第53話おばあちゃんとヤクルト編①

その日、いつものようにホール業務をしていると、アルバイトの女の子達がカウンター前に集まっていた。


「どないしたんや?」

僕がその女の子達に声をかけると、そこに一人のおばあちゃんがうずくまっていた。


「足が痛いんや。歩かれへんねん。タクシー呼んでほしい。」

「病院に行った方がええんとちゃうの?」

「家まで帰ったらな、息子がおるから、なんとか家までタクシーで帰りたいねん。」


あいにくうちの店は道路に面しておらず、タクシーが入ってこれない。タクシーを呼ぼうにも、近くの道路まで行かなくてはならなかった。


「おばあちゃん、駅前のタクシー乗り場まで、僕がおんぶしていったるわ!」

「お兄ちゃんありがとう!」


おばあちゃんをおんぶした僕は、予想以上の重さに驚く。もう少し軽いと思っていた。おばあちゃんの体重をなめていた。

ずっしり重いおばあちゃんを背負って、駅前のタクシー乗り場を目指す。


「お兄ちゃん、あの店の主任さんやろ?」

「はい。そうです。」

「忙しいのに堪忍やで。」

「いいですよ。僕にもおばあちゃんくらいの歳のおばあちゃんがいたんですよ。」

「そうなん。」

「もう、だいぶ前に亡くなってしまいましたけど。」


おばあちゃんを背負いながら、自分の亡くなった祖母を思い出す。


あれは僕が小学校低学年の頃、近所のパチンコ屋におばあちゃんを迎えに行く。

「おばあちゃーん!」

おばあちゃんがいつも景品のヤクルトをくれるのだ。それが目当てだった。


「ほれ、ヤクルトやで。」

「ありがとう!おばあちゃん!」


夕暮れを背に、パチンコ屋から祖母と二人で帰る。そんな思い出。

そこから始まる、今回のお話。


過去に僕のお話には、色んな悪役が登場してきた。

パワハラの上司、

言うことを聞かない部下、

玉を持ち込む不正客、

偽物の商店会会長など。


今回のお話にも、悪役が登場する。

そう。今回の悪役は、


僕、僕自身であるのだ・・・

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