第5話 日菜

ひたすらにぼーっ・・・としているように、心晴の姿があった。

思考の中は半ば決壊寸前である。


どうしよう?どうしよう?

あのノートは、明日から心晴の机の上なのだ。

あれを生きがいにして、不登校生活を続けてきたと言っても過言ではないほどに、心晴はあの存在が大切なのに。

焼けつくような視線。

どうしたって想像してしまう。

別に、虐められて不登校になったわけではない。

話しかければちゃんと返してくれるし、自分自身もそれでいい・・・と思ってきた。

でも、やっぱりほんとうは、


『友達』がほしかった。


それ以上に、両親にどう切り出せばいいのだろう?

一か月ぶりに学校に行ったら、皆どんな顔をするんだろう?

もしかして、みんな私のことなんて忘れてるんじゃないかな。

いや、理久だって実にそう物語っていたじゃないか。


焦燥感がどんどん大きくなってきて、心晴が頭を抱えると。


ただいまー、という元気な声が聞こえ、そのまま足音が近づいてくる。

カーテンで区切られた部屋の反対側も、ぱっと光が灯る。

その、カーテンが。


しゃっ。


「ぅ、うきょっ!?」


「あ、心晴!起きてたんだ、ゴメンいつも寝てるからさ。どうしたの?珍しーじゃない」


久しぶりに、姉の顔を見た気がした。

ご飯中はロクに目も合わせないし。

もう、接し方が分からなくなってしまったから。

__血がつながってないとか、もうドラマの世界なんだよ。ホントにあるなんて、思わなかった。それにまさか自分がそうだなんて、思いもしなかったんだよ…。

そう考えていると、じっと視線が下に向いた。

年子の姉_日菜ひなは、明るい声を出す。


「…元気ならそれでいーの。気にすることないって!じゃあ…」

「お姉ちゃん」


「…何?」


日菜が不思議そうに首をかしげ。

心晴は、必死に言葉を紡ぐ。


「_あっあたし、学校行く!!」


「___えっ!?ほんと!?」


「・・・う、うん」


勢いのままそう言うと、日菜は本当に嬉しそうに笑った。

その笑顔は、太陽のようにいつだって眩しい。

そしてやっぱり、心晴とは似ていない。


「よかったー。じゃあ明日は一緒に行こーね!」


「りょ、了解」


「じゃ、もうすぐ夕飯だね。後で」


「う、うん」


姉の顔が消えたのを確認し、ほっと息をつく。

まずは第一関門クリア。

でも・・・でも。

日菜は、心晴が実の妹じゃないと知っているはずだ。

なのに、なぜこんなにも優しくしてくれるのだろう。


それが_それだけが、不安でしょうがないのだ。

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時雨から、いつか。 @Umica0

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