すっごくね、わかるんだけど、言語化できないよね。
この感じ。
うん、これは、もう一度会いたいと思う。
それも買い物帰りで米抱えてたりとか、そういうシチュエーションで。
彼女も言語化できないほどの気持ちになるようなことをたくさん経験して、それで今の彼女がある。
主人公はそれをこれから経験するであろうという漠然とした感覚がある。
でもそれは言語化できるものじゃなくて、敢えて言うなら「正気の沙汰とも思えない」こと。
だから彼は彼女に話を聞いて欲しいし、彼女の話も聞きたい。
けど、話なんてできないんだろう。
一緒に米持って帰る、その時間の共有こそが彼には大切なんだと思う。
高校生の主人公と近所に住む同級生のお母さんが世間話をする中に、生きていくのがちょっと楽になるような、そんな言葉が潜んでいます。
ご近所だけど、普通にしていれば関わりあうことのない、別の種類の世界にいる二人。
たまたま出会ったその二人が、「関係ない」からこそ、普段は話せないことを気安く語り合えてしまう、というのがとてもリアルでした。
そこで語られる神崎さんのお母さんの言葉は、若い世代に対する理解や優しさに溢れていますが、そこには色んなことを経験してきた重みが確かにあります。
自分の人生から知った大切なことを、ちょっとずつ手渡してくれるような感じで、それによって主人公の気持ちが楽になっていく様は、読み手である自分もなんとなく救われるような感覚になってきます。
特別なことは起こりませんが、ちょっとした世間話の中に大切なことがたくさん詰まっていて、主人公がそれをしっかり受け取って、思いもよらない変化が訪れます。
ささやかで大きなドラマのある作品でした。