満月の夜

 陽が落ち、田畑に虫の音がひびく夜、着飾った葉名たちは塔へと送り出された。きらびやかな黄色の羽衣に身をつつんだ陽菜は、見送るアオジのほうを振り返った。頭からかぶらされたうす絹が月明かりに淡く溶け、ゆるやかに風にはためいている。塔へ進みゆく葉名たちは思い思いの楽器や舞具を手に、うすい笑みを浮かべ歩いている。その中でも不安げな陽菜はひとり、ひときわ幼く哀れにみえた。


「大丈夫よ」


 隣に輝夜がきて、むらさきに手をあげ指示を送った。陽菜の隣を歩いていたむらさきは、静かに頷くと陽菜を支え、前へ進ませる。アオジは塔へと歩き去る陽菜を、その姿が消えるまで見送った。部屋に戻ると、窓からは塔の全景がよく見えた。完璧な円を描く大きな月を背負い、主上のおわす塔の先端は光り輝いている。丸く大きな神鏡はここ一週間、もうずっと光りっぱなしだ。白い光が窓からさしこみ、アオジはどうにも眠れない。


 陽菜が戻ってきたら、なにを話せば──聞けばいいのだろう? 大事はないか、異常はないか。中で何があったのか。怖いことはなかったか、不安にさせて悪かったと、そう謝る資格が自分にあるだろうか。文机の前に座り、窓から塔の先端の輝きを見つめていた。あそこに葉名たちが──陽菜がいる。


 主上はどんな姿なんだろう。葉名たちと同じく人の姿で現れるのか。神はどこから、万物の源たる種子を運んでくるのだろう。

 声もなくふんわりと笑う姿が、なにも変わらなければいい。落ちるような眠りはそのまま、アオジの意識を奪っていった。

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