く存在していただけだ。密はそう結論付けた。


 それよりも、早くここから移動して町でも見つけなければ日が暮れてしまう。

 内心焦っていた密は、遠くから近づいてきている足音に気が付かなかった。


「ん?この先に随分と開けた場所があるな。まだ日が暮れるまで時間がある。少し休憩していこう」

「賛成~。流石のあたしでもこんなに立て続けに魔物が出てくると疲れちゃうわ~」

「疲れたのは君がゴブリンの巣に突っ込んでいったからだよ」

「ん」

「うるさいわね!しょうがないでしょう、イライラしてたんだもの。あんなところに丁度いい規模の巣があるのが悪いのよっ」


 話し声が聞こえ、密はやっと人が近づいていることに気が付く。

 あの人達について行けば町にたどり着くかもしれない。そしてあわよくば一緒に連れて行って欲しい。などと期待しながら、密は声のするほうに視線を向けた。

「え」

「あ?」


 そこにいたのは、四人組の巨人だった。

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