惑星マトリョーシカ

墨沼かげと

惑星マトリョーシカ




 今日は人類にとって記念すべき日だ。

 宇宙探索シャトルの出発日なのである。

 ようやく今までの地道な訓練が報われる時が来たのだ。私と同じクルーの仲間たちも興奮気味に語り合っている。


 地球での資源は限られ、争いが絶えなかった。

 それに加え人間の身勝手により、自然環境は破壊され続けた。生息域を狭めるという自身の首を絞める行為をやめたのは、もう取り返しのつかない状態まで来た時点であった。

 気温は上昇し、海の生命は死に絶え、大地は放射性物質に汚染されたのだ。

 

 そんな中、希望は宇宙へと向けられた。

 居住可能な惑星を探し出すため世界は一致団結し、遠くの宇宙へと飛べるワープ技術を完成させたのだ。



 シャトルに乗り込み、発射を今か今かと待ち望む。

 好奇心を満たすためではなく、これは人類の存続を懸けた任務なのだ。先行者として必ず新天地を見つけ出さなければならない。




 シャトルが発射され、大気圏を超えて宇宙へと飛び出す。

 モニターには遠ざかる我らが青い故郷が映っていた。


「ワープに入るぞ」


 母星である地球を見て感慨深くなっている中、キャプテンの掛け声で我に返る。

 ワープの衝撃に備えて私は身構えた。




 ワープはあっという間に終わった。

 今や太陽系以外の銀河へと辿りついたはずなのだが――


「なんだありゃ……」


 目の前には茶色いデコボコの壁が宇宙一面に広がっていたのだ。



 ひとまずシャトルをゆっくりと壁に接地することに。調べてみるとどうやらそれは岩のようだ。

 

「……掘ってみるか」


 ワープしてみてその先が地中だったらマズいということで、削岩機で掘り進むことになった。

 



 高速削岩機で掘り進めてしばらく。

 水が湧き出てきた。

 無人探査機で調査しているがまるで――というよりも海そのものであった。しかし生命体は発見できずにいる。




 やがて海面へと上昇する。まるで地球のような空が広がっていた。

 

 「空気中の成分が地球と同じだ」


 空気を調べた結果、私たちがいた地球と丸っきり同じだった。


 「おい陸地が見えたぞ!!」


 見えた陸地の方に向かって進んでいく。

 すると驚くべき事実が判明した。


 「そんなバカな……」


 そう、そこは出発地であった。



 ――ここは地球だった。




 日を改めて出発し、太陽系の外へワープ。

 またしても岩の壁が立ちはだかり、削岩した先は海の中。

 浮上すれば見知った空、親しんだ港町。




 「なんてことだ……」




 宇宙の果ては地球の内側だった。

 まさにそれはロシアの民芸品人形、マトリョーシカのようだった。




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惑星マトリョーシカ 墨沼かげと @suminuma

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