第2話 『温もり』

「さあ、入りなさい。今日からここが君の部屋だ」


 背中を小突かれ、ギムズ・カラスティ(五歳)はたたらを踏みながらそこに足を踏み入れた。いくら幼いといえども、ここがどこかはすぐに分かる。地下牢だ。奴隷市場にいる時もこの鉄格子の光景を見ていたから、もう見慣れた光景となりつつあった。


 ギムズが振り返ると、ギムズの御主人であるスーベル・ガリーアは踵を返し、そのまま無言でその場を後にした。


 再び振り返り、地下牢の中を見渡せばちらほらと人影があった。


 一、二、三人。恐らくギムズと同じく奴隷であろう彼らは共通して五歳前後の幼児だった。男が一人に女が二人。


 ギムズはそそくさと壁際まで歩いて、無言のまま腰を下ろした。


「お前、名は?」


 それは五歳児にしてはとても荒々しい口調だった。否、孤独と寂寥に苛まれた結果なら当然なのかもしれない。


 ふと、見ればそこには目つきの悪い男児が俯いたまま視線だけでこちらを見詰めていた。その瞬間、ぶるりとギムズの背筋に悪寒が走る。

 

 彼の眼差しは未熟なギムズを恐怖させるには十分な殺気が込められていた。殺気、五歳にして、鋼のように鋭い殺意。


「ギムズ・カラスティ」


 目つきの悪い男児の問い掛けに、ギムズはそう名乗った。

 すると目つきの悪い男児は、


「そうか」


 とだけ呟いた。


「君は?」


 今度はギムズが男児に問い掛けると、男児は舌打ち一つして。


「名はない。あったとしても、慣れ合う気もないから名乗らない」


 と冷たく返した。

 何故彼がこんなにもピリピリしているのか分からず、ギムズは小首を傾げる。

 

「綺麗な瞳……」


「え?」


 不意に声を掛けられ、ギムズは無意識のうちに声のした方を向いていた。


 ――真っ赤な髪のボブカットの少女と目が合い、ギムズの心は一瞬にして奪われた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幻想と神域のマカナアイランド ―anotherstory‘s― 歌古夜 @utauta0606

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ