第43話囚われた芸人編④

カラオケバーに初出勤の日。


9時に行く予定だったのに、また商店会長から電話。

「9時からなら、7時くらいに会って打ち合わせしよー。」

ほんま、この人は俺がパチンコ店員しながら芸能活動してること、知ってるんか?

早番勤務の後、休憩もなく、夜7時に商店街で会長と待ち合わせした。


「おっ!おさむちゃん!赤いジャケットは?」


「カラオケバーに行ったら着ます。」


「あっかーん!この商店街のど真ん中で着て!」


「嫌です!」


「芸人が何を照れてんの!あっ!ここに、芸人の原田おさむがおる!!」


商店街の人達に聞こえるようにデカイ声をあげる。

「ほんまに、やめて下さい!」

僕は必死に会長に懇願する。

もう、この人のこういう芸人を見せ物にしたような態度、本当に嫌だった。


「ほんま、おさむちゃんは!そんなんじゃ売れんで!」


そして、会長と別れ、カラオケバーに初出勤した。

「ようこそ!赤いジャケット!よう似合ってるやん!」

会長から話を聞いていたらしく、店長もすぐジャケットをいらってきた。


「ちょっと、私の知り合いの店に一緒に挨拶に行こう!おさむちゃん!」


カラオケの店長まで、僕に馴れ馴れしくなってきた。

そのまま、店長の知り合いのお店に案内してもらう。


「みんな!今日からうちのお店で、預かる事になった芸人の原田おさむちゃん!これからうちで売り出していくから!」


店長も会長みたいな事を言い出した。

預かるってなに?売り出していくってなに?

本気で会長とプロダクション作るつもり?


「あ、はい。」


どのお店のスタッフも、ホステスも、赤いジャケット着た僕を見て、きょとん。

それが正しいリアクションだ。


なおも店長は続ける。

「おさむちゃんは、本も出してるねん。みんな買ってあげてな!」

そこのホステス、スタッフが、2、3冊買ってくれる。そしてその場の飲み代はまた、店長が全部払ってくれた。


「さあ!店に戻って頑張っていこうか!おさむちゃーん!」


なんか怖くなってきた。

本を宣伝して買ってもらえるのはありがたいが、その場の飲み代まで払ってもらって。


これって、俺の首に首輪をかけられてるのじゃないか?

俺が、このカラオケバーに来ないようになったらとか、この代償をどうするつもりなんだろう?


お店に戻ると、僕の名前が彫られたライターが200個ほど置いてあった。


お店の名前と電話番号の裏に、こう印刷されていた。

「祝!芸人原田おさむ」


店長が僕の肩をポンっと叩く。

「頑張ってな!原田おさむちゃん!」


いかん!これは、いかん!

僕の中で何かの警報が鳴りはじめた。

うまくは説明できないが、たしかに応援も支援もしてもらってるが、

何かがおかしいのだ!


とてつもない嫌悪感が頭のテッペンから、爪先まで駆け抜ける!


これは、俺を動けなくするための、重い重い鎖だ!!

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