第7話 中庭
生意気なルカをぶちのめした。
くさくさする。
しばらくほとぼりを冷まそう。
レンツォが仕事で警察長官庁舎に出入りするようになったのはここ2年だが、最初に門をくぐったのは12年前、14歳のときだ。
警官としてではなく、大人たちに連れてこられて。
近所に住んでいた、5歳年上の生意気な若造の鼻を拳で潰してやったからだ。母親を侮辱されたのが原因だった。そいつは彼の母親が働く大衆酒場〈
レンツォはその後何度も八人委員会の世話になった。体はひょろりとしていたが、腕っ節がめっぽう強く、いつも訴えられる側だった。レンツォ・ディ・ジュスティーノの名前は、政府が予算から俸給を払う職員の名簿に載るまでは暴漢・不品行者として、八人委員会の記録保管庫で埃をかぶっていた。
1人の男が中庭にいて、回廊を歩き回りながら守衛をぞんざいに呼びつけた。
「おい! 私を直ちに市民裁判官のもとへ案内したまえ!」
裁判官らは朝の会合を終えて帰ってしまったので誰も残っていなかった。
男はきちんとした黒の長衣をまとっていた。年齢30代で太り気味、顎の肉のせいで襟がはち切れそうだ。
「呼びつけておいて待たせるとはどういうつもりだね? 私は暇ではないんだ。議会に遅れてしまうではないか!」
下級役人のトニーノが通用門に現れ、別室で待っていてほしいと男に言った。男は彼に罵声を浴びせ、訪問者用の広間がある方へ大股に歩いていった。
「あれは誰なんだ?」
「パゴロ・ボンシニョーリだ。酒場で斬りつけられたんだとさ。しばらく前に騒ぎになったから、あんたも知ってるだろう」
「どこの居酒屋で?」
「〈黒獅子〉亭だよ。今日は事情聴取が行われるんだが、担当の裁判官で金細工師のジャンニ・モレッリ親方は、川であがったっていう死体を見物に行っちまった。パゴロ殿にはもうしばらくお待ちいただくとしようぜ。ああいう輩には処世訓を叩き込んでおかなきゃ」
警察長官庁舎でいう処世訓とは、袖の下のことだ。下っ端の役人に金でもつかませなければ、ここでは人並み以下の扱いを受けるということだった。
バスティアーノが扉から顔を出して顎をしゃくった。レンツォはのろのろとそちらへ向かった。
「お説教なら聞きたくない」
「説教? やつを叩きのめしてくれたおかげでおれは1ソルド払わなけりゃならないんだぞ。歯をへし折ってやる。こいよ、ルカがお前と話したいそうだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます