第5話 カメラとゆき
光の向こう側は、わたしの部屋の窓の外だった。真っ白い雪原。つめたい溶ける不思議な欠片。パジャマ姿には、少し寒い。わたしはファウストをぎゅっと抱き締めて、静まり返った雪の子を見つめた。
「もとの家に帰ってきちゃった」
わたしがいつも外を眺めていた窓が見える。外から見たことなんてなかったから少しだけ変な気分になった。
「おかしいな」
ファウストも不思議そうに首をかしげて見せる。わたしのほうが聞きたいのに、ファウストはとぼけたようだった。わたしはさっき固めた決意をぽろっとはがされた気分で少しだけいやな気分になったし、拍子抜けもした。
「とりあえず家に入ろう。ここは、寒い」
わたしよりも寒がりなファウストは、パジャマのわたしよりもほんとうにさむいのだろうか。ちょっとだけムッとしたけど、ひゅるりと花畑とは違う冷たい風に文句は言えなかった。
玄関から呼び鈴を鳴らして、入ろうとする。ドアのベルが高くて手を伸ばせないでいると、上から大きなごつごつとした手が覆いかぶさった。赤くかさついた手と、写真を現像する人の酸っぱいにおい。どこかアルバムにはさんでいる写真と同じ香り。わたしは胸がドキドキしていた。
ねぇ、ファウスト。夢は叶うものって――――
おわり
パパの写真とわたしのファウスト 天霧朱雀 @44230000
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます