第6話 尋問

「あの袋はたまたま見つけたんだよ、道端で。高価そうな品だから元の持ち主に返してやらなけりゃいけないなと――」


 レンツォは自分が捕まえてきた盗人と独房で2人きりだ。

 壁には窓がない。でこぼこの床には臭くて黒っぽい水たまりがある。


「どこの通りで?」

「ラルガ通り」

「どの家だ?」

「家じゃない」

「なら、どこで盗んだ?」

「盗んでない」

「誰に売るつもりだったんだ?」


 ルカは両手を後ろにまわされ、染みだらけの木のベッドに浅く腰を降ろしている。なぜ牢を移されたのか不審に思っているにちがいない。


「言えよ」

「おれは釈放されるんだ」

「なに言ってんだ。おまえは絞首台行きだぞ」

「嘘だ。八人委員会は釈放してくれるって言った」

「連中をだますのは簡単でも、おれはごまかせないからな。市民裁判官の決定なんか撤回させてやる。けど、故買屋の名前を教えれば、このまま釈放してやってもいいと思ってる」


 ルカは黙っている。


「今、お前の家を調べさせてる。盗品が見つかったら縛り首だ」

「家には何にもないぜ」

「ならどこにあるんだ?」


 上の連中がいつ戻ってくるかは分からない。

 運が悪ければ、囚人が1名牢からいなくなっていると誰かが気づくかもしれない。

 廊下からくぐもった話し声が聞こえた。バスティアーノはレンツォがルカから情報を聞き出すほうに1ソルド賭けていた。看守の声がする――おれの勝ちだ。見ろ、やつはちんけな盗人に手を焼いてるぞ。


「よくあの宿に顔を出すんだろ? あそこの主人がお前のことを何て言ったか知りたいか? こう言ってた。お前はそこらじゅうの男に尻を売ってるって」

「ちがうね」

「縛り首にしたいわけじゃないんだ。故買屋のことを話せば黙っててやるって言ってるんだよ」

「故買屋なんて知らない」


「なあ、言ったほうがいいぞ」

「これは八人委員会の取り調べじゃないな。おれがここにいるのを誰も知らないんだろ? そうだ、これは非公式な尋問だ。裁判官に言いつけてやる。あんたがここにきたことを洗いざらい言って・・・・・・」


「痛い目にあいたいか?」


 胸ぐらをつかまれながら、男はにやついた。

「馬糞をひっかぶってるほうが、あんたはおっかなく見えるぞ」


 レンツォは顔を殴った。ルカは反対側の壁にぶつかった。倒れたところを蹴りあげたとき、看守の大声が響いて後ろから押さえつけられた。

「やめろ! やめるんだ、この馬鹿!」


 バスティアーノがルカを助け起こして顔を調べた。

 看守は激怒していた。

「何やってんだ、まったく! 話を聞くだけ? ふざけるな、癇癪を抑えるってことができないのかよ」


 レンツォは逃げ出した。

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