異世界小人生活
涼聖
第1話
森の中にぽつんと存在する、小さな草原。そこには一人の少女の姿があった。
「え…ここどこ?」
気がついたのは森の中。そして、異様に高い周りの木。無造作に生えた草も、意外と高く伸びている。長さで言えば丁度、少女の胸の辺りだろうか。
そこで少女は思い出した。先ほど、神だと名乗る男の子に異世界へ飛ばされたのだと。
それは少女がここに飛ばされる少し
「密(みつ)ーー!!!」
誰かが少女の名を呼んでいる。クラスメートであり、少女の親友のリカである。声は激しい風の音にかき消され、少女の目には驚きと焦り、そして、絶望の色の浮かんだリカの顔だけが映った。
先ほどまでいたつり橋は、すごい勢いで少女から遠ざかっていく。
そう、少女―――
つり橋の上では先生やクラスメートが大騒ぎしていた。それも当然である。突然つり橋の床が割れて、クラスメートが下へ落下してしまったのだから。
しかし、その騒ぎとは裏腹に密は冷静なまま、重力に身を任せていた。そして、考えていた。
(つり橋があったのは地上から約50mの場所。落下するのにかかる時間は約3秒だと、さっき先生が説明していたよね?既に1分は経過しているはずだけど、未だ身体に衝撃はない。
少し時間がかかりすぎじゃない?)
そこまで考えたが、そこで密は思考を放棄した。どうせ死ぬのなら考えたって意味が無い。密が全てを諦めたとき、その肩を誰かが叩いた。
「いつまでワシを放置するつもりじゃ!いい加減目を開けんか!」
声に驚いて密が目を開けると、そこは雲の上だった。そして傍らでは、中学生くらいの男の子が地団太を踏んでいる。先ほど肩を叩いたのはこの男の子だろうか。
「えっと…ここはどこなんですか?というか、私、死にませんでした?」
「お主!いつまで経っても目覚めぬから間に合わなかったかと思ったじゃろう!!……ま、まぁ、今は意識も混乱しているだろうしのぅ…。見逃してやるわい。ワシはお主達で言う『神』というやつじゃ。そしてここは、ワシら神の住まう場所、『神界』じゃ。兎に角、いろいろと説明してやるからの、そこへお座りなさい」
密がそちらへ目を向けると、先ほどまでは何もなかったはずの場所にこたつが用意されていた。勿論、みかんとお茶も用意されている。密が腰を下ろすと、神様が話し始めた。
「さて、先ほどのお主の疑問の通り、お主は先ほど死んだ。いや、死ぬところだった、と言うほうが正しいかのぅ。元々、あそこで落ちるのはお主ではなく、隣にいたリカという娘だったのじゃ。それがどういうわけか、床が抜ける前にお主が場所を代わったじゃろう?そして案の定、お主は下へ落下してしまった。こちらとしては想定外のことじゃったから、地面に着く前にここへ呼んだのじゃ」
「じゃあ私の身体は死体として残っていないんですか?」
「そうじゃのぅ、下が川だったことが幸いして、行方不明、ということになるじゃろうな。意識を残して身体のみを戻そうにも、ここへ呼ぶのにお主の身体は消滅してしまったからの」
「そうなんですか…でも、良かったです。たとえ行方不明扱いになるとしても、リカが生き残ったのなら」
「そうは言ってもの、あの娘は元々、勇者としてある世界へ召喚される予定だったのじゃ。落下した直後に魔方陣が展開する予定だったんじゃが、あの娘ではなかったからか、反応しなくてのぅ…。いずれ、他のものと共に召喚されることじゃろう。あの娘の場合だったら、死ぬことはあり得なかった。お主は予定になかった死を向かえってしまったんじゃ」
「え…せっかく死を受け入れたのに、私の死は無意味だったんですか…」
「まぁまぁ、そう言うでない。流石にワシも哀れに思うからの、お主に選択肢を与えようと思ってのぅ。一つは、このまま魂としてお主等で言う『あの世』へ行くか。もう一つは新しい世界で生きるか。どちらがいいかのぅ?ちなみに、新しい世界というのは、あの娘が召喚される予定の異世界のことじゃ」
密は、迷わず答えた。
「新しい世界で、もう一度生きたいです」
神は、やさしく微笑んで密の頭を撫でた。正直、中身は年上でも、見た目が年下に撫でられるのは微妙な気分だった。
「そう言うと思っておった。それでじゃが、新しく身体を作成することになる。希望はあるかのぅ?性別も変えられるぞい?」
「リカに会ったときに気が付いてもらえるように前と同じでお願いします」
「承知したぞい。他に要望は無いかえ?」
「それなら、身長を小さくしてください!」
背が高いのが、地味にコンプレックスの密であった。
「任せるのじゃ。後は能力なんじゃが…あっちの世界には魔物などもいるからの、サービスで簡単には死なないようにしておいたぞい。あっちでは分からないことも多いだろうからのぅ、常識程度の知識と少々の通貨を授けよう。他に分からないことは、鑑定してみるといいじゃろう」
「ありがとうございます。あと、あの、神様のお名前はなんというのですか?」
「ワシの名か?ワシは最高神『ガノフ』じゃ!ちなみに、お主のいく世界を管理する女神は『フィーネ』じゃ。話はつけておくからのう、覚えておくと良いじゃろう」
「あともう一つ…ガノフ様のそのお姿は…?」
ガノフの見た目は密よりも幼い。話し方からしても、中身は立派な大人を通り越して偉大なおじい様くらいだろう。
「ああ、これか?これはの、お主と話すのにはこのぐらいが言いかと思い、変化させておいたのじゃ!有難いじゃろう?」
「…アリガトウゴザイマス」
そんな気遣いはいらなかったと、心から思う密であった。
「では、新しい人生を楽しんでくるのじゃぞ~」
そう言って、密は異世界――基、『フィスト』へ飛ばされたのであった。
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