第8話 ルカの証言

 ルカは独房で体を丸めていた。床に血を吐いた。

「故買屋は売れないが、別のやつなら売る」

 声はしゃがれている。


「どうしてそんなことをする気になった?」

「そいつがくそったれだからさ。ヴァレンシア生まれの傭兵で、フィレンツェではペロって呼ばれてる。ここ数日、おれの周りでは噂がいくつか流れてる。スペイン人には関わらないほうがいいとか、スティンケには近づくなとか」


 スティンケは街の東にある牢獄だ。


「そいつはスティンケに入れられてるのか?」

「ああ。別の噂も聞いた。最近釈放された別のヴァレンシア人が、牢獄でやつといつもいっしょだったって話だ。それと、牢に出入りしてる、バルトロの息子でヤコポっていうフィレンツェ人。そいつは、ペロのために今言ったヴァレンシア人に伝言を届けてるらしい。あとは話すことはあまりない。あんたらがスティンケの警備を厳重にすべきだってことの他にはね」


 ルカの話が何を指しているのかは分からなかった。が、警備を厳重にすべきだという言葉が気になった。


 スペイン人らが牢獄から囚人を逃がそうとしているということだろうか。バスティアーノを見ると、彼もどうやら同じことを考えていた。


「どう思う?」

「ペロっていうスペイン人のことは知ってる。仕事場で親方の頭を殴ってしょっぴかれてきたやつだ。大暴れして、兵の手を焼かせてたから覚えてる」

「ヤコポってのは?」

「わからん」


 スティンケは債権者と罰金未納者のための監獄だ。そこに出入りする役人や業者についてはレンツォもほとんど知らないと言ってよかった。

 警察長官に報告する潮どきだった。

 ルカが示唆したようなことをペロが実際に企てているのかどうかは分からなかったが、ヴァレンシア人の傭兵が不穏な動きを見せていることは八人委員会もまだ知らないという気がした。


 すぐに関係者を連行してくれば、今日の埋めあわせができる。待っているとバスティアーノが階段を降りてきた。釈然としない顔だ。


「川で死体があがった話は聞いたか?」

「ああ」

「死体は、どうやら運搬仕事をしていたヤコポという男らしい。八人委員会の給料支払い名簿を見てみたが、そこにバルトロの息子のヤコポという男が載ってるんだ。ルカが言ったのと同じ名前だ。見つかったのは、そいつかもしれない」

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