第54話おばあちゃんとヤクルト編②
小学校低学年の頃の僕の家は両親は共働きで、いつも帰りが遅かった。
祖父は僕が産まれる前に亡くなっており、祖母と両親と姉と僕の五人家族だった。
学校から帰ると、郵便受けの下にいつも家の鍵が隠してあった。その鍵で家に入るのだが。祖母はたまに鍵を置いていくのを忘れるときがあった。
「またパチンコ屋やな。」
僕はランドセルをしょったまま、近所のパチンコ屋へ行く。
祖母はいつもいた。
パチンコもスロットも大好きだった。
パチンコ屋の入り口から中を覗くと、祖母が
「ごめんな!鍵忘れてたわ!」
と鍵を持ってきた。
そこの店の主任とも顔見知り。
「おっ!お孫さん、大きくなったなー!」
主任が僕の頭を撫でてくれた。
もちろん大昔の話とはいえ、パチンコ店は18歳未満は入場禁止。
それでも当時は、祖母を探しによく行ったものだ。
たまに膝に僕を抱えてくれて、そのまま打ってたりもした。
「はい、ヤクルト。」
祖母はいつもヤクルトをくれた。僕もヤクルトが大好きだった。
「ヤクルトはな!骨を作るんや!毎日飲まないといかんで!」
厳密には、ヤクルトは乳酸菌飲料なので、腸の活性化がメイン。カルシウムが入ってないわけではないが、骨を作るのは、たぶん牛乳と勘違いしていたのだろう。
それでも祖母のくれるヤクルトを加え、パチンコ屋から祖母とよく二人で帰った。
絵に書いたようなおばあちゃん子だったな。
パチンコというものを知ったのもその時の祖母の影響。
「おばあちゃん!パチンコって楽しいの?」
「楽しいけどな。ほどほどにせなあかん。おさむも、あんまりやったらあかんで。」
あんまりやったらあかんで。と言うのに、自分は毎日行っている。
なんなんだ?このパチンコ屋とは?
子供ごころに、祖母とパチンコ屋の結び付きの強さに疑問を持った。
でも、僕はヤクルトが好きだった。
ヤクルトをくれる祖母が大好きだった。
そんな毎日。
それが僕と祖母の距離が一番近かった時期でもあった。
祖母は編み物が得意で、よく僕にセーターを編んでくれた。
「おっ!おばあちゃんの編んだセーターか!よく似合うな!」
僕がセーターを着ていると、そこの主任さんもよく声をかけてくれた。
やがて僕は中学に入り、思春期というものに突入する。
そして、だんだん、おばあちゃん子ではなくなっていってしまうのだ・・・
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